本との偶然の出会いをWEB上でも

偏差値78のAV男優・森林原人を作った5冊の本

無類の読書好きとして知られる、偏差値78のインテリAV男優・森林原人さん。森林さんに、これまでの人生の中での本との関わりや、特にご自身に影響を与えた5冊の本についてお話をお聞きしました!

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インテリAV男優として知られ、これまでに10,000本以上のAV作品に出演してきた森林原人もりばやしげんじんさん。「性と向き合い、性を知り、性を楽しむ」をモットーに執筆活動や講演も数多く行ってきた森林さんは、無類の読書好きでもあります。

今回はそんな森林さんにこれまでの読書遍歴をお聞きするとともに、「自分を作った本」というテーマで、人生の中で特に影響を受けた5冊の本について特別インタビューでお話しいただきました。

 
【森林原人さん プロフィール】
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1979年、横浜生まれ。横浜育ち。1999年より性に携わる仕事を開始。
2019年7月現在、経験人数9,900人、出演本数10,000本以上。下は18歳から上は69歳まで、性別の垣根を越えてさまざまなセックスを経験。
『性と向き合い、性を知り、性を楽しむ』をモットーとしたWebサイト「リビドーリブ」を主宰。執筆や講演を通し、性を必要以上にタブー視したり、聖なるものや悪なるものと決めつけない考え方の普及活動に力を注ぐ。

ズッコケ三人組~エロ本~哲学書、森林さんの読書遍歴

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──森林さんが読書をするようになったのは、いつ頃からなのでしょうか。

森林原人さん(以下、森林):本を読むこと自体は小学校の低学年の頃から好きで、休み時間に図書室に通って『ズッコケ三人組』シリーズなどをよく読んでいました。中学受験をすることになり、高学年になると受験勉強のために机に向かうことが増えて、趣味としての読書はあまりしなくなってしまいましたね。当時の息抜きはもっぱらテレビでした。

 
──森林さんは中学受験を経て、偏差値78、日本でも最高峰の中高一貫校・筑波大学附属駒場中学校(筑駒)に進学されていますよね。では、中学生になってからは、ふたたび読書をされるように……?

森林:なったんですが、その頃になると性的なことへの興味が一気に湧いてきて、読む本はすべてエロ本に変わりました(笑)。とはいえ中学生なので、自分では最初なかなか手に入れるのが難しくて、母親が購読していたファッション雑誌の下着の通販ページで、外国人のモデルさんの下着姿を見て興奮してましたね。
SPURやVOGUEといったモード系のファッション誌の写真や文章を追っていたら、いつの間にかファッションも好きになって。高校生くらいになると、古本屋でエロ本を買いつつVOGUEも買う、みたいな感じでした。本格的にいろんなジャンルの本を読むようになったのは、大学生になってからです。

 
──大学が肌に合わなかった、というお話をよくされているかと思うのですが、読書は自宅でされていたのでしょうか。

森林:そうですね。東大受験に失敗してしまって、自分はモテないし不細工だし特別な能力もない……といったコンプレックスに悩まされていたので、それなら自分探しをしたいと思って専修大学の心理学科に入ったんです。心理学を勉強すれば自分のことがわかると思ったんですけど、心理学って哲学から派生した学問なので、最初は授業でも哲学の話ばっかりされるんですよね。だから正直、はじめはその面白さもわからないし大学生活にも馴染めなくて、自暴自棄になっていました。

ただ、その頃たまたま読んでいた新聞の本の紹介コーナーで、池田晶子さんの『残酷人生論』に出会って。まさに僕は人生に絶望している時期だったので、そのタイトルがすごく響いたんですよね。本屋さんに探しに行って読んでみたら自分の中にストンと落ちてくるような感覚があって、それをきっかけに池田さんの本を家でいろいろ読むようになりました。

 
──では、本との本格的な出会いのきっかけは池田晶子さんだったのですね。読む本のジャンルは、そこから変わっていきましたか?

森林:池田さんを原点に本の世界を広げていったので、いまでも小説や詩歌よりは哲学の本や随筆のほうが読む頻度は高いですね。

 
──読書をされるときのこだわりなどはありますか。

森林:1冊を繰り返し読みかえすことが多いです。僕は気になった箇所や印象的な箇所に線を引きながら本を読むんですけど、書き込みがあると、昔はわからなかったところがわかるようになったとか、逆に昔は気にならなかった部分が引っかかるようになった、みたいな変化に気づけるんですよね。そうやって何度も読むことで、初めて本が自分の血となり肉となるのかなと思います。

哲学書から詩集まで、森林原人を作った5冊の本

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──ここからは「森林原人を作った本」というテーマで、ご自身にとって特に大事な本、影響を受けた本を紹介していただけたらと思います。

森林:いろいろあるので迷ったのですが、人生の中で何度も繰り返し読んだ本を中心に持ってきました。まずはいまもお話しした池田晶子さんの『残酷人生論』と、『14歳からの哲学』です。

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出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4795811938/

14歳から
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4901510142/

池田さんの本には、そもそも哲学とはいったい何なのか、ということを教えてもらいました。大学に入りたての頃は、哲学って人生に関係のない役に立たない学問だと思っていたんですけど、彼女の本のおかげで言葉によって物事を掘り下げていくことの面白さを知ったし、ものの考え方の基礎を学びましたね。

『残酷人生論』は、さきほどお話ししたように人生で初めて出会った哲学書です。『14歳からの哲学』は、「死」や「家族」、「社会」といった30のテーマについて掘り下げた本なんですが、言葉はわかりやすいけれど非常に回りくどく回りくどく話が進むんですよ。最初はどうしてこんなに回りくどいんだろうって思ったんですが、つまりそれが「考える」ということなんだろうなと。

 
──森林さんはいま、男優さんとしてのお仕事のほかにも、人の人生相談やセックス相談にも答えていらっしゃいますよね。そういったお仕事にも、池田さんの本に教わった「考える」ということは活きていますか?

森林:そうですね。悩んでいる人って多くの場合、何を考えるべきかがわからなくなってしまっているんです。だから、「あなたが考えるべきポイントはここですよ」というところまで僕が整理するので、ここからは自分で考えてくださいね、というのを人生相談の際の回答のポリシーにしています。これはまさに、池田さんの本から学んだスタンスですね。

 
──続いてこちらは、代々木忠さんの『プラトニックアニマル』。著者の代々木さんは、大御所のAV監督として有名な方ですよね。

プラトニックアニマル
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/479581242X/

森林:僕は代々木さんにセックスのなんたるかを教わったと同時に、性という捉えにくい概念をどうやって言語化するかというのを学んだと思っています。この本は基本的にはセックスのマニュアルという形をとっているんですが、たとえば「イク」ってどういう感覚か、というのを代々木さんなりに明瞭に解説してくれていて。セックスって体感するものなのでどうしても言語化しにくい部分が多いのですが、自分の中の感覚や感情を言語化して伝えるヒントをこの本に教えてもらいました。

 
──セックスのなんたるかについても教わった、というのは、実際に代々木監督の現場に撮影に行かれたということでしょうか。

森林:そうですね。そもそも、代々木さんの本を読み始めたのも代々木組に呼ばれたことがきっかけでした。正直、実際に会うまでは「大御所と呼ばれているけど、だからなんなんだ」と思ってたんですよ。でも、いちど現場に行ったらこの人は他の人とはまったく違うな、と感じました。

 
──他の人と違うな、と感じられたのはどのようなところですか?

森林:極端な話、代々木さんは撮影の途中でも女優さんを帰してしまったりするんです。というのも、代々木さんの作品って、虚実皮膜──つまり虚構と現実との微妙な間を、セックスを通じて描こうとするものなんです。具体的に言うと、台本なしで男優と女優にセックスをさせるんですね。だから、仮に男優が射精できなくてもそのまま撮影が終わったりするし、反対に女優が望めば2回3回とセックスをすることもある。
代々木さんが帰してしまった女優さんは、どうも面接のときは何回もイケますって言っていたみたいなんですが、実際はそうじゃなかった。代々木さんは、想定外のことが起こるのはまったく構わないけれど嘘はつかないでくれ、という人なので、「AVを甘く見て本気でセックスしないなら帰ってほしい」って途中で帰してしまったんだと思うんですよね。

 
──徹底的にリアリティにこだわる方なんですね……!

森林:正確には、AVというファンタジーの土俵に上げてもらった上でのリアリティ、でしょうか。AVは決してリアルではないけど、実はプライベートのセックスよりも性のリアルに近い部分もあると僕は思っていて。実際のプライベートな性行為って、あんまり相手の方の本音は聞けないじゃないですか。でもAVの場であれば、女優さんは臆さずに「さっき感じてたのは演技です」とか言ってくれる(笑)。代々木さんの言葉を借りるなら、“性の深淵”を覗くにはAVという場は最高だと思います。

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──続いての本は、鴻上尚史さんの『空気と世間』ですね。

空気と世間
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4062880067/

森林:鴻上さんの本には最近ハマっています。僕は、自分が中学生の頃から囚われている“性”とはいったい何なのか──というのを掘り下げていくことが自分の活動のテーマだと思っているのですが、それについて考える中で、“性というものに感じる後ろめたさ”の正体についても知りたくなって。この本は日本に蔓延している「空気を読む」という行為や、僕たちにそうさせている「世間」というものについて論じている本なのですが、知り合いに薦められたのがきっかけで気になって読みました。

この本によると、日本が「世間」に囚われているのは、八百万の神の文化の国であるからというのが大きいんだそうです。一神教の国では「唯一絶対の神と個人」の関係がもっとも重要なので、他の「個人」にはあまり気を使わない。けれど、日本には絶対神がいないので、他の個人とのゆるやかな結びつき、つまり「世間」が重要とされてきた──といった考察がされています。だから、たとえば芸能人が不倫や闇営業をしていたとなったら「世間」に謝る文化が日本にはあると。すごく面白い本です。

 
──最後にお持ちいただいたのは吉野弘さんの『贈るうた』ですが、こちらは今回選んでいただいた中で唯一の詩集ですね。

贈るうた
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4760218602/

森林:これは父から薦められた本なんです。兄が結婚したときに、父が兄にこの本の中の「祝婚歌」という詩を贈っていたんですが、その詩のワンフレーズが個人的にすごく響いて。

正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい

というフレーズです。最初は正直そこまでピンとこなかったんですけど、考えてみたら人が本当に傷つくときって、圧倒的に正しいことを言われたときなんですよね(笑)。

 
──なるほど、たしかにそう思います……!

森林:この言葉は人と接するとき、特に相手が親しい人であればあるほど思い出すようになりました。正しいことを言うのって、別に偉いことじゃないんですよね。僕はさっきのお話にもあったように人の人生相談にも乗ることがあるのですが、本当にさまざまな相談をいただく中で、「あなた騙されてるんだよ」のひと言だけで終わってしまいそうな相談も中にはあって。
でもその回答が相手にとって正しいとは限らないし、仮に正しかったとしても、本当に正しいことをきつい口調で言われたときって傷つくじゃないですか。だから、どこかに逃げ場というか、ゆとりを持って人と接するのが大切だということをこの本には教えてもらいましたね。

 
──小学校時代から現在の読書まで詳しくお話しいただいて、本日は本当にありがとうございました!

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