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せきしろが語る、「自由律俳句」入門

又吉直樹との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』の作者であるせきしろさんに、「自由律俳句」の魅力やその作り方についてインタビュー。おすすめの句集も教えていただきました!

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柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺  正岡子規
閑さや岩にしみ入る蝉の声  松尾芭蕉

これらの言葉を声に出すとき、皆さんは意識せずとも「柿くへば/鐘が鳴るなり/法隆寺」というように、「5・7・5」のリズムに区切ってフレーズを読み上げることでしょう。
この2つは、日本人ならおそらく誰もが知っている、代表的な“定型俳句”です。

一方で、

うしろすがたのしぐれてゆくか  種田山頭火
足のうら洗へば白くなる  尾崎放哉ほうさい

これらの「5・7・5」に区切れない言葉も、れっきとした“俳句”である――と言われたら、少々戸惑いを感じる方もいるのではないでしょうか。

この2つの句は、冒頭に挙げたような“定型俳句”から「5・7・5」のリズムのルールを取り払った、“自由律俳句”と呼ばれる俳句。自由律俳句は「5・7・5」でないだけでなく、定型俳句に見られる季語「~かな」「~けり」といった切れ字を用いないのが特徴です。

「座った分だけ高くなる空」「そのチョキはなんだ」

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この“自由律俳句”、実は近年、静かなブームを呼んでいます。
火付け役となったのが、2009年に発表された『カキフライが無いなら来なかった』(せきしろ×又吉直樹)と、続いて翌年に発表された『まさかジープで来るとは』(同上)という2冊の句集。

見よう見まねのコイントスをしたばかりに
自己紹介の順番が近づいてくる
座った分だけ高くなる空

せきしろ

ポケットに五円玉いつのものか
そのチョキはなんだ
せえので潜った耳鳴りがした

又吉直樹

「あるある」と笑ってしまう句もあれば、情景がしみじみと思い出されるような句も。決まったリズム(定型)がないからこそ、読み方が文字通り“自由”に受け手に委ねられているのが、自由律俳句の魅力です。

今回は、そんな、自由律俳句ビギナーにとっての教科書にもなりつつある句集『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』の作者・せきしろさんへのインタビューをお送りします。
せきしろさん流の俳句の作り方やおすすめの句集から、初心者が作品を詠む際のポイントまで、自由律俳句にまつわるあれこれをお聞きしました!

 

せきしろさん
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作家、俳人、コラムニスト。又吉直樹との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』のほか、星野源が初主演を務めたテレビドラマ『去年ルノアールで』の原作コラムの生みの親であり、同作の脚本も手がけた。近著に『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』。

自分には定型よりも、どうやら自由律俳句が合っているなと思った

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――まずはせきしろさんが、自由律俳句と出会ったきっかけを教えてください。

せきしろ:もともと、定型俳句が好きだったんですよね。祖母が俳句を詠む人だったので、それを小さいころから見ていたこともあって。

特に、正岡子規の「雪残る頂一つ国境」という俳句を最初に読んだときに、情景がパッと頭に入ってきて、これはすごいぞと思って。自分が北国生まれというのもあるかもしれないんですが、情景がすぐに見える感じに憧れました。実は、最初は定型俳句をやってみたかったんですが、なかなかうまくいかなくて。

自由律俳句の存在を知ったのは、高校の国語便覧か何かでだったと思います。尾崎放哉の、有名な「咳をしても一人」という句が載っていて。19歳くらいのときから自分でも俳句を作り始めたんですが、いざやり始めたら、僕にはどうやら自由律俳句が合っているな、と。


――どのような点で、自由律俳句のほうが合っていると感じたのでしょう?

せきしろ:5・7・5のセンスがないんじゃないですかね(笑)。定型って「切れ」がなきゃいけないとか、ルールがいろいろあるんですが、覚えられなくて(笑)。

――では、それからはずっと自由律俳句を?

せきしろ:そうですね。又吉くんと会って、2人で俳句を本にまとめるまでは、ずっと1人で細々と自由律を詠み続けていて。(自著の帯を見ながら)……「芥川賞受賞」ってこれ、僕が芥川賞とったみたいになっちゃってますよね(笑)。

「そうか、嫌いな人の影も長くなるんだな、と思って」

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――句集『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』の中で、ご自分で気に入っている俳句はありますか?

せきしろ:僕、自分で書いたやつ読まないんですよ、恥ずかしくて。うーん……いっぱいあってよく分からないですね(笑)。ああ、でも、真面目にちゃんと書いてて偉いな、いま読むと。

――(笑)。ではたとえば、本のタイトルにもなっている「まさかジープで来るとは」。この俳句は、どのようにして生まれたのでしょうか。

せきしろ:これ、実話なんですよね。友達が車で迎えに来るって言うから待ってたらジープで来て。一見ジープに乗るようなタイプじゃなかったので、すごくびっくりしたんですよ。僕も横に乗らなきゃいけなくて恥ずかしかったっていう……。なので、その驚きをそのまま詠んでますね。

自由律は基本、ネタ探しみたいなことをするわけではなくて、ぱっと思いついたときに作っています。スマホにメモしたりして。基本的には即興で作って、場合によってはあとから形を整えたり、ですかね。

――「形を整える」、というのは?

せきしろ:たとえば、「喉飴5秒で粉々」という句。僕はこの俳句を作ったときに、「喉飴」ではなく、「粉々」の部分を一番見てほしいと思ったんですよね。そこに集約したい、というか。なので、あえて語尾を体現止めにした記憶があります。

――なるほど。では、こちらの句はどうでしょう。「カバーはいらないと言ったのにしてる店員の手」。

せきしろ:そう、これは、「店員の手」まで書く必要ないでしょ、と思う人もいると思うんですよ。「カバーはいらないと言ったのにしてる店員」だけでも、なんなら「カバーはいらないと言ったのにしてる」だけでも成り立つかもしれない。けど、僕はこの句を作ったとき実際に「店員の手」を見ていたので、この語尾にしたわけです。好みの問題でもありますが、視点が広いところから狭いところへ集約される感じが好きなんですよね。

――ちょっと異色の作品だなと感じたのが、「嫌いな人の影も長くなる夕方」です。「嫌い」という感情がダイレクトに俳句の中に入っているのは、せきしろさんの句の中では珍しいですよね。

せきしろ:そうですね。こういうのもたまに読むんです(笑)。好きな人の影が長くなるのは普通なんですけど、そうか、嫌いな人の影も長くなるんだなと思って。……いや、「好きな人の影も」のほうが、売れるとは思うんですけどね。それはわざわざ俳句にはしないというか。

“意図的じゃない”けれど共感できる――『鍵の穴』『鳩を蹴る』(きむらけんじ)

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――今回は、せきしろさんおすすめの俳人の句集もお持ちいただきました。ご紹介いただけますか。

せきしろ:きむらけんじさんという方の句集を2冊持ってきました。もともと定型俳句を作られていて、のちに自由律に行かれた方だったと思います。

眠れぬ夜のかさぶたを剥ぐ
空までは飛べぬ飛魚の目玉を覗く
昼寝の顔を犬にまたがれる

……どれも、自分の気持ちを必要以上に入れず、情景だけを詠んでいるのが好きですね。情景だけしか書かれていないはずなのに、そこに共感できる部分がある。意図的じゃないというか。

――「意図的じゃない」というのは、どういうことでしょうか?

せきしろ:うーん……作ろうとして作ってる感じがしない、というか。作ろうとして作ってる、狙ってるものって、分かっちゃうんですよね。

自由律俳句のことを「単なるあるあるじゃん」と思う人もいるかもしれないんですが、僕は、「俳句を書くんだ」と思って書かれた作品は自由律俳句だと思っていて。逆に言うと、「俳句を書くんだ」という気持ちで作っていない、ウケを狙ったような作品は、一読すれば分かります。共感されるような「あるある」を書くこと自体は、簡単なので。

自由律俳句を作るには、まずは定型俳句を知ること

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――いま、「俳句を書く」と思って作る、というお話が出ましたが、ほかにも初心者が自由律俳句を詠む際のポイントはありますか?

せきしろ:たぶん、そもそも定型俳句を知らないと自由律俳句は作れないと思います。
自由律俳句ってそもそも、定型俳句のルールから自由になるために“律”(リズム)を除いたものなので、ある程度は定型俳句も知らないと、既存の俳句の真似になっちゃうんじゃないかなと。

僕も定型俳句は有名な俳人の作品くらいしか知らないんですけど、芭蕉とか子規とか、定型をサラッとでも勉強することで、自分の中で「俳句」がどういうものかが少しずつ分かってくるんじゃないか、と思います。

――せきしろさんは『カキフライが無いなら来なかった』のあとがきの中で「単なるあるあるではないか、ただのネタではないか、そんなふるいにかける」と書かれていましたが、やはり「ふるいにかける」作業が重要なのでしょうか。

せきしろ:そうですね……いま、投稿してもらった自由律俳句の選考をしたりもしてるんですが、どんどんメールで送れてしまうので、自分の中できちんと咀嚼したり、精査をしたりという過程を飛ばしちゃう方が多いんですよ。思いついて終わり、というのではなく、一度、自分でふるいにかけてみてほしいですね。

絶対的な判断基準があるわけではなく、何がいい俳句かはあくまでその人次第なので。“自分らしいか、自分らしくないか”みたいなことを、作ったあとに改めて考えてみるといいと思います。

おわりに

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どのような瞬間に自由律俳句が生まれるのか? ――そんな質問をすると、「たとえばこの暑い時期に、ダウンジャケット着てる人がいるとする。それって、先取りして“もう”着てるのか、寒い時期から“まだ”着てるのか、気になりますよね。そういう違和感を形にしたくなった瞬間かもしれません」とせきしろさん。ネタ探しこそしないものの、「創作のスイッチは常に入れている状態」と話してくれました。

普段は見過ごしてしまうような、ちょっとした違和感や嬉しさ、苛立ち……。そんな感情に目を向けて、皆さんも自由律俳句を作ってみてはいかがでしょうか。

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