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ベストセラーで振り返る“平成史”

2019年5月より新元号となることから、“平成”の終わりが近づいています。数多くのベストセラー作品、起こった出来事とともに平成を振り返ります。

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2018年8月に天皇陛下が生前退位の意向を示し、30年間にわたる“平成”の終わりが近づいています。あらゆるところで「平成最後の◯◯」と銘打った振り返り企画も見られるようになりました。

そこで今回、P+D MAGAZINE編集部でも、平成の時代に話題となったベストセラーを中心に、その年にあった出来事を振り返ります。読んだことのある作品から、「そういえば話題になっていたな」と懐かしく思う作品までを紹介します。

 

“平成”の文学は、“ばなな現象”から始まった。

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【1989年(平成元年)はこんな年】

〈出来事〉
◆昭和天皇が崩御。“平成”の時代が始まる。
◆消費税法が施行。税率は3%。
◆任天堂からゲームボーイが発売され、ヒットを記録。

〈流行語〉
「セクシャルハラスメント」(新語部門・金賞)
「オバタリアン」(流行語部門・金賞)

〈ベストセラー〉
吉本ばなな『TUGUMI』
吉本ばなな『キッチン』
栗良平『栗良平作品集2<一杯のかけそば>』

〈芥川賞〉
南木佳士『ダイヤモンドダスト』、李良枝『由煕』/第100回(1988年下半期)
該当作なし/第101回(1989年上半期)

〈直木賞〉
杉本章子『東京新大橋雨中図』、藤堂志津子『熟れてゆく夏』/第100回(1988年下半期)
ねじめ正一『高円寺純情商店街』、笹倉明『遠い国からの殺人者』/第101回(1989年上半期)

 
新年が明けて間もない1989年1月7日、昭和天皇が崩御し、“平成”の時代が始まりました。同じ年、出版業界では吉本ばななブームが巻き起こります。

1989年の単行本ベストセラーランキング(出版科学研究所調べ)で『TUGUMI』が1位に輝いたほか、2位となった『キッチン』、『うたかた/サンクチュアリ』、『悲しい予感』、『白河夜船』、『パイナツブリン』など、トップ20に6作もの吉本ばななの著書がランクインする快挙を果たしました。年間ベストセラーランキングにこれほど多くの作品がランクインした作家は今も出ていないことからも、当時吉本ばななの人気がいかに高かったのかがうかがえます。

そんな吉本ばななの作品が大ブームを巻き起こしたことを、マスコミは連日「ばなな現象」という言葉で取り上げていました。そのような状況に対する複雑な思いを、吉本ばななはベストセラーランキング2位の『キッチン』が2002年に文庫化された際のあとがきで記しています。

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出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4041800080

この小説がたくさん売れたことを、息苦しく思うこともあった。
あの時代のものすごい波に飲まれてしまって、なんとなく自分の生き方までが翻弄されるような感じがした。

『キッチン』あとがきより

吉本ばななは、作品が予想を超える形で多くの人に届いたことに戸惑っていました。しかし発売からおよそ10年後、考えの変化について述べています。

おばさんになり図太くなった今となっては、「なるようになってああなったんだから、よかったところだけを楽しい思い出にしよう」「あれだけ読んでもらったんだから、ひとつの役目は果たした。もうあとは自由に、自分の好きなようにやっていいんだ」という楽しい気持ちに変わりつつある。

『キッチン』あとがきより

『キッチン』は、唯一の肉親だった祖母を亡くした主人公の女子大生が、祖母と生前親しかった青年とその母親(女装した父親)の住む家に身を寄せる物語です。主人公が辛い境遇にありながらも、祖母の死を受け入れて成長していく姿は主に若い女性の感動を誘いました。

多くの人に読まれ、さまざまな感想をもらうなか、「『キッチン』をきっかけに、この世の女の子のマイナー性が一気に花開いて表に出てきた」という友人のひと言から「隠されていた感受性が解放されたこと」に喜びを感じたという吉本ばなな。瑞々しい感性で描かれた等身大の女性の姿に共感した女性たちによって、吉本ばななの作品は愛されていたのですね。

(合わせて読みたい:【女性らしい作風で人気】吉本ばななのオススメ作品を紹介

 

“ばなな現象”に続く、“さくらももこ現象”

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【1991年(平成3年)はこんな年】

〈出来事〉
◆雲仙普賢岳で大火砕流が発生。
◆東京都庁が新宿に移転。新東京都庁舎が開庁する。
◆トレンディドラマが全盛期を迎える。

〈流行語〉
「…じゃあ〜りませんか」(年間大賞)
「火砕流」(新語部門・金賞)
「若貴」(流行語部門・金賞)

〈ベストセラー〉
さくらももこ『もものかんづめ』
シドニィ・シェルダン『血族』
山崎豊子『大地の子』

〈芥川賞〉
小川洋子『妊娠カレンダー』/第104回(1990年下半期)
辺見庸『自動起床装置』、荻野アンナ『背負い水』/第105回(1991年上半期)

〈直木賞〉
古川薫『漂泊者のアリア』/第104回(1990年下半期)
宮城谷昌光『夏姫春秋』、芦原すなお『青春デンデケデケデケ』/第105回(1991年上半期)

 

吉本ばななと親しく、家族ぐるみでの交流もあったという漫画家、さくらももこ。初のエッセイ『もものかんづめ』は、1991年度のベストセラーランキング1位に輝きました。

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出典:https://www.amazon.co.jp/dp/408747299X

前年には自身の幼少時の思い出を題材にした代表作『ちびまる子ちゃん』がアニメ化されたこと、その初代エンディングテーマ曲『おどるポンポコリン』がレコード大賞で多数の部門を独占したことで国民的な知名度を獲得していました。

そんな矢先に発表された『もものかんづめ』では、日常のささいな出来事からOLとして働いていた当時のエピソード、子供だった頃の思い出が面白おかしく語られています。誰もが経験している出来事も、独特な視点で描かれることでユーモアたっぷりの作品になる……、その魅力に多くの人が夢中になっていました。

その一方で、『もものかんづめ』に収録されている「メルヘン翁」は、祖父の死をある種のブラックユーモアを持って描いており、さくらももこの印象が大きく変わったという読者も少なくありません。

漫画『ちびまる子ちゃん』に登場する祖父「友蔵」は、ことあるごとに主人公のまる子を甘やかす、心優しいおじいさんというキャラクターです。しかし、さくらももこは実際の祖父のことを「家族の中で一番嫌っていた」とコメントするほど、良い関係ではありませんでした。

ジィさんは、死ぬ数年前からボケていたのだが、そのボケ方がどうも怪しい。知らんふりして私の貯金箱から金を盗んだり、風呂をのぞこうとしたり、好物のおかずが出たりすると一度食べたにもかかわらず、「食べてない」とトボケて食べようとしたりするのだ。

『もものかんづめ』より

家族を失った悲しみに暮れるどころか、「清々した」とまで言い切る描写に、「家族のことをそこまで小馬鹿にするのは不謹慎だ」という苦言が寄せられたとも言われています。ただ、それは最期の瞬間までも笑いに昇華させたことでもありました。時にブラックな笑いを交えながらも、思わずクスッと笑ってしまうようなさくらももこのエッセイは、これからも多くの読者に読み継がれていくのでしょう。

(合わせて読みたい:『もものかんづめ』だけじゃない。さくらももこのおすすめエッセイ8選

 

手に汗握るサスペンスに、誰もが夢中になった『真夜中は別の顔』

Young couple at home watching a movie with popcorn

【1992年(平成4年)はこんな年】

〈出来事〉
◆バルセロナ五輪が開催。
◆日本人宇宙飛行士・毛利衛が宇宙へ出発。
◆公立学校で第2土曜日を休日とする週5日制が始まる。

〈流行語〉
「うれしいような、かなしいような」、「はだかのおつきあい」(年間大賞)
「ほめ殺し」(新語部門・金賞)

〈ベストセラー〉
さくらももこ『さるのこしかけ』
村上春樹『国境の南、太陽の西』
シドニィ・シェルダン『明け方の夢』

〈芥川賞〉
松村栄子 『至高聖所(アバトーン)』/第106回(1991年下半期)
藤原智美 『運転士』/第107回(1992年上半期)

〈直木賞〉
高橋義夫『狼奉行』、高橋克彦『緋い記憶』/第106回(1991年下半期)
伊集院静『受け月』/第107回(1992年上半期)

 
バブル景気が崩壊してもなお、「景気は持ち直すだろう」と楽観的に捉える人も多かった1992年。この頃は劇作家としての経験を持ち、50歳を過ぎてから小説を書き始めたアメリカのミステリー作家、シドニィ・シェルダンの作品が大ブームを迎えていました。

シドニィ・シェルダンは、『血族』を原作にした映画『華麗なる相続人』がオードリー・ヘップバーン主演で公開されたほか、日本でも『ゲームの達人』、『女医』などがドラマ化されるなど、多くが映像化されました。

シドニィ・シェルダンの代表作としても知られる『真夜中は別の顔』は、キャサリンとノエルというふたりの女性が、数奇な運命で出会う物語です。

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誰もが羨む美貌を持って生まれるも、貧しい家に生まれたノエル。モデルになるためにパリに赴いたノエルは、休暇中だったアメリカ空軍中尉のラリーと恋に落ちますが、休暇の終わりとともにラリーは姿を消してしまいます。裏切られたうえに妊娠が発覚したノエルは、ラリーへの復讐を誓うのでした。

一方、もう一人の主人公であるキャサリンは一見真面目な雰囲気を持ちながらも「有名になりたい」という野心を抱く女性でした。

自分が誰なのかを世界中の人に知ってもらいたい、外を歩くとき、みんなから「ほら、キャサリン・アレクサンダーが歩いているよ。あの有名なーー」とうわさされる人間になりたい。ただ問題は、有名になりたいという願望だけで、どんな分野で業績を残したらいいのか、キャサリン自身もまだ分かっていないということだった。

『真夜中は別の顔』より

生まれ育った場所も価値観も異なる、ノエルとキャサリン。不思議な縁で関わりを持つようになるふたりは、やがてラリーも加わった三角関係に。その果ては手に汗握る展開につながっていきます。

『真夜中は別の顔』をはじめ、シドニィ・シェルダンの作品は主人公が波乱の運命に巻き込まれていくものが多く、怒涛の展開に惹きつけられる読者も少なくありませんでした。また、たとえ落ちぶれたとしても、意外なところから大逆転を果たす主人公の姿に爽快感を味わえるのも大きな魅力だったのでしょう。

当時はテレビ番組でも「シドニィ・シェルダン現象」として取り上げられるなど、社会現象になるほど、日本中の人が彼の作品を手に取っていました。

 

実写映画もヒット。流行語にも選ばれた『失楽園』

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【1997年(平成9年)はこんな年】

〈社会〉
◆消費税率が3%から5%に引き上げられる。
◆神戸児童殺傷事件が発生、少年犯罪の低年齢化が叫ばれる。
◆サッカー日本代表がW杯初出場を決める。

〈流行語〉
「失楽園(する)」(新語部門・大賞)
「たまごっち」、「マイブーム」など(トップテン)

〈ベストセラー〉
渡辺淳一『失楽園』
妹尾河童『少年H』
浅田次郎『鉄道員ぽっぽや

〈芥川賞〉
川上弘美『蛇を踏む』/第115回(1996年下半期)
柳美里『家族シネマ』、辻仁成『海峡の光』/第116回(1997年上半期)

〈直木賞〉
乃南アサ『凍える牙』/第115回(1996年上半期)
坂東眞砂子『山妣やまはは』/第116回(1997年上半期)

 
消費税の引き上げによる個人消費の落ち込み、バブル崩壊の影響と平成不況の時代を迎えていた1997年(平成9年)、日本で一躍ブームを巻き起こしたのは渡辺淳一による『失楽園』でした。

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『失楽園』は、1995年10月に日本経済新聞にて連載を開始。一般向け新聞連載でありながらも性描写が多く、通勤途中についつい読み入る会社員が続出したとも言われています。

物語は敏腕編集者の久木が、カルチャーセンターで書道の講師をしていた美しい人妻、凛子と知り合うところから幕を開けます。お互いに家庭を持ってはいたものの、週末毎に逢瀬を重ねていくにつれ、二人の関係は燃え上がっていくこととなるのでした。

それまでにあまりなかった“大人の不倫”を描いた『失楽園』は、1997年に実写映画化もされ、女性にも圧倒的な支持を集めました。それは久木と関係を持つ凛子の「夫からひとりの女性として見られていない」という姿に共感し、今一度誰かから深く愛されたいと願う人が多かったからなのかもしれません。

軽い弾みとともに、男が真っ先にまさぐるのは女の唇だが、すぐ思い直したように、いましがた涙が滲んだ瞼をとらえ、そこから真上へ唇を重ねる。

『失楽園』より

徐々に後戻りのできないところまでヒートアップしていくふたりの関係は、どこに行き着くのか……。当時の大人たちは、社会から孤立しながらも止めることのできない恋愛の行く末から目が離せませんでした。その人気は、1997年の流行語として「失楽園」(不倫をすることそのものを「失楽園する」とも表現)が選ばれたことでも十分証明されているのではないでしょうか。

「不倫」を描いた作品は2014年にもドラマ『昼顔』も話題となりましたが、『失楽園』はその先駆けだったのかもしれませんね。

(合わせて読みたい:小説は“濡れ場”の宝庫だ! 純文学の筆が勃ちすぎなベッドシーン【15選】

 

ドラマ、映画、漫画、舞台……さまざまな形で描かれた“セカチュー”

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【2003年(平成15年)はこんな年】

〈社会〉
◆新潟県中越地震が発生。
◆日本で新紙幣が発行(1万円札は福沢諭吉、5千円札は樋口一葉、千円札は野口英世)
◆アテネ五輪で日本人選手が37個のメダルを獲得。

〈流行語〉
「チョー気持ちいい」(年間大賞)、「新規参入」、「サプライズ」、「セカチュー」(トップテン)

〈ベストセラー〉
J.K.ローリング『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』
片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』
養老孟司『バカの壁』

〈芥川賞〉
大道珠貴『しょっぱいドライブ』/第128回(2002年下半期)
吉村萬壱『ハリガネムシ』/第129回(2003年上半期)

〈直木賞〉
該当作なし/第128回(2002年下半期)
石田衣良『4TEEN フォーティーン』、村山由佳『星々の舟』/第129回(2003年上半期)

 
アテネ五輪での日本人のメダルラッシュ、イチローのメジャー大記録などスポーツ面で日本が活躍をした2004年、「セカチュー」(『世界の中心で、愛をさけぶ』の略称)が流行語に選ばれるほどの社会現象となりました。

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出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09408097

映画のタイトルが流行語大賞のトップテンに選ばれるのは1997年の大賞だった『失楽園』と同年の『もののけ姫』、この『セカチュー』のみ。その年を象徴するほどの快挙に選ばれたのは、多くの人に愛された作品であることに他なりません。

この『世界の中心で、愛をさけぶ』は、主人公の朔太郎が、白血病により17歳で亡くなった恋人のアキとの思い出を回想する形で進んでいきます。

冒頭で既にアキが亡くなっていることが描写されているため、読者はふたりの結末を知りながら読み進めることとなります。ふたりで学級委員になり、文化祭で「ロミオとジュリエット」を演じ、夏休みに遠出をしたという思い出が、やがて永遠の別れにつながっていくという切なさは、多くの読者の涙を誘いました。

「いま重大なことに気がついた」
「今度はなに」窓の外を見ていた彼女は、億劫そうに振り向いた。
「アキの誕生日は十二月十七日だろう」
「朔ちゃんの誕生日は十二月二十四日ね」
「ということは、ぼくがこの世に生まれてからアキがいなかったことは、これまで一秒だってないんだ」
「そうなるかな」
「ぼくが生まれてきた世界は、アキのいる世界だった」
 彼女は困ったように眉を寄せた。
「ぼくにとってアキのいない世界はまったくの未知で、そんなものが存在するのかどうかさえわからないんだ」
「大丈夫よ。わたしがいなくなっても世界はありつづけるわ」
「わかるもんか」

『世界の中心で、愛をさけぶ』より

アキを失ったとき、世界が「アキのいない世界」に変化することを恐れる朔太郎。それを聞いたアキは、白血病により死の可能性がある状況でも最期の瞬間まで朔太郎を愛そうとします。

セカチュー以降、「恋人が病に侵されるも、純愛を貫き通そうとする男女の物語」が次々と生み出されます。そんな「純愛ブーム」の火付け役となった「セカチュー」は、恋愛小説界において大きな指標となった作品ともいえるでしょう。

 

純粋な親子愛に、多くの読者が号泣。

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【2006年(平成18年)はこんな年】

〈社会〉
◆第一次安倍内閣が誕生。
◆ドイツW杯、トリノ五輪が開催。
◆日本の65歳以上の人口率が世界最高を記録する。

〈流行語〉
「イナバウアー」、「品格」(年間大賞)
「格差社会」、「ミクシィ」、「ハンカチ王子」(トップテン)

〈ベストセラー〉
リリー・フランキー『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』
劇団ひとり『陰日向に咲く』
美嘉『恋空 切ナイ恋物語』

〈芥川賞〉
絲山秋子『沖で待つ』/第134回(2005年下半期)
伊藤たかみ『八月の路上に捨てる』/第135回(2006年上半期)

〈直木賞〉
東野圭吾『容疑者Xの献身』/第134回(2005年下半期)
三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』、森絵都『風に舞いあがるビニールシート』/第135回(2006年上半期)

 
携帯電話のパケット定額制の普及により、女子高生の間で話題を集めたケータイ小説の第二次ブームが起こった2006年。この年、リリー・フランキーによる小説『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』が200万部を超えるベストセラーとなりました。

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出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4101275718

母親との半生をもとにしたこの小説は、「泣き顔を見られたくなければ電車で読むのは危険」という口コミから話題となり、多くの人が手に取ることとなりました。

九州の小倉で生まれ、“オトン”の実家で育った主人公の“ボク”。しかし4歳のときに両親が別居し、やがて“オカン”とともに福岡の筑豊の炭鉱町で暮らすことになります。

15歳になった“ボク”は、オカンのもとを離れて大分の美術学校へ入学。卒業後はオカンに学費を負担してもらい、東京の美大に進学するも自堕落な生活を送るようになります。

やがてボクの仕事が軌道に乗った頃、オカンがガンを患っていることが発覚します。それを知ったボクは、オカンに東京で暮らすことを提案するのでした。

オカンは、周囲の人に思いやりを持って接し、美大で無為な日々を過ごす息子を励まし続ける人物として描かれています。

オトンの人生は大きく見えるけど、オカンの人生は十八のボクから見ても、小さく見えてしまう。それは、ボクに自分の人生を切り分けてくれたからなのだ。

『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』より

自分のことは二の次で、献身的に家族を支えるオカンに自分の母親の姿を重ねるからこそ、読者の涙を誘ったのでしょう。当時読んで涙した人は、親になってから再読すればオカンの視点でまた新たな感動を味わえるかもしれません。

 

世界規模の大人気シリーズ、完結。

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【2008年(平成20年)はこんな年】

〈社会〉
◆福田康夫首相の辞任により、麻生太郎内閣が発足。
◆リーマンショックが発生し、世界的な金融危機が起こる。
◆iPhone3Gが発売。

〈流行語〉
「グ〜!」、「アラフォー」(年間大賞)、「ゲリラ豪雨」、「あなたとは違うんです」、「蟹工船」(トップテン)

〈ベストセラー〉
J.K.ローリング『ハリー・ポッターと死の秘宝』
水野敬也『夢をかなえるゾウ』
田村裕『ホームレス中学生』

〈芥川賞〉
川上未映子『乳と卵』/第138回(2007年下半期)
楊逸 『時が滲む朝』/第139回(2008年上半期)

〈直木賞〉
桜庭一樹『私の男』/第138回(2007年下半期)
井上荒野『切羽へ』/第139回(2008年上半期)

 
フリーターや派遣労働で働く若者たちが共感したことをきっかけに、プロレタリア文学の代表作『蟹工船』がブームを迎えた2008年、『ハリー・ポッター』シリーズの7作目である『ハリー・ポッターと死の秘宝』がベストセラーとなりました。

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1作目『ハリー・ポッターと賢者の石』がロンドンで1997年に刊行されて以来、このシリーズは児童文学の枠を超えて世界中に読まれるようになりました。魔法学校ホグワーツでの日々、両親の仇であるヴォルデモートとの戦い、そしてハリー自身の成長譚とさまざまな魅力の詰まった人気シリーズは、多くの人が夢中になったことでしょう。

7作目となる『ハリー・ポッターと死の秘宝』は、ホグワーツの校長であるダンブルドアが死亡した後、魔法界を支配しようとするヴォルデモートの勢力が強くなるという絶望的な状況から幕を開けます。ヴォルデモートを倒すための旅に出たハリーと親友のロン、ハーマイオニーは、度重なる困難に直面しながらもヴォルデモートとの最終決戦に挑もうとするのでした。

屋敷しもべ妖精やお伽噺、愛や忠誠、そして無垢。(中略)こうしたもののすべてが、ヴォルデモートを凌駕する力を持ち、どのような魔法も及ばぬ力を持つという真実を、あの者は決して理解できなかった”

『ハリー・ポッターと死の秘宝』より

ハリーは、ヴォルデモートとの戦いの最中、夢と現実の狭間で亡くなったはずのダンブルドアと再会します。

両親と死別したハリー、孤児院で生まれ育ったヴォルデモートと、お互いに両親のことを深く知らない境遇ではあるものの、両者の決定的な違いは「愛情」にありました。ハリーの両親はヴォルデモートによって殺されますが、ハリーは母が命を懸けて使った「守りの魔法」によって救われます。

一方のヴォルデモートは、自らの魂を分割し、断片をあらゆる物体に保存する魔法、“分霊箱(ホークラックス)”を使っています。これは、たとえ肉体を破壊されようとも、魂の一部がある限り復活することができる不死性を得るためのものですが、これは命を懸けてでも戦ってくれる仲間が側にいなかったため、「自分しか信じられない」という気持ちの表れとも考えられます。「自分は両親にも愛されなかった」というコンプレックスは、やがて世界を脅かす存在を生じさせることとなったのです。

そんなヴォルデモートにはなく、ハリーが持っていたのは愛や忠誠、無垢であるとダンブルドアはハリーに説きます。大人気シリーズは、愛と信頼によって運命が分かれたふたりの魔法使いの戦いによって結末を迎えます。長年にわたって人々に愛されている『ハリー・ポッター』シリーズは、世界観が同じスピンオフ作品『ファンタスティック・ビースト』シリーズによって、今もファンを獲得し続けています。

(合わせて読みたい:
『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』3つのポイントとあらすじ
大ヒット最新作! 『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』を深掘り解説

 

毒舌執事の華麗な謎解きが魅力!ドラマ化・実写化もされたミステリー小説。

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【2011年(平成22年)はこんな年】

〈社会〉
◆3月11日に東日本大震災が発生。
◆FIFA女子W杯ドイツ大会でサッカー女子日本代表が初優勝。
◆地上デジタル放送に完全移行。

〈流行語〉
「なでしこジャパン」(年間大賞)、「絆」、「帰宅難民」、「こだまでしょうか」(トップテン)

〈ベストセラー〉
東川篤哉『謎解きはディナーのあとで』
岩崎夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッガーの『マネジメント』を読んだら』
齋藤智裕『KAGEROU』

〈芥川賞〉
朝吹真理子 『きことわ』、西村賢太 『苦役列車』/第144回(2010年下半期)
該当作なし/第145回(2011年上半期)

〈直木賞〉
木内昇 『漂砂のうたう』、道尾秀介 『月と蟹』/第144回(2010年下半期)
池井戸潤『下町ロケット』/第145回(2011年上半期)

 
東日本大震災が発生し、「絆」の重要性を再認識した2011年。この年のベストセラーは、東川篤哉による人気ミステリー『謎解きはディナーのあとで』です。この作品は2011年の本屋大賞でも1位に輝いていることからもうかがえるように、書店員からの圧倒的な支持を獲得しました。

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出典:http://www.shogakukan.co.jp/pr/nazotoki/vol1.html

主人公は、世界的な企業グループ「宝生グループ」の令嬢でありながら、普段は新人刑事として捜査にあたる麗子。そして麗子が直面する事件の謎を解き明かすのは、彼女に仕える執事の影山です。この作品の魅力のひとつは、ピントのずれた推理をする麗子と、容赦のない暴言を吐く影山の関係性にあります。

「ひょっとしてお嬢様の目は節穴でございますか?」

「それでもお嬢様はプロの刑事でございますか。正直、ズブの素人よりレベルが低くていらっしゃいます」

『謎解きはディナーのあとで』より

影山は麗子に仕える執事である以上、立場は麗子の方が上です。しかし、影山はそんな主人を毎回罵倒した後、麗子から聞いた情報をもとにした推理で真犯人を暴くのがお約束となっています。罵倒を受けた麗子は「クビ!」と喚くものの、見事に真犯人を言い当てる影山にいつしかアドバイスを求めるようになっていきます。

また、普段は地味な服に身を包み、うだつが上がらない上司の自慢を我慢して聞いている麗子が、帰宅後や非番の日は華やかな生活を送るわがままなお嬢様になってフラストレーションを発散させているというギャップも、麗子のキャラクター像を際立たせています。お嬢様として、そして刑事としてのプライドを執事の影山に傷つけられ、憤りながらも屈服しかない姿が、面白おかしく映るのでしょう。

コミカルでありながら、本格的なミステリーが楽しめるという、ふたつの魅力を持った『謎解きはディナーのあとで』。「探偵か野球選手になりたかった」という影山ですが、完璧な執事でありながら主人を小馬鹿にしながら謎を解く様子は、普段ミステリーに慣れ親しんでいない層も興味を持つきっかけになっていたのかもしれません。

 

人気お笑いタレントによる、初の純文学作品。

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【2015年(平成27年)はこんな年】

〈社会〉
◆北陸新幹線が開業。
◆第8回ラグビーワールドカップにて、日本が南アフリカから歴史的勝利を果たす。
◆マイナンバー制度が始まる。

〈流行語〉
「爆買い」、「トリプルスリー」(※)(年間大賞)
「一億総活躍社会」、「安心して下さい、穿いてますよ。」(トップテン)

〈ベストセラー〉
又吉直樹『火花』
渡辺和子『置かれた場所で咲きなさい』
上橋菜穂子『鹿の王』

〈芥川賞〉
小野正嗣『九年前の祈り』/第131回(2014年下半期)
又吉直樹『火花』、羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』/第132回(2015年上半期)

〈直木賞〉
西加奈子『サラバ!』/第131回(2014年下半期)
東山彰良『流』/第132回(2015年上半期)

※:野球で打率3割、30本塁打、30盗塁を同じシーズンに達成すること

 
世界体操で日本男子(団体)が37年ぶりに金メダルを獲得し、横綱白鵬が史上最多優勝を収めた2015年、ある小説が大きな話題を呼びました。それは、第153回芥川賞を受賞した『火花』。お笑い芸人の又吉直樹によるこの作品は、掲載誌「文學界」2015年2月号が増刷されたほか、単行本は2015年の年間ベストセラー1位に輝くほどの大ヒットとなりました。

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出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4167907828

『火花』はドラマ化、映画化、舞台化とさまざまなメディアミックスもされており、普段読書をしない層からも圧倒的な支持を獲得することとなります。

物語は売れないお笑い芸人、徳永が熱海の花火大会で出会った先輩芸人、神谷の芸風に衝撃を受け、弟子入りを志願するところから始まります。神谷から「俺の伝記を書くこと」を条件に弟子入りを承諾された徳永は、次第に交流を深めていきます。

漫才師である以上、面白い漫才をすることが絶対的な使命であることは当然であって、あらゆる日常の行動は全て、漫才のためにあんねん。

笑われたらあかん、笑わさなあかん。って凄く格好良い言葉やけど。あれ楽屋から洩れたらあかん言葉やったな。

『火花』より

「笑い」に対し、真摯な姿勢で追求しつづける神谷に憧れるも、次第にふたりの間には溝が生じていきます。この「笑い」に対する価値観や捉え方は、自身も芸人である著者でなければ描かれなかったのかもしれません。「笑い」に生きる、ふたりの男の「火花」のような一瞬のきらめきに、日本中が感動し、涙した1冊です。

 

平成を彩った、数々のベストセラー作品。

恋愛小説からエッセイ、ミステリー小説まで、平成のベストセラー作品はさまざまな人を楽しませ続けてきました。あらためて読むことで当時の感動がよみがえる人も、初めて読むことで新たな発見を得る人もいるかもしれません。今一度、ベストセラー作品に触れてみてはいかがでしょうか。

そして、新たな時代にはどのような作品がベストセラーになるのか、楽しみですね。

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