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【この動機がひどい!】ミステリ小説の「ヤバい動機」4選

ミステリ小説の中には時に、「そんな動機で罪を犯しちゃうの!?」と驚かされてしまうような、“ヤバい動機”を持った犯人が登場します。今回は日本の現代ミステリ小説の中から、こだわりや愛憎の強すぎる“ヤバい動機”で罪を犯してしまった犯人が出てくる、選りすぐりの小説を4作品ご紹介します。

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ミステリ小説を読む醍醐味のひとつは、犯人が罪を犯すに至った“動機”を知ることにあります。名作と呼ばれる作品の中には、愛する人をかばったり自分の信念を貫いたりするために、仕方なく罪を犯してしまう──という犯人が登場し、読者の涙を誘うことも少なくありません。

しかし同時に、ミステリ小説の中には時に「そんな動機で罪を犯しちゃうの!?」と驚かされてしまうような、“ヤバい動機”を持った犯人も登場するのです。
今回は、日本の現代ミステリ小説の中から、犯人の“ヤバい動機”を楽しめる作品を4作品選んでご紹介します。

(※この記事の中には一部、ミステリ小説の重要なネタバレが含まれます)

※「ミステリー」と「ミステリ」の違いについては諸説ありますが、この記事では「ミステリ」をより狭義での推理小説として取り扱っています。

動機(横山秀夫)

動機
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4167659026/

最初にご紹介するのは、横山秀夫による短編小説『動機』。かつて上川隆也主演でドラマ化もされた人気作品です。

本作のメインとなるストーリーは、警察手帳の一斉紛失事件。主人公である警察官・貝瀬の提案で警察手帳の一括管理が試験的に導入された直後、なんとその手帳30冊が一斉に消えてしまうという事件が発生するのです。

内部の犯行を疑った貝瀬が最初に目を向けたのは、手帳保管庫の管理者であった大和田。貝瀬は事件を追っていくうち、大和田が自分の警察手帳を紛失してしまったことをごまかすために、署内の他の29人分の手帳までも盗んだのでは? と考えるようになります。

しかし、「軍曹」とあだ名されるほど生真面目で戒律に厳しい大和田が、果たして本当にそんなことをするだろうか──と半信半疑の貝瀬。本物の犯人とその動機がいったい何なのか、というのが本作の鍵となります。

 

犯人の「ヤバい動機」とは?(ネタバレあり)

大和田と面会した貝瀬は、彼に「とにかく手帳を返却してほしい。もしも手帳に不足があった場合は、犯人が破棄したと周囲には説明する」と告げます。

翌日、消えた警察手帳が署内で発見されました。しかし、手帳は大和田の分と彼の直属の部下である神谷の分2冊がなくなり、28冊に減っていました。

そこでようやく貝瀬は、自分の分の手帳を紛失してしまったのが大和田ではなく神谷であったことに思い至ります。神谷を自分の子どものようにかわいがっていた大和田は、手帳をなくした神谷の前途を思い、署内の他の警察手帳すべてを盗むことで紛失事件に見せかけていたのです。

神谷の失態を最後まで周囲にさとられないよう、あえて自分の警察手帳も除いた28冊を返却した大和田。手帳をなくしたくらいでそこまでするか……、と思わされつつも、大和田というキャラクターの優しすぎる動機が光る、魅力的な作品です。

キョウカンカク(天祢涼)

キョウカンカク
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4061826999/

天祢涼あまねりょうによる『キョウカンカク』は、第43回メフィスト賞を受賞したミステリ小説。タイトルどおり、“共感覚”が重要なキーワードとなる作品です。

共感覚とは、音や味といった刺激に対し、通常の感覚とは異なる感覚を覚えることができる特殊な知覚現象。共感覚を持つ人は、文字に色を感じたり、味に形を感じたりすることが知られています。

本作にはふたりの探偵が登場しますが、そのうちのひとり、音宮美夜みやは音に関する“共感覚”を持つ人物。美夜は、人の声や話を聞くことで、その音が持つ“色”を視覚情報として見ることができ、相手がどんなことを考えているかを大まかに探り当てることができるのです。

美夜ともうひとりの探偵が追っていたのは、とある猟奇連続殺人事件。事件の被害者の遺体はすべて、生ゴミの中や酒樽の中といった異常な場所で、焼却処分された状態で見つかっていました。

美夜は自らの共感覚を活かし、この事件の犯人が神崎という心療外科医であることを突き止めます。では、神崎はなぜわざわざ、生ゴミや酒樽の中といった場所を選んで殺人を犯していたのか──? というのが本作の肝です。

 

犯人の「ヤバい動機」とは?(ネタバレあり)

犯人の神崎は、美夜と同じく共感覚を持つ人物でした。神崎が持つ共感覚とは、“目で見ただけで、その物を味わえる”という力。神崎にはカニバリズム(食人)の嗜好があり、気に入った人間にレモンをかけたり酒をかけたりして眺めることで、その人の“味”を楽しんでいたのです。

その後被害者たちを殺していたのは、自らが特殊な共感覚者であることを悟られないようにするためでした。殺害場所が異常だったのは、使った調味料をそのまま隠すことができる生ゴミの中や酒樽の中が好都合だったから。
人間を目で味わうために殺人を犯すという、残酷かつトリッキーな動機と言えるでしょう。

桔梗の宿(連城三紀彦)

戻り川
『桔梗の宿』収録/出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4334740006/

連城三紀彦による『桔梗の宿』は、推理小説集『戻り川心中』に収録された1編です。

舞台は昭和初期。ある港町で起きた殺人事件の捜査をしていた若き刑事「私」とその先輩刑事は、聞き込みに行った売春宿で、鈴絵という少女に出会います。すると、ふたりの刑事が彼女に出会った直後、その事件にまつわる関係者が同じ町でまたひとり殺されてしまいます。

「私」は分厚い眼鏡をかけたうだつの上がらない風貌の青年でしたが、捜査に対する情熱と執念は人一倍ありました。何度もその町を訪れ、変装した姿で別人を装ってまで鈴絵に聞き込みをする「私」。

ある晩、「私」が久しぶりに変装をしないで鈴絵に会いにゆくと、鈴絵は突如「第二の殺人事件の犯人は自分だ」と告げます。その自白だけで鈴絵を逮捕してよいものか逡巡する「私」でしたが、鈴絵は翌日、首を吊って自殺してしまったのでした──。

 

犯人の「ヤバい動機」とは?(ネタバレあり)

事件からしばらく経ち、「私」のもとに、転勤してしまった先輩刑事から一通の手紙が送られてきます。手紙には、先輩刑事の推理として、驚くような事件の真相が書かれていたのでした。

鈴絵は、聞き込みに来た「私」に一目惚れをしていた──と先輩刑事は語ります。そして、「私」に再び会いたいと強く願うあまり、もう一度同じ場所で殺人事件を起こせば、「私」が聞き込みに来るのではないかと考えたというのです。

しかしながら、自分の犯した罪の重さに耐えきれず、自殺という道を選んでしまった鈴絵。その動機は痛々しくも切実な“恋心”だったのでした。連城三紀彦らしい、叙情的で美しいミステリ小説です。

『アリス・ミラー城』殺人事件(北山猛邦)

ありす
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4062761467/

北山猛邦たけくにによる「『アリス・ミラー城』殺人事件」は、『鏡の国のアリス』の世界を思わせるアリス・ミラー城という城の中で、集められた探偵たちがチェスの駒のように次々と殺されていく──という物語です。

事件の舞台となるのは、酸性雨が降り続ける東北の江利ヵ島えりかじま。この島に建つ古城、アリス・ミラー城に、「1週間の滞在のうちに、城に眠るアリス・ミラー(鏡)を探し出してほしい」という依頼を受けた8人の探偵たちが集まります。

全員の出会いから一夜が明けた早朝、探偵のうちのひとりが顔を硫酸で溶かされて殺されているのが見つかります。そして翌日から、探偵たちは何者かの手によってひとりずつ命を奪われていくのでした──。

 

犯人の「ヤバい動機」とは?(ネタバレあり)

探偵たちを次々と殺していた犯人は、“アリス”という女性でした。
酸性雨の降り続く江利ヵ島は、地球全体で起きている酸性化現象が特に深刻になりつつある島でした。その事態を憂いたエコロジストのアリスは、人間を殺し、その死体を細切れにして島に撒くことで、酸性化を中和しようとしていたのです。最後にひとり残った探偵がアリスに殺されるシーンで、この物語は幕を閉じます。

つまり、“酸性化を防ぐ中和剤のために、人間の死体が必要だった”というのが本作の犯人の動機。「環境問題のために!?」と唖然としてしまうようなオチですが、“ヤバい動機”としては群を抜いている作品です。

おわりに

部下をかばうために30名分の手帳を盗む男や、環境問題の解決のために人を殺して切り刻む女──。今回ご紹介したミステリ小説の“動機”はどれも、あらためて言葉にすると呆れてしまうような、突拍子もないものばかりだったかもしれません。

しかし、犯人たちがそんな動機を抱くに至った背景には、必ず他者への強すぎる執着や、犯人にしかわかり得ない強いこだわりがあります。“動機”がきっかけで今回の4作品が気になった方は、犯人の人間像や探偵たちとの会話にも注目しつつ、ぜひそれぞれの作品に手を伸ばしてみてください。

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