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【村上春樹、ヘミングウェイなど】毎日の執筆は規則正しく。あの小説家の「ルーティン」

毎日朝早くから仕事を始め、午後は必ず運動を欠かさない。1日に2杯のカフェオレを必ず飲む──。小説家のなかには、そんな日々の“ルーティン”を大切にしている人が少なくありません。今回は、村上春樹やヘミングウェイといった作家たちのルーティンにスポットを当て、彼らの習慣や日々の仕事術を紹介します。

毎朝決まった時間に目を覚まし、決まった時間まで働き、決まった時間に眠る──。そんな規則正しい生活に嫌気が差して、「会社員でなければ、もっと好きに時間が使えるのに」「自由業の人は何時に働いてもいいから羨ましいなあ」と考えたことのある人は少なくないのではないでしょうか。

しかし、スケジュールを自分で管理しなければならない自由業・フリーランスのなかには、むしろきっちりと毎日のルーティンを定めており、そのルールに則って仕事を進めないと落ち着かないという人もいるようです。特に小説家には、独自のルーティンを持ち、規則正しく執筆をしていると公言する人物が意外にも多いのです。

今回は、村上春樹やヘミングウェイといった偉大な小説家たちのルーティンにスポットを当て、彼らの習慣や日々の仕事術を紹介します。

毎日淡々と10枚ずつ書き、必ず運動する──村上春樹

ランニングを習慣とし、25年以上、フルマラソンに出場し続けていたことでもよく知られる小説家・村上春樹。“習慣”をなにより重視する村上の執筆スタイルは、小説家の自由なイメージを覆すほどにストイックかつ、規則的です。

長編小説を執筆している期間の場合、村上は必ず毎日4時頃に目を覚まし、4時間から5時間集中して机に向かいます。執筆する分量は、きっちり原稿用紙10枚分(約4000字)と決めており、それ以上書きすぎることはしないと言います。

“もっと書きたくても十枚くらいでやめておくし、今日は今ひとつ乗らないなと思っても、なんとかがんばって十枚は書きます。なぜなら長い仕事をするときには、規則性が大切な意味を持ってくるからです。(中略)アイザック・ディネーセンは「私は希望もなく、絶望もなく、毎日ちょっとずつ書きます」と言っています。それと同じように、僕は毎日十枚の原稿を書きます。とても淡々と。「希望もなく、絶望もなく」というのは実に言い得て妙です。”
(『職業としての小説家』より)

村上はそのようにして“淡々と”執筆を進め、数ヶ月や半年の時間をかけて1本の作品の初稿を書き上げます。毎日、執筆を終わらせたあとは必ず1時間程度の運動(たいていはランニング)をし、ランチをとり、午後は自由に過ごすのだそうです。

村上がランニングをはじめたのは専業小説家として活動するようになった30代の頃。小説家という職業を生涯続けていくためには、なによりも体力を維持することが重要だというのが彼の考えです。

“これからの長い人生を小説家として送っていくつもりなら、体力を維持しつつ、体重を適正に保つための方法を見つけなくてはならない。”
(『走ることについて語るときに僕の語ること』より)

一定の年齢を超えると、若い頃のようにいつでもすっきりとした頭で思考することが難しくなってくる、と村上は言います。できる限り“心身の贅肉”を落としておくために、村上はランニングを習慣にしているのです。

自身の執筆スタイルを「まるで工場のよう」とも語る村上。しかし、小説家は芸術家であるべきというイメージにこだわらず、自分にとって最適な仕事のペースを堅持しているからこそ長年にわたって名作を生み出せていることは、疑いようがありません。

早起きし、立ったまま書く──ヘミングウェイ

『老人と海』『武器よさらば』などの重厚な小説で知られるアメリカの作家、アーネスト・ヘミングウェイ。ヘミングウェイもまた村上春樹と同じように、決まって朝早く起き、5時間から6時間のあいだ原稿の執筆をして、続きの展開の見当がつくところまで書き進めた時点で仕事を切り上げていました。そして午後には仕事をせず、水泳などの運動をしたり、常に大量にきていた手紙の返事を書いたりして過ごしていたそうです。

彼はアメリカの文芸誌『パリ・レヴュー』のインタビューのなかで、早朝に仕事をすることについてこのように語っています。

“毎朝、夜が明けたらできるだけ早く書きはじめるようにしている。だれにも邪魔されないし、最初は涼しかったり寒かったりするが、仕事に取りかかって書いているうちにあたたかくなってくる。まずは前に書いた部分を読む。いつも次がどうなるかわかっているところで書くのをやめるから、そこから続きが書ける。そして、まだ元気が残っていて、次がどうなるかわかっているところまで書いてやめる。そのあと、がんばって生きのびて、翌日になったらまた書きはじめる。朝6時から始めて、そう、正午くらいまで、もっと早く終わるときもある。”
(『パリ・レヴュー』より)

加えて、ヘミングウェイの執筆ルーティンのなかで特徴的なのは、彼が自分の日々の仕事量を正確に記録していた点と、椅子を使わずに立って執筆していた点です。

『パリ・レヴュー』のインタビューには、ヘミングウェイが日々、胸の高さほどある本棚の上にタイプライターを乗せ、それに向かって執筆をしていたという記録と、毎日どこまで書き進めたかを大きな表に記していたという記録が残っています。

“ヘミングウェイは立って書いた。(中略)タイプライターと書見台がちょうど胸の高さでかれと相対する。”

“彼は日々の進捗具合を──「自分を甘やかさないように」──段ボール箱を崩して作った大きな表に記録していて、剥製のガゼルの頭の鼻の下に立てかけている。”
『パリ・レヴュー』より

わざわざ立った状態で仕事をしていたのは、ヘミングウェイの特徴でもあるすっきりとしたシンプルな文体を持続させるためだったよう。非常に独特な執筆スタイルに見えますが、『クリスマス・キャロル』などの代表作がある作家、チャールズ・ディケンズもたびたび同様のスタイルで執筆をしていたことが知られています。まどろっこしい文章を避け、集中力を保ったまま長い作品を書き進めるためには、優れたアイデアなのかもしれません。

引きこもり、コーヒー2杯で書き続ける──プルースト

小説家のルーティンは、必ずしも健康的で、すぐさま真似したくなるようなものばかりではありません。全7篇から成る長大な小説『失われた時を求めて』で知られる小説家、マルセル・プルーストは、非常に規則的なルーティンで仕事をこなしていたものの、それは現代の目から見ると不健康極まりない生活でした。

プルーストはもともと非常に繊細な精神の持ち主であったことに加え、晩年には、作家生命をかけて取り組んでいた『失われた時を求めて』の執筆にのめり込むあまり、住んでいたアパルトマンの窓を常に閉め、光も音も徹底的に遮断した状態で1日を過ごすことも少なくなかったようです。活動時間は昼夜逆転しており、主に昼間に眠り、夜6時ごろから執筆をはじめました。執筆の際には、持病のぜんそくの症状を和らげるためにルグラと呼ばれる粉末をたびたび吸っていたため、部屋の空気は常に淀んでいたと言います。

さらに、プルーストは美食家であった一方ひどい偏食家でもあり、執筆の際にはカフェオレとクロワッサンしか口にしないという変わった習慣を持っていました。

“呼び鈴を鳴らし、長年務めて信頼のおける家政婦のセレストにコーヒーをもってこさせる。これはそれ自体、手の込んだ儀式だった。セレストはカップ2杯分の濃いブラックコーヒーを入れた銀のコーヒーポットと、あたためた牛乳をたっぷり入れた蓋つきの陶器のポットと、クロワッサンをひとつ──いつも同じパン屋で買ったものを皿にのせて──もってくる。そして黙ったままベッドわきのテーブルの上に置いて部屋から出ていく。そのあとプルーストは自分でカフェオレを作る。セレストはキッチンで待機し、プルーストがまた呼び鈴を鳴らすのを待つ。もし鳴ったら、それは2つ目のクロワッサン(つねに用意してある)と、残りのコーヒーに入れる牛乳のおかわりをもってきてよいという合図だ。
プルーストはこれ以外になにも口にしない日もあった。「彼はほとんどなにも食べなかったといっても言い過ぎではない」 セレストはプルーストとの生活についての回想録でそう述べている。”
(『天才たちの日課』より)

プルーストは寒がりで、ベッドの上で執筆するのを好んだこともあり、部屋のなかでも運動はほとんどしていなかったようです。偏った食生活と運動不足が祟り、晩年にはたびたび風邪を引きながらも『失われた時を求めて』の執筆・改稿を続けました。

彼が常人離れした偉大な仕事を成し遂げたことは疑いようがありませんが、せめて日々のストレッチだけでも習慣づけていれば、体調がすこし上向いたかもしれないのに──と想像せずにはいられません。

おわりに

小説家に対し、“自由気ままな芸術家”というイメージを抱いている方も多いことでしょう。しかし、今回ご紹介した3名の小説家のルーティンからは、(プルーストの習慣はあまりに不健康ではあれど)自分の仕事のスタイルをきっちり守り、継続的に高いパフォーマンスを出していくという職人らしい矜持を感じられたのではないでしょうか。

毎日早朝から仕事をはじめる、立ったまま作業をするといった習慣は、小説家ではなくとも参考にすることのできるルーティンです。ときには小説家たちの仕事のスタイルに習い、凝り固まってしまった自分のルーティンを見直してみてもいいかもしれません。

(※参考文献……
・村上春樹『走ることについて語るときに僕の語ること』
・村上春樹『職業としての小説家』
・メイソン・カリー『天才たちの日課』
・青山南 編訳『パリ・レヴュー・インタヴューⅡ』)

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