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【クイズで学ぼう!】「ノックスの十戒」って? 書き手なら知っておきたい推理小説のルール

推理小説には、「ノックスの十戒」「ヴァン・ダインの二十則」と呼ばれる執筆の際のルールが存在します。今回はそのルールをご紹介するとともに、本格推理作家たちがルールを守った上でどんな作品を創作しているかを、クイズ形式で出題します!

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【Q1】密室のベッドの上で“餓死”した男の真相は? ――ノックス『密室の行者』

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【密室の行者】ストーリー
秘密探偵マイルズ・ブレドンは、大手保険会社からある事件の真相を推理してほしいと依頼される。心霊的、神秘的な実験に凝っていたジャービソンという風変わりな億万長者が、自分で鍵をかけた密室に実験として10日間籠もり、ベッドの上で餓死したという。
ジャービソンは“兄弟”と呼ぶ4人のインド人たちと同居しており、亡くなった場合、彼らに保険金が行くようになっていた。ブレドンは、これはインド人たちの手による殺人事件だと確信する。

【クイズ】

4人のインド人たちがジャービソンを“餓死”に至らしめたトリックとは?

 

【推理する上でのポイント】

・ジャービソンは普段から“実験”として密室に籠もることがよくあった
・ジャービソンは、部屋の中央に置かれた滑車つきの移動式ベッドの上で死んでいた。部屋の壁際には食料棚があり、中には2週間分の安全な食料が用意されていた
・ジャービソンが死んでいたベッドには、動かされた跡があった
・ジャービソンが籠もった密室は、500ヤードはある広い空間だった
・その部屋はかつて体育館だった名残りで、天井の四隅に綱を下げられる鉄の輪がついており、大きな天窓があった
・ジャービソンは高所恐怖症だった

 
 

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【答え】

インド人たちは、ジャービソンが部屋に籠もる前に睡眠薬を飲ませていた。やがてジャービソンが密室のベッドの上で眠ってしまうと、インド人たちは4人で部屋の屋根に上り、天井の四隅から綱を下ろしてベッドの足に引っかけ、一気に引き上げた。つまり、ベッドは宙吊りにされていた
やがて目を覚ましたジャービソンは、ベッドから下りられなくなり、10日間後に餓死。インド人たちは再び屋根に上り、宙吊りにされていたベッドを床に下ろした。

【解説】

“宙吊りにされていた”という驚くべき結末。材料は目の前にすべて揃っているのに、「そうきたか!」と思わされてしまう展開です。密室の中での餓死という興味深い死因に、意外かつ大胆なトリック。“フェアプレー”を提唱したノックスらしい、本格推理小説のお手本と言える作品です。

【Q2】“赤毛”の人物だけが、高い給料で雇われる理由とは? ――コナン・ドイル『赤毛連盟』

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【赤毛連盟】ストーリー
名探偵ホームズと助手ワトソンの元に、ロンドンで小さな質屋を営む依頼人が相談にやってくる。彼は燃えるような赤毛をしている。

依頼人は、1ヶ月前に雇ったばかりの自分の店の店員から「赤毛連盟に欠員が出たので、それを補ってほしい」という奇妙な求人広告を見せられる。彼に薦められるままに“赤毛連盟”の事務所に向かうと、そこには求人広告の高い給料に惹かれて、ロンドン中の赤毛の人物たちが集まっていた。しかし赤毛連盟の代表者は、依頼人を見るなり「あなたのように燃え盛るような赤毛を見るのは初めてだ」と喜び、依頼人を連盟員に選ぶ。

連盟員となった彼は、毎日事務所に通い、百科事典の文字を1つひとつ書き写すという無意味な仕事だけで高給を貰うようになる。しかしある日、彼がいつものように出勤すると事務所は閉鎖されており、「赤毛連盟は解散した」という張り紙だけがドアにあった。ホームズは、この奇妙な事件の真相を推理する……。

 

【クイズ】

“赤毛連盟”の目的とは? そして、このあとに起こるであろう事件とは?

【推理する上でのポイント】

・依頼人は赤毛連盟に加入して以来、毎日決まって4時間は事務所の中で働かされていた
・「百科事典を書き写す」という作業自体には実際はなんの意味もなかった
・依頼人は赤毛連盟に不信感を覚えつつも、高い給料のために通い続けていた
・依頼人が営む質屋の隣には銀行がある

 
 

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【答え】

依頼人に赤毛連盟を薦めた質屋の店員と赤毛連盟の代表者が結託して、質屋の地下から銀行につながるトンネルを掘っていた。“赤毛連盟”など実際は存在せず、2人の犯罪者が銀行強盗のための準備をしていたのだ。
2人は、銀行につながるトンネルを完成させるまでのあいだ、依頼人を質屋から遠ざけるために事務所に通わせていた。突如赤毛連盟が解散したのは、トンネルが開通し、依頼人を通わせる必要がなくなったため。
ホームズとワトソンは、相談を受けた翌日に銀行の地下室で待ち伏せをして、無事に犯人2人を捕まえた。

【解説】

選ばれた“赤毛の人物”だけが加盟できる連盟の正体とは? ――そんなまるで予想のつかない謎が、「毎日決まって事務所に呼ばれる」「質屋の隣には銀行がある」といった要素によって少しずつ解き明かされていく、謎解きの醍醐味を味わえるような作品です。
作者のコナン・ドイル自身は、1927年に『ストランド・マガジン』に発表した自選12選の中で、この作品を「独創性がある」として2位に選んでいます。

【Q3】少女の失踪後、男が木を切り倒し続ける理由とは?――ダンセイニ『二瓶のソース』

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【二瓶のソース】ストーリー
金持ちの少女が、バンガローでステイガーという男と5日間暮らしたあと、突如姿を消した。当然、警察はステイガーが関与していると考えるが、彼はしらを切る。ステイガーはなぜか、少女が失踪してから「ナムヌモ」という肉料理用のソースを2瓶も買い、日課のようにバンガローの庭の木を1本ずつ切り倒し始める。警察が捜索しても少女は見つからず、当然、遺体も検挙されない。果たして、少女はステイガーに殺されたのか?

【クイズ】

ステイガーが、毎日1本ずつ庭の木を切り倒す理由とは?

 

【推理する上でのポイント】

・ステイガーはベジタリアンだと言い張り、少女が失踪してから実際に野菜ばかりを買っていた
・「ナムヌモ」は野菜とは相性が悪く、肉料理にしか向かない
・ステイガーは、切り倒した木を薪にして、庭に毎日積み上げていた

 
 

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【答え】

(殺した少女を少しずつ食べるために)毎日決まって運動をすることで、食欲をつけるため。

【解説】

この作品の中では、最後まで「ステイガーが少女を殺し、その肉を食べている」ということは明言されません。しかし、毎日野菜しか買わないのに肉用のソースを購入している、木を切り倒している……といった奇妙な要素が合わさって、ゾッとするような読後感を生み出しています。
推理小説の評論も数多く残した日本の代表的な推理作家・江戸川乱歩は、この作品を「奇妙な味」(SFやミステリーが混ざった怪奇小説)の推理小説の代表作として挙げています。

おわりに

かつて江戸川乱歩賞の選考委員も務め、本格推理小説を支持していた文芸評論家・荒正人は、「ノックスの十戒」「ヴァン・ダインの二十則」といった推理小説のルールについて、こんな風に評しています。

フェア・プレイはあくまで守られなければならぬが、守り方は、決して杓子定規である必要はない。ヴァン・ダインやノックスのあげた戒律は、仮の定めにすぎない。ヴァン・ダイン自身も、自分の戒律を守ってはいない。要するに、フェア・プレイは、形式においてではなく、精神において守られなければならぬ。
『推理小説のエチケット』より

荒が述べているように、ノックスもヴァン・ダインも(そしてレナードも)、自分の定めたルールを自らの作品内でしばしば破っていたとされています。
しかし、小説作法というある一定の制限を設けることで、魅力的なトリックや破天荒なストーリーが生まれるのも事実です。
推理小説の執筆に挑戦してみたいという方は、これらのルールと今回ご紹介した3編のミステリーの名作を参考にしつつ、まずは自由な発想で書くことを楽しんでみてはいかがでしょうか。

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