本との偶然の出会いをWEB上でも

井沢元彦氏が語る! 大ベストセラー『逆説の日本史』コミック版創作秘話

シリーズ累計514万部の大ベストセラー&超ロングセラー、井沢元彦氏の『逆説の日本史』のコミック版「戦国三英傑編」が、単行本とオールカラーの電子書籍で、6月22日に発売されました。

バナー

『逆説の日本史』は、井沢元彦氏のライフワーク。初のコミック化ということで、新たに脚本も書き下ろした井沢氏にうかがいました。
コミック版は、著者扮する「いざわ歴史研究所」所長とアルバイトの女子大生ユウキ(優希)の<逆説コンビ>が、歴史の分岐点に立ち会うことによって、歴史教科書にはけっして書かれていない「日本史の真相」をひもといていきます。

本書は、P+D MAGAZINEでの連載をまとめたもの。
現在も、seasonⅡ「江戸大改革編」が絶賛連載中です。

漫画は、村上もとか氏のアシスタント経験を持つ、気鋭の漫画家・千葉きよかず氏。
「戦国三英傑」と呼ばれた織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の活躍が、歴史教科書とは違う視点で、戦国という劇的な時代を背景に、ダイナミックな筆致で描かれます。

「戦国三英傑」から始まる、『コミック版 逆説の日本史』の魅力を聞く!

コミック版で体感してほしい、新たな逆説ワールドの迫力

――以前からコミック化を考えられていたそうですね。

「私が25年以上にわたって書き続けているライフワーク『逆説の日本史』シリーズでは、今の学校の歴史教育では“本当の歴史”は分からない、そして歴史は因果関係でつながっている、ということを繰り返し述べています。
現在、単行本は23巻を数え、連載はもうすぐ1200回を迎えます。そうなると、どこから読んでいいのか分からないと戸惑う方もいらっしゃるでしょう (笑)。コミック版なら、どの時代でもとっつきやすいと思っていたんです。
だとすれば、古代から始めるよりも、一般的に人気のある戦国時代か幕末維新の時代がいいなと。幕末と戦国時代は密接につながっていますから、戦国時代から始めて、江戸時代、そして幕末維新へと進めていったほうがいいだろうと思ったんですね。
歴史ファンでなくても人気がある戦国時代からスタートすることで、より多くの読者の方に、イザワ式「逆説史観」つまり「本当の日本史」を知る醍醐味を届けられる、というビジネス的な意味合いもあります。

――なるほど。原作者自身が脚本まで書かれたわけですが、コミック化するにあたって、どんなご苦労があったのでしょうか?

「いや、苦労というより、楽しんで書きました。小説やノンフィクションをコミック化する場合、通常は原作者と脚本家が別々なのですが、この『逆説の日本史』の場合、古代から現代まで、歴史的な事件や出来事はすべて因果関係でつながっている、という通史としての全体像が理解できていないと、脚本は書けないだろうと思ったんです。これは他人任せにはできないなあと考えて、自らペンを取りました。
本書には、全部で15のエピソードが収められています。1話20ページの中に、歴史的な事件や出来事を3~4場面取り上げている配分です。
これはコミック版のまえがきにも記したのですが、歴史の法則として、<A>と<C>という史料で裏付けられる事件や出来事の間には、当然、<B>という出来事が存在したはずだと想像できるわけです。空白になっている<B>という出来事をビジュアル的に分かりやすく再現できることが、コミック版の最大の強みであり、狙いなのです。実際、漫画家の千葉きよかずさんによって、コミック版として新たな“逆説ワールド”が表現できたのは、本当に楽しい作業でした」

DSC_0105_01

――例えば、どんなシーンでしょうか?

「織田信長は天下統一を進める過程で、“ノブナガミクス”ともいうべき経済政策を進めていました。楽市楽座や関所の廃止などですが、実はこれらの政策は、庶民のために、専売などの特権を持った商人や、関銭を徴収する寺社勢力の利権にメスを入れたものなのです。
このこと自体、教科書ではまったく解説されていません。
比叡山焼き討ちは宗教弾圧と思い込んでいる読者は多いかもしれませんが、信長がやったのは、宗教ではなく宗教団体の弾圧なのです。意味がまったく違います。信長は彼らの利権を解体することで経済を活性化させたのです。
比叡山延暦寺の利権にメスを入れるという原因が<A>、焼き討ちという結果が<C>です。では、その間にどんなことがあったのか。これが<B>です。こんなシーンにしました。彼らは信長に対する不満や怒りを徐々に募らせていく。そして遂に爆発――。酒池肉林にまみれた比叡山延暦寺の僧兵たちが彼らの利権を奪おうとする信長を敵視し、『仏敵信長許すまじ!』と連呼しながら決起する。このシーンは私の想像ですが、なかなか迫力あるものに仕上がったと思います(エピソード5に収録)」

桶狭間の戦いから始まる決め台詞「ここが歴史の分岐点!!」

――コミック版の決めゼリフに「ここが歴史の分岐点!!」があります。このセリフは、歴史のつながりつまり因果関係の中で、重要なポイントに置かれているのでしょうか。

「おおむね、そうですね。脚本を書くと決心した時、歴史がテーマのコミックですから、『そのとき時代が動いた』ではないですけれど、何か決めゼリフがほしいと思っていたんです。
『ここが歴史の分岐点!!』という言葉になるまで、編集者と何度か打ち合わせして決めました。
意味合いとしては、文字通りの分岐点。いわゆる二択と考えていいと思います。“もしも逆になっていたら歴史が変わっていた”という場面です。
本書でいちばん最初に出てくる『ここが歴史の分岐点!!』は、信長が、桶狭間の戦いで今川義元を討ち取った後に、尾張に隣接する西三河の大名である松平元康(後の徳川家康)と同盟(清洲同盟)を結ぶという意志を、家臣に宣言するシーンです。
この同盟は、現代の歴史教育では、すんなり成立したと思われていますが、とんでもない。織田と松平は、父祖の代から戦ってきた間柄。信長側にも元康側にも、親兄弟を殺された家臣やその家族がいたはずなんです。
しかも松平は今川の後ろ盾を失っていたので、攻め落とすチャンスでもあった。なのに信長は同盟を結ぶというのですから、きっと家中も家臣も猛反対だったでしょう。歴史教科書では、教えないところですね(エピソード1に収録)」

――ところで、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という戦国三英傑をひとつのテーマでまとめることは難しくなかったですか。

「そうですね。歴史の教科書は時系列に沿って時代ごとに教えるので、過去に戻ったりすることはない。先ほども述べたように、過去には必ず歴史的事件や出来事の“原因”がある。ところが、“原因”という過去に立ち返る意識がなく、結果だけを暗記させるのが、今の歴史教育なんですね。
本書の場合は、戦国三英傑を同時に描いたことによって時間軸が複雑になったので、もっとも神経を使ったところです。でも、この3人をひとつのテーマでまとめた方が分かりやすいところもあります。一冊にまとまったものを読んでみると、なかなかうまくいっている。そこは、ほっとしましたね」

DSC_0115_03

――戦国三英傑のイメージも、歴史教科書とはまったく違います。

「本書のテーマのひとつでもあるのですが、『戦国時代は、どんな大名でも天下を取るチャンスがあった』という常識自体が、間違っているんです。
戦国大名の中で、本気で天下を取ろうと思っていたのは、信長しかいなかった。秀吉や家康は、信長が計画していた天下取り構想を実現したに過ぎないのです。それは何を意味するのかといえば、天皇の権威を超える、ということなんですね。
プロローグで、私が天皇の正装である束帯を着るシーンが出てきます。『この服装で強力な軍隊を率いて皇居に押しかけ、<天皇の位を井沢元彦に譲る>という詔書サインをもらった』としたら、私を天皇と認めるのかとユウキに問うんですが、『あり得な~い!!』と否定される。それはつまり、天皇家の血筋でなければ天皇になれないというのが、日本史最大のルールだからです。
日本では、天下を取っても天皇の権威を超えることはできなかった。信長だけがそれをやろうとした。どういう方法かというと、信長は自己神格化、つまり自らが神になることで天皇の権威を超えた天下人になろうとしたんです。

――信長が神になろうとしていたなんて、学校では教えられていません。

「その点も今の歴史教育のダメなところ。信長は自己神格化を象徴する建物として、極めて特異な構造の安土城を造り、天守閣ではなく『天主閣』と呼ぶ場所に住んでいました。また、『平安楽土』に通じることから命名された『安土』に建造された安土城は、新しい権威である『天主信長のための神殿』だったのです。
神になろうとしたのが信長なら、神になったのが家康。修学旅行で日光東照宮に行ったことありますか? その時に社頭でお賽銭を入れて拝んだ相手は家康なのです。家康は江戸時代を通じて『東照大権現』という神様で、庶民からも『東照神君』と呼ばれていたのです(エピソード6に収録)。大河ドラマにも出てきたことがない場面です。日本史最大のルールを超えようとする信長が、本書では、躍動感を持って描かれていると思います」

――歴史ドラマには出てこないような場面や、通説とは異なる場面も多いですか?

「多いと思いますね。信長の死後、秀吉が、信長の次男・信雄の命令という名目で、三男・信孝の母と娘を磔にして死刑にしてしまうシーンもそう。これは、史料としてはあるのですが、秀吉のイメージとはまったく違う。秀吉が主人公になるドラマでは、描きにくいじゃないですか(エピソード7に収録)。
前田家が生き残りをかけた場面も大河ドラマにはないですね。利家の妻であった芳春院まつが、関ヶ原の戦いでは、長男と次男が東軍と西軍に別れるよう次男の利政に命令する。つまり、兄弟が殺し合うことになるのだけれど、どちらが勝っても前田家は生き残る、という非情な選択を命じるエピソードです。それほど重要だと思われていないんでしょうね(エピソード12に収録)」

DSC_0110_02

実際に見てみたいのは、秀吉の「人たらし」の場面

――エピソード6で、東都大学という架空の大学で教壇に立つ教授が「信長が神だとか面白がっているイザワという作家がいるが、あれは学問じゃない」と講義で学生に語るシーンがあります。そういう話を耳にされたことはおありなのですか?

「あはは……。いやー、ファンの学生の方から聞いたんです。講義で、教授にこういうことを言われたそうです。ネットにも批判的なことを書かれたりしてますしね。まあなんというか、そういうタイプの学者は、自分の見方に縛られているんでしょう。
関ヶ原の戦いの西軍総大将・毛利輝元の大坂城からの撤退が、幕末での長州藩士の動きに影響を及ぼしている点。さらには、明治維新で長州藩が政権を担った後の文部省や帝国大学の歴史教育が、現代の歴史教科書にまでつながっていることを描いています(エピソード13に収録)。
その場面で、私は、『歴史は自由な立場で研究しなければ、本当のところはつかめない』と語っています。つまり本書には、自由な立場の私だからこそ、本当のことを記すことができたと思っています」

――コミック版のキャラクターの描かれ方は、いかがですか。

「満点です。イメージどおりですね、私以外は……(笑)。
最初に私が登場するコマに関して、「ちょっと、違うんじゃないか(笑)」と編集者に“抗議”をしたんですよ。読んでいただけると、私がそう言ったのも理解していただけると思います。あれでも、マシになったほう(笑)。まあでも、仕方ないでしょうかね。自分の分身などではなく、自分自身が出てしまったので。
よく突っ込まれるのは、武田信玄のキャラクターですね。『逆説の日本史』には、信玄は、本当は、細身で筋肉質であったのではないかという説を記しているのですが、コミック版は、従来の大柄な信玄公のイメージ。分かりやすく描いたと思ってください。
ただ、鎧や兜などの武具などに関しては、時代に応じて入念なチェックを入れました。侍がすぐ立てるようにあぐらで座っているところなども、史実に忠実に描かれていると思います」

――では、コミック版のように、実際に過去の現場に立ち会えるとしたら、覗いてみたいシーンはありますか?

「う~ん、秀吉が茶々を口説くところかなあ(笑)。あとは、コミック版では秀吉を“人たらし”の達人として描いているのですが(エピソード8、9に収録)、彼の“人たらし”のテクニックは、見てみたいですね。私の脚本のセリフは、結果から推測したもの。実際はどんな言葉を用いて“人たらし”をしていたのか、気になりますね」

――P+D MAGAZINEでも連載中の最新シーズンⅡは、「江戸大改革編」として江戸時代に入っています。その前を描いたシーズンⅠでもある本書の読みどころを、改めて教えてください。

DSC_0122_04

「エピソード13、14で、武田家の策略によって、家康の嫡男・信康が切腹をさせられるシーンを描いているんです。介錯を命じられたのは服部半蔵ですが、信康のジイのような存在だった半蔵は、介錯ができず、検分役が行なったと伝わっています。その一件をきっかけにして、家康と半蔵は、『戦わずして勝つ』という、戦いのない日本を謀略によって作っていくわけです。ただ皮肉なことに、そこから江戸幕府には、ほころびが生じてゆく。
本書にも同じような皮肉とほころびがあります。身分など関係なく、実力で天下人になれるというレールを敷いたのは信長ですが、そのレールに乗った秀吉によって、織田家は滅ぼされてしまう。同じようなかたちで、豊臣家を滅ぼしたのは、家康だという皮肉。そして、信長も秀吉も天皇を超えようとすることで、ほころびが出てしまう。本書を読んでいただければ、実感していただけると思います。
天下を取ることも歴史ですが、その天下を維持しようとしたことで、ほころびが生じて滅びるのも歴史です。その面白さをコミックという世界で表現したつもりですので、ぜひ味わってほしいと思っています」

――ドラマ化、映画化の話がきたら、どうしますか?
「う~ん、まず、やれるものなら、やってくださいということでしょうか(笑)。喜んで了承しますよ。私からの要望は、私の役はぜひイケメン俳優に、というだけでしょうね(笑)」

プロフィール

DSC_0150_06
井沢元彦(いざわ・もとひこ)
作家。1954年2月、愛知県名古屋市生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、TBSに入社。報道局社会部の記者だった80年に、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞を受賞。『逆説の日本史』シリーズは単行本・文庫本・ビジュアル版で累計514万部のベスト&ロングセラーとなっている。また、『コミック版 逆説の日本史』は小学館のPR誌『本の窓』とウェブマガジン「P+D MAGAZINE」で大好評連載中。構想15年の新たなライフワーク『逆説の世界史』を小学館のウェブサイト「BOOK PEOPLE」で連載中。

『コミック版 逆説の日本史 戦国三英傑編』詳しくはこちら>

記事一覧
△ 井沢元彦氏が語る! 大ベストセラー『逆説の日本史』コミック版創作秘話 | P+D MAGAZINE TOPへ