本との偶然の出会いをWEB上でも

書店「文喫」のブックディレクターが語る、文喫の“選書”

2018年12月、六本木にオープンした“入場料金制”の書店・文喫。話題の書店のブックディレクションを担当されたおふたりに、「文喫の選書」をテーマにお話をお聞きしました。

ブックディレクターが選ぶ、「文喫でしか出会えない10冊」

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ここからは、林さんと有地さんのおふたりに、「文喫でしか出会えない本」をテーマに選んでもらった10冊を紹介していただきます。
「文喫はいわゆる“希少本”は扱っていないので、ここで紹介するのは『どこの本屋さんにでも置けるけれど、なかなか平積みにはなっていない本』を意識しました」と林さん。文喫らしいセレクトをお楽しみください!

1.『〈ヤンチャな子ら〉のエスノグラフィー ヤンキーの生活世界を描き出す』

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有地:1冊目は、昨年12月に刊行された『〈ヤンチャな子ら〉のエスノグラフィー ヤンキーの生活世界を描き出す』(知念渉)です。“ヤンキー”と呼ばれるようないわゆるヤンチャな子どもたちが、どんな風に生活しているのかというのをエスノグラフィー(民族誌)の手法で解き明かしていく1冊です。

あんまりヤンチャをしてこなかった人から見ると、ヤンキーの人っていちばん身近な他者と言えるんじゃないかと思うんですよね。たとえば学生時代、スクールカーストで下位だった人から見るヤンキー像であるとか、陰キャ(陰気なキャラクターの人)と陽キャ(陽気なキャラクターの人)に関する分析であるとか、コンビニの前にたむろしているヤンキーはなにをしているのか……、など、ヤンキーと呼ばれる人たちのことが見えてくる本です。
彼らの実態に加え、ヤンキーという文化が世間に与えてきたイメージについても解説されているのが面白いなと思います。

2. 『ボヌール・デ・ダム百貨店―デパートの誕生』

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有地:2冊目は、『ボヌール・デ・ダム百貨店―デパートの誕生 (ゾラ・セレクション)』(エミール・ゾラ)です。『居酒屋』や『ナナ』で知られるゾラが書いた、世界で最初の“デパート小説”ですね。最初期のデパートがどういう存在であったかというのを知ることができる小説で、これを読むと、技術や経済といったさまざまなものの交差点でデパートが生まれたということがよくわかります。

僕は最近、いわゆる“ショッピングモール”に興味があって。あれって、資本主義と場所性、それに地域の特性とが噛み合ってできているものだと思うのですが、一方で都心の中心地にあるような“百貨店”とはどう違うんだろう? と考えていたんです。いまはショッピングモールと百貨店ではどちらが強い時代だろう? とか、自分自身の消費スタイルはどちら寄りだろう? とか、個人的にもいろいろなことを考えさせられた1冊ですね。

3. 『響きあう身体 音楽・グルーヴ・憑依』

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有地:3冊目は、『響きあう身体 音楽・グルーヴ・憑依』(山田陽一)。これは、音楽を楽しむ“身体”そのものを詳細に分析した本です。
たとえば、音楽を聴いて踊りたいと思っているとき身体にはなにが起こっているのかとか、ライブ会場で低音がズンズンと響いているときの身体ってどういう状態なのだろう、ということが音響人類学的な観点から書かれていて、読んでいると体がウズウズしてきます。特に面白いのは、“憑依”としての音楽体験にまで発展した分析をしている点。個人的に、この本はクラブなどで音楽を聴きながら読んでもいいなと思っています。

4. 『エクリ叢書Ⅰ―デザインの思想、その転回』

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有地:4冊目は、『エクリ叢書Ⅰ―デザインの思想、その転回』(大林寛ほか)。デザインにまつわるWebメディア、「エクリ」の記事を書籍にした1冊です。

面白いのが、デザインを視覚だけでなく哲学の視点から見ているところ。僕たちは毎日、朝起きて生活を始める時点ですでになんらかのデザインに接しているはずで、デザインされたものをひとつも通さず、生身で世界に触れることってすごく難しいわけです。そう考えると、デザインって本来はすごく射程が広いものなんですよね。

いまビジネスの世界でデザイン思考ってすごく流行っていますし、インハウスデザイナーの役割などもこれまで以上に重視されてきている流れがありますが、そこにデザインの思想や哲学をぶつけたらなにが起きるだろう、と考えさせられる1冊です。ビジネス界隈におけるデザイン思考というものを転覆させるような本だと思います。

5. 『アゲインスト・リテラシー ─グラフィティ文化論』

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有地:5冊目は、『アゲインスト・リテラシー ─グラフィティ文化論』(大山エンリコイサム)。ご自身も美術家である大山さんが書かれた、グラフィティ(スプレーなどを用いて公共の場に描かれる文字および絵)に関する批評をまとめた1冊です。グラフィティを読み解くにあたり、単にストリートアートという文脈だけでなく、既存のアートとの接続も試みているのがユニークだなと思います。

グラフィティって、歩道橋の上であるとか、「どうしてこんなところに?」と思うようなところに描かれていたりしますよね。これを読んで、グラフィティライターの目で見ると世界ってまったく違って見えるんだろうな、と思わされました。“都市”を違った視点から見るきっかけにもなる1冊なので、都市で生活するのってなんだか辛いな、と感じたときに、手にとってみてほしい本です。

6. 『「コース」の構築─人気シェフのコース料理の組み立て方』

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有地:6冊目は、『「コース」の構築─人気シェフのコース料理の組み立て方』(旭屋出版編集部・編)。その名の通り、人気シェフ12名がコース料理をどのように構築しているかについて解説した1冊です。

専門書ではありますが、飲食に関わる方だけでなく、イメージの展開のさせ方を知りたい方に広くおすすめしたい本です。たとえば、肉料理のあとにどんな料理を出すかということだけでも、口直しのような料理、色合いの違う料理、次に出るお酒に合う料理……など、さまざまな可能性があるんですよね。そういった展開を組み立てるのって、書店の本棚づくりにもつながる部分があると思うので、非常に面白く読みました。

7.『Fuck, That’s Delicious: An Annotated Guide to Eating Well』

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有地:7冊目は、『Fuck, That’s Delicious: An Annotated Guide to Eating Well』(Action Bronson)。洋書なのですが、ラッパーのアクション・ブロンソンがニューヨークのゲットーやスラムを訪ねて行き、その土地ごとの土着の料理を紹介していくという1冊です。単純に料理の写真がすごく美味しそうなのも魅力なのですが、ローカルな地域だけで食べられているものや、その食事のルーツを知ることができるのも面白いんですよね。

『被差別のグルメ』(上原善広)という、日本の中の被差別地区に住む方や少数民族の方が食べているものをレポートしたノンフィクション作品の傑作があるのですが、そのニューヨーク版とも言えるんじゃないかな、と思いました。

8. 『Sorted Books』

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林:ここからは私の選書なのですが、8冊目は『Sorted Books』(Nina Katchadourian)という写真集です。
中を見ていただくとわかるように、本の背表紙に書かれたタイトルだけをつなげて別の言葉をつくる、という言葉遊びをしている本なんです。

いままでは本ってとても静かなメディアだと思っていたんですが、何冊か集まるとこんなにもおしゃべりなんだなと感じさせられました。こういうふうに本を見てもいいんだ、と思えるようになったきっかけの1冊です。

9.『棒・数字・文字』

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林:9冊目は、『棒・数字・文字』(レーモン・クノー)です。エッセイ集ではあるのですが、クノーらしくかなり実験的な作品なので、いわゆるエッセイを想像するとちょっと驚くかもしれません。

棒も数字も文字も日常の中で当たり前に接しているものですが、それらを細かく分解していきユニークな解釈をする、というのは彼にしかできないことだなと感じます。くだらないと言えばくだらないのですが、崇高と言えばとても崇高な本だと思います。

10. 『鼻下長紳士回顧録』

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林:10冊目は、『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)です。漫画家・安野モヨコさんの最新刊なのですが、4年前に上巻が出たきりなかなか下巻が出ず、ずっと待っていたんですよね。今年1月にようやく下巻が発売になって、気づいたときに思わず「あ!」と声が出ました。

これは、パリの娼館で働く娼婦を主人公とする作品です。さまざまな欲望を持った人たちとの出会いを通じて、自分自身の欲望のありかについて考え、葛藤しながら生きる主人公の姿が描かれています。なんと言っても絵が美しく、世界観も作り込まれていて。ずっと手元に置いて読み返したくなるような1冊です。

おわりに

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「文喫」の中を実際に歩いてみると、店内のいたるところにさまざまな形で本がディスプレイされているのが目に入りました。アンティークの薬棚の中には“処方箋”のような本、天秤ばかりの上には“対”になるような2冊の本……など、遊び心のあるその意味に気づくと、ついニヤリとしてしまいます(もちろん、これらの本も自由に手にとって読むことが可能です)。

本との偶然の出会いを呼び込むための仕掛けが、店内のあらゆる場所に施されている「文喫」。ぜひ、たっぷりと時間のある休日に足を運んでみてください。

【DATA】

文喫
住所:東京都港区六本木6-1-20 六本木電気ビル1F
電話:03-6438-9120
定休日:不定休
営業時間:9:00~23:00(L.O.22:30)
アクセス:地下鉄日比谷線・大江戸線六本木駅 3・1A出口より徒歩1分
入場料:1,500円(税別)

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