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【ヒプマイ、FSD……】「日本語ラップ」のルーツを知るための3冊

フリースタイルバトル番組や声優によるラッププロジェクトの登場によって、近年ブームを迎えている日本語ラップ。今回は、ラッパーのインタビューなどを通じて“日本語ラップのルーツ”を知ることができる本を3冊ご紹介します。

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近年、豪華声優陣によるキャラクターラッププロジェクト「ヒプノシスマイク(ヒプマイ)」やフリースタイルMCバトル番組「フリースタイルダンジョン(FSD)」の人気をきっかけに、“日本語ラップ”に大きなブームの波がきています。

ヒプノシスマイクやフリースタイルダンジョンを入り口に、日本語ラップやヒップホップの世界に初めて興味を持ったという方も少なくないのではないでしょうか。

今回は、そんな日本語ラップについてより詳しく学びたい方、日本におけるラップの歴史を知りたいという方に向けて、昨今の日本語ラップブームの背景と、「日本語ラップのルーツを知ることができる本」を3冊ご紹介します。

【日本語ラップブームの背景】いま、どうしてこんなに日本語ラップが流行ってるの?

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「そもそもいま、どうしてこんなに日本語ラップが流行っているの?」と疑問に思われている方も多いのではないでしょうか。

次の章でも詳しくご紹介しますが、日本語ラップというカルチャーが生まれたのは1980年代。その黎明期には、いとうせいこうや藤原ヒロシ、近田春夫といった功労者がラップを自然に日本語として取り入れた楽曲を次々と発表し、最初のブームを創りました。

1990年代に入ると、それまではあくまで一部のファンだけが盛り上がる“サブカルチャー”としての扱いだった日本語ラップ・日本語のヒップホップが、EAST END×YURIの「DA.YO.NE」スチャダラパーと小沢健二による「今夜はブギー・バック」といった曲の大ヒットによってより大衆的な人気を得ます。

そこから2000年代、2010年代になってくると、アイドルがラップパートのある楽曲を歌ったり、ミリオンセラーとなるようなポップソングにもラップが取り入れられていたりするのがごく自然なこととなります。そのような背景の中でここ数年のラップブームに火をつけた2大コンテンツが、なんと言っても「フリースタイルダンジョン」「ヒプノシスマイク」です。

「フリースタイルダンジョン」は2015年からテレビ朝日で深夜帯に放送されているMCバトル番組で、新進気鋭のラッパー(チャレンジャー)と強豪ラッパー(モンスター)がフリースタイルのラップバトルで戦い、勝ち抜くことを目指すという内容。この番組は従来からあったMCバトルというカルチャーをより人口に膾炙させるとともに、モンスターとして出演した般若晋平太R-指定など凄腕ラッパーたちの名前をよりメジャーな存在に押し上げました。

一方、「ヒプノシスマイク」は、2017年から始動した、男性声優がキャラクターに扮してラップバトルをするプロジェクト。武力による戦争が根絶され、その代わりに「ヒプノシスマイク」という特殊なマイクを用いるラップを通じた戦いがおこなわれている時代を舞台に、イケブクロ・ディビジョンやシンジュク・ディビジョンといった区画ごとに居住するチームがテリトリーの獲得を求めてバトルをするというストーリーです。

ヒプノシスマイク内の楽曲の作詞・作曲には日本語ラップ界の重鎮が多く関わっており、中でもいま特に注目を集めているのがオオサカ・ディビジョン。このエリアのチーム、「どついたれ本舗」のテーマソングである『あゝオオサカdreamin’night』の作詞・作曲を務めているのが、新世代のヒップホップユニットとして最大の人気を得ているCreepy Nuts(R-指定とDJ松永によるユニット)だということも見逃せません。

このようにして日本語ラップはいま、ファンの間でのブームを飛び越え、これまでラップに接触することがなかった層にまで支持を広げているのです。次の章からは、日本語ラップのルーツを知るための書籍をご紹介していきます。

『日本語ラップ・インタビューズ』(いとうせいこう・Zeebraほか)

日本語ラップインタビュー
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4791770277/

『日本語ラップ・インタビューズ』は、いとうせいこうやZeebra、般若といった日本を代表するラッパーたちのインタビューを通じて日本語ラップの技術と歴史を振り返る1冊です。

日本語ラップの第一人者として紹介されることも多いラッパー・小説家のいとうせいこうは、本書の中で、自分自身のラップとの出会いは1980年代に米軍放送(FEN)で耳にしたアメリカのヒップホップグループ、シュガーヒル・ギャングだと語っています。跳ねたビートと言葉の組み合わせを“祭り囃子”のようだと感じたいとうは、そこからFENで聴いた曲のモノマネやミュージシャンの藤原ヒロシとの出会いなどを通じて、徐々にラップを追求していったと言います。

1980年代初頭にもラップを取り入れた日本の歌謡曲はあったものの、そのどれもが“五七調”など、いかにも日本らしいリズムであったと指摘するいとう。そのような流れの中で、いとうが1985年に発表した楽曲「業界こんなもんだラップ」は日本語ラップにとって大きな転換点となりました。

それまでの日本のラップって、“たたたた/たたたた/たたたたた・うん”みたいな感じで、休符が入るでしょう。その瞬間に「古い」って感じる。(中略)で、オレが考えたのは、“たたたた/たたたた/たたたた・たたた”みたいな感じで、単に休符になっていたところを詰めればいいじゃんと。

とにかく、オレは五七調を消したかったよね。五七調をやっちゃうと、何て言うのかな、“企画もの”になっちゃうんですよ。そうでなくても、オレは企画ものとのキワキワのところにいたから。

いとうへのこのようなインタビューを始め、世代もバラバラな7名のラッパーたちへのインタビューが収録されている本書。2010年代にも脈々と受け継がれる日本語ラップのリズムがどのように生まれ、進化していったかの歴史を詳しく知りたい方にとっては必読です。

『私たちが熱狂した90年代ジャパニーズヒップホップ』(リアルサウンド編集部)

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出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4777817946/

1980年代が日本語ラップの黎明期であるとしたら、ラップ新世代が台頭し、さまざまなラッパーがシーンを賑わせた1990年代は“伝説の時代”。そんな1990年代に日本語ラップ・ヒップホップがどのように発展していったのかを、さまざまなラッパーや音楽レーベルのキーパーソンたちの証言をもとに考察した1冊が『私たちが熱狂した90年代ジャパニーズヒップホップ』です。

ヒップホップグループ「ライムスター」としてMummy-Dと共に活動し、ラジオDJ、クラブDJとしても支持を集めている宇多丸は本書の中で、いとうせいこうや近田春夫らが確立させた日本語ラップに対する考え方が、1990年代に大きな転換期を迎えたと語っています。

それまでの日本語ラップは、いとうさんとか近田さんのように、あくまで日本語の構造には忠実に、そこからなんとかリズムをひねり出してゆく発想か、もしくは英語でやるか、その二択しかなかった。日本語ロック論争と同じで、はっぴいえんど的であるか、フラワー・トラベリン・バンド的であるか、どっちかしかない、みたいなことだったと思うんです。それに対して僕ら以降の世代は、「いや、英語的なフロウ、リズムのほうに日本語を当てはめてきゃいいじゃん」って。

英語のフレーズが日本語のように聞こえる“空耳”的な発想で、さまざまなリリックを実験的に当てはめていくという方法論が1990年代に生まれたと宇多丸。そこからライムスターやスチャダラパーといった新たな世代によって、新しい日本語ラップの流れが作られていったと語ります。

1990年代の日本語ラップシーンについてはもちろん、その周辺にあった“渋谷系”の音楽や東京のレコード屋、ヒップホップを語る上では無視できないカルチャーであるグラフィティアートなどについての考察・インタビューも豊富な本書。第一次日本語ラップブームに湧いた90年代の空気と当時のサブカルチャーを知るためには欠かせない1冊です。

『Rの異常な愛情 或る男の日本語ラップについての妄想』(R-指定)

Rの異常な愛情
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4864942552

『Rの異常な愛情 或る男の日本語ラップについての妄想』は、DJ松永とヒップホップユニット「Creepy Nuts」として活動しているバトルMC・R-指定による人気トークイベントを書籍化した1冊です。R-指定はフリースタイルダンジョンの初代モンスターとしてもお馴染みであり、DJ松永は2019年9月、ロンドンで開催された「DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2019」で優勝し“世界一のバトルDJ”として表彰されたことも記憶に新しいのではないでしょうか。

本書は、中学生でヒップホップに出会い人生が変わったというR-指定が、自身の愛する日本語ラップのレジェンドたちの名盤やリリック、スキルを分析しつつ解説するという構成です。R-指定は一例として日本語ラップのレジェンドのひとり、DABOによる『PLATINUM TONGUE』の中の1曲のリリックを挙げ、このように分析します。

ライミングも芸が細かいんですよね。<イカクサイ妄想は良く手を洗って 寝床でどーぞ ごゆっくり 枯れ木に咲かせなティッシュの花 一方俺は女神のキスの嵐 KeepOn>みたいな、ひとつの韻のブロックに、もう1個ぐらい韻のブロックを重ねてることが多くて。かつ、音でライムをしている気持ち良さもある。

ライミング(押韻)のスキルに定評のあるR-指定。話はそこから進み、近年の日本語ラップのトレンドや、自身のラップのスタイルについても語っていきます。

一時期、日本語ラップ自体が韻の呪縛にかかった時期があったから、そっからみんななんとか脱却しようとして、韻に関して敢えて意識しないって方向性を考えた人もおったと思うんですよね。そうなったのは、ラッパ我リヤが王道の押韻を推し進めて、韻踏合組合が「聞こえ」が同じ同音意義語でライムする、いわゆる「子音踏み」を多用して韻の幅を押し広げる中で、韻の踏み方がある程度出尽くしちゃったという部分もあると思う。

もはや、微妙に踏み外すか、造語で踏んでいくかじゃないと、新しいライミングは出てけぇへんのじゃないかっていう話になってきましたね……最近は。

最近ではヒプノシスマイク オオサカ・ディビジョンへの楽曲提供をおこない、その巧みなライミングとキャッチーなメロディでも大きな注目を集めたCreepy Nuts。ヒプノシスマイクやフリースタイルダンジョンをきっかけにR-指定のラップスタイルやリリックに興味を持った方には、特におすすめしたい書籍です。

おわりに

2019年、フリースタイルを中心とするMCバトルはさまざまな番組やラッププロジェクトをきっかけに、爆発的なブームになりつつあります。それらをきっかけに日本語ラップに興味を持った方も、ヒップホップを聴いて10代を過ごしたという方も、今回ご紹介した3冊の本を入り口に、改めて日本語ラップの魅力を深堀りしてみてはいかがでしょうか。

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