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2018年本屋大賞受賞!辻村深月『かがみの孤城』はここがスゴイ!

年に1度、「新刊を取り扱う書店で働くすべての人」の投票によって、“いちばん売りたい本”が決定する本屋大賞。2018年大賞には辻村深月さんの『かがみの孤城』が見事選ばれました。P+D MAGAZINEでは大賞の発表前にノミネート10作品から受賞作品を予想!候補作のあらすじ紹介やレビューをあらためて振り返ってみましょう。

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6.塩田武士『騙し絵の牙』

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【あらすじ】
雑誌『トリニティ』の編集長を務める速水は、圧倒的な人たらし。売り上げが低迷する同誌を休刊させまいと、試行錯誤を続けている。派閥争い、作家との衝突に遭遇しながらも、速水は最後に、業界を揺るがすほどの決断を下す。

鎌田:俳優・大泉洋さんを“あてがき”した小説、ということで話題を読んだ作品ですね。表紙にも大泉さんの写真が大きく載っていますが、もう、この主人公の速水という男はどこからどう読んでも完璧に大泉洋ですよね。人たらしでお調子者で、誰の心もすぐに掴んでしまうくせに、どこか“裏”も感じさせる。

豊城:本当に大泉さんですよね(笑)。冒頭に、速水の印象について、

眠そうな二重瞼の目と常に笑みが浮かんでいるような口元に愛嬌があり、表情によって二枚目にも三枚目にもなる。スーツにドット柄のベストを合わせて洒落ているが、嫌味はない。

という描写がありますが、ここでもう……。仮に大泉洋という名前が出ていなくても、間違いなく彼のイメージで読み進めていただろうな、と思います(笑)。

田中:ストーリーとしては、大手出版社で雑誌の編集長を務める速水が、雑誌「トリニティ」を廃刊させまいと奮闘するという話ですね。斜陽業界とも言われる出版業界ですが、孤軍奮闘する速水とは対象的に、出版社の幹部の人間たちがあまりに姑息でいい加減で、何度も苛立ってしまいました。

鎌田:作中で描かれる出版業界の内情も、文庫が“3年連続6%台の落ち込み”といったくだりがあったりと、リアリティがあるので考えさせられてしまいますよね。自分が出版業界に身を置いていたら、速水のように居ても立ってもいられなくなるんだろうな、と想像したりもしました。

豊城:ところで、帯にも「最後は“大泉洋”に騙される!」というフレーズがありましたが、まさにラストはどんでん返しでしたね。

鎌田:「人間なんか真っ白にも真っ黒にもなられへん。みんなグレーや。いい人とか、悪い人とかいうんは、とどのつまりグレーの濃淡の話や」という小山内の台詞がストンと腑に落ちるラストでしたね。……最後のシーンの速水を演じる大泉さん、早く見たいな(笑)。

豊城:(笑)。映像化はいずれ決まるでしょうから、他の登場人物の配役を想像してみるのも楽しいですね。

 

7.原田マハ『たゆたえども沈まず』

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【あらすじ】
1886年、栄華を極めたパリの美術界に、流暢なフランス語で浮世絵を売りさばく日本人、林忠正がいた。一方で、売れない画家のフィンセント・ファン・ゴッホは、放浪の末、パリにいる画商の弟・テオの家に転がり込む。兄の才能を信じ献身的に支え続けるテオ。そんな兄弟の前に忠正が現れたとき、大きく運命が動き出す。

鎌田:『たゆたえども沈まず』は、画家のフィンセント・ファン・ゴッホとその弟をめぐる、史実にもとづいたフィクションです。僕はこれ、今回のノミネート作品の中ではベスト3に入るくらい好きかもしれません。

豊城:ラストの切なさには胸が苦しくなりましたが、私もこの作品はとても好きです。繊細で気難しく、根っからのアーティストであるゴッホと彼を支えるテオの関係は、共依存のようで痛々しい反面、羨ましくなるほどに美しいなと感じました。

田中:ゴッホの「星月夜」はタイトルくらいしか知らなかったのですが、これを読んですぐにでも実物の絵を見てみたくなりました。作者の原田マハさんはニューヨーク近代美術館などで勤務されていたキュレーターでもあるので、前回の本屋大賞ノミネート作品にもなった『暗幕のゲルニカ』もそうですが、やはり美術をテーマにした作品を書かれると輝きますよね。小説としてはもちろん、美術の鑑賞文としても一級品だと思いました。

鎌田:僕も、これを読んで西洋美術や印象派の作品により興味がわきました。「星月夜」ももともと好きな絵ではあったのですが、この物語を読む前と読んだ後では、「星月夜」がまったく違う絵のように思えます。兄弟の絆の話ではありますが、ひとりの男が生涯を賭けて大仕事をやり遂げるまでの話とも捉えられ、胸が熱くなりました。

 

8.柚月裕子『盤上の向日葵』

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【あらすじ】
山中で発見された白骨死体。遺留品の「初代菊水月作の名駒」を頼りに、叩き上げの刑事・石破と、かつてプロ棋士を志していた新米刑事・佐野のコンビは厳冬の山形県天童市に降り立つ。向かう先は、将棋界のみならず、日本中から注目を浴びる竜昇戦の会場。世紀の対局の先に待っていた、壮絶な結末とは。

豊城:叩き上げの刑事である石破と新米刑事の佐野のやりとりがなんとも軽妙で、普段ミステリーを読まない私でも楽しめました。刑事としての経験では圧倒的に先輩の石破が、将棋に関してはなにも知らず佐野に呆れられる、というバランスも絶妙ですよね。

田中:そうですね。まず、山中で見つかった白骨死体と共に600万円の将棋の駒が埋められていた……という始まり方がもうキャッチーすぎますよね。続きが気になって気になって、ひと晩で読み終えてしまいました。純粋に、秀逸なミステリー作品だなと思います。

鎌田:僕は松本清張が好きなのですが、刑事ふたりの凹凸コンビと言い、警察の捜査と殺人犯の生い立ちが交互に綴られる構成と言い、松本清張の『砂の器』を彷彿とさせるな……と感じていたら、作者の柚月裕子さんがまさに「砂の器のような作品を書きたかった」とおっしゃっていて納得しました。

豊城:他の作品もすべて、丁寧な人物描写に重きを置いている方のようですね。今後の作品も定期的に読んでいきたいな、と思わされる圧倒的な筆力が印象的でした。

 

9.村山早紀『百貨の魔法』

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【あらすじ】
時代の波に抗しきれず、閉店の噂が飛び交う老舗の星野百貨店。エレベーターガール、新人コンシェルジュ、宝飾品売り場のフロアマネージャー、テナントのスタッフ、創業者の一族が、それぞれの立場で百貨店を守ろうと、今日も売り場に立ちつづける。彼らと館内に住むと噂される「白い猫」が織りなす、素敵な物語。

豊城:前回のノミネート作品だった『桜風堂ものがたり』のときも同じことを言った気がするのですが、村山早紀さんの作品はキャラクターが分かりやすくデフォルメされていて、絵本のようですよね。

田中:そうですね。“こんな世界がどこかにあったらいいなあ”という空想を、すべて叶えてくれる作品という印象です。景色は完璧に美しく、夢は願えば叶い、悪い人はひとりもいない。リアリティがなさすぎると感じる人もいるとは思うんですが、私はこれを100%のファンタジーとして読んだので楽しめました。読み終えたあと、少しだけ周りに優しくしたくなるような作品だなと。

鎌田:なんとなく、読みながら「児童文学作家の方が書いたのかな」と想像していたんですが、村山さんはまさに児童文学作家の方なんですね。僕はこれ、素敵な世界観だなとは思うんですが、のめり込めたかと言うとそうではなかったですね……。

田中:読者を選ぶ作品ではあるかもしれませんね。ただ、作中に登場する星野百貨店の店員たちの働きぶりには、胸を打たれる人も多いんじゃないでしょうか。時代の波に押され閉店が囁かれつつある百貨店に勤務しながらも、自分たちの仕事に誇りを持ち、街と店を愛する星野百貨店の店員たちの姿は美しいなと思いました。ファンタジーとしてはもちろん、実は“お仕事小説”としても楽しめる作品だと思います。

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10.今村夏子『星の子』

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【あらすじ】
未熟児で生まれ、生後半年目には原因不明の湿疹に苦しんでいた主人公、ちひろ。病弱だったちひろを救いたい一心で、「あやしい宗教」にのめり込んでいく両親。その信仰は、少しずつ家族を崩壊させていく……。

豊城:最後は『星の子』です。2017年度上半期の芥川賞ノミネート作品でもあり、編集部の座談会でも絶賛の嵐だった1冊ですが、今回久しぶりに読み返して、やはり傑作は何度読んでも傑作だなと思いました。

田中:私も、一度読んでいるのにページをめくる手がこんなに止まらないものか、と……。

鎌田:僕は今回初めて読みましたが、やはり面白かったです。最初の数ページで不穏な空気を感じ、これはどこで爆発するんだろう? と思いながら読み進めたんですが、このモヤモヤがずっと続くと気づいたときにはゾッとしました。ツッコミ不在でボケだけが永遠に続くコントを見ているような、独特な感覚ですね。

豊城:2016年上半期の芥川賞ノミネート作座談会で同じ作者の『あひる』の話題になったとき、同作品を「劇薬入り清涼飲料水」と評したメンバーがいたのですが、『星の子』もまさにそうだな、と思います。一見、口当たりはなめらかでただの水のようなのに、その中身は、実は死に至るほどの毒という。

田中:ただ、傑作であることは間違いないのですが、読み手を選ぶ作品なのかなと。本屋大賞を受賞するイメージは、あまり湧かないかもしれません……。個人的には、作者の今村夏子さんの次回作が今から待ちきれないほど楽しみです。

 

総括

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田中:では、そろそろ総括に入りましょうか。改めて、2018年のノミネート作品を読んでみていかがでしたか?

豊城:これまでは比較的、本屋大賞というと人情味あふれるエンタメ作品が多く選出されるイメージが強かったのですが、今回はミステリー作品が多い特徴的な年だったのではないでしょうか。

個人的にはやはり今村夏子さんの『星の子』がダントツで好きなのですが、久しぶりに王道のエンタメが読めたという意味でも、さまざまな人からの人気を集めそうという意味でも、今回は伊坂幸太郎さんの『AX』が大賞ではないか、と予想しています。

鎌田:僕は、映像化で大いに盛り上がってほしいという期待も込めて、『騙し絵の牙』が大賞ではないかと思います。

田中:私も好きなのは『AX』ですが、『騙し絵の牙』が大賞を受賞して、大泉洋さん主演で実写映画化されるのが早く見たいです(笑)。

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