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【『小説の神様』映画化】相沢沙呼のおすすめ作品3選

映画『小説の神様 君としか描けない物語』の公開が決定し、原作小説である相沢沙呼の『小説の神様』にも注目が集まっています。今回は、推理作家・ライトノベル作家である相沢沙呼のおすすめ作品を3作ご紹介します。

ミステリ小説『medium 霊媒探偵城塚翡翠』で2020年度の「このミステリーがすごい! 国内編」(宝島社)1位、「本格ミステリ・ベスト10」(原書房)1位、Apple Books「2019年ベストブック」の「2019年ベストミステリー」3冠を獲得し、大きな注目を集めている推理作家・ライトノベル作家の相沢沙呼

2020年には相沢の作品『小説の神様』を原作とする映画、『小説の神様 君としか描けない物語』が全国公開(※コロナ感染拡大により延期中、近日公開予定)を控えており、佐藤大樹・橋本環奈のダブル主演でさらに話題となっています。

今回は、『medium 霊媒探偵城塚翡翠』、『小説の神様』の2作品を中心に、相沢沙呼のおすすめ作品の魅力と読みどころをご紹介します。

高校生小説家ふたりを描いた青春小説、『小説の神様』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4062940345/

『小説の神様』は、相沢沙呼が2016年に発表した青春小説です。

物語の主人公は、中学生でデビューし小説家として話題になるものの、現在はまったく作品が売れていないことに焦りを感じている高校生・千谷一也ちたにいちや。ある日、同じく高校生小説家として執筆活動をおこないながらも、一也とは対照的に人気作家として脚光を浴びている小余綾こゆるぎ詩凪しいなが一也の高校に転入してきます。

詩凪はその明るい性格ですぐにクラスの人気者になりますが、一也の友達は、彼が所属する文芸部の部長である九ノ里正樹だけ。何もかも正反対のふたりですが、あるとき、担当編集者の提案を受け、一也と詩凪はふたりで1作の物語を共作することになります。

一也には難病で長期入院をしている妹・雛子がおり、雛子の治療費を稼ぐためにも、“売れる”必要がありました。売れるための作品にこだわって筆を進める一也と、あくまで“物語の力”を信じ抜き、自分の書きたいことを書こうとする詩凪は、しばしば対立します。しかし、「わたしは、あなたの物語を読みたいの」と一也を励まし続ける詩凪と、詩凪が考えたプロットを読んで小説への情熱を取り戻した一也は、お互いがお互いにとっての唯一無二の理解者となっていきます。

対照的なふたりの主人公が力を合わせてひとつの作品を創っていく──という青春小説らしい展開はもちろん、出版業界や作家が置かれている厳しい現状を生々しく描いている点も本作の読みどころのひとつ。一也と詩凪がネットでの誹謗中傷や周囲からの酷評に胸を痛めながらも、自分自身が自分の人生という物語の主人公として生きるための力を、小説を書くという行為を通して徐々に得ていく展開は、非常に感動的で胸を打ちます。

たとえ空っぽでも、僕は書かなくてはならない。この胸から沸き立つ涙でペンを浸し、物語を綴ろう。それがどんなに醜くても、この身から溢れるものがある限り、書き続けることはできるのだから。強くなくてもいい。失敗しても、嫌われても、挫折を繰り返してしまっても。君は、主人公になってもいいのだと、ページを捲る誰かへ、そう伝えるために。

爽やかな青春小説を読みたい方はもちろん、“物語”が持つ力について改めて考えたい方にとってもおすすめの1冊です。

霊媒の少女と推理作家がタッグを組んで事件に立ち向かう──『medium 霊媒探偵城塚じょうづか翡翠ひすい


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/406517094X/

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』は、相沢沙呼が2019年に発表したミステリ小説です。

本作は前述の通り、2020年度の「このミステリーがすごい! 国内編」(宝島社)1位、「本格ミステリ・ベスト10」(原書房)1位、Apple Books「2019年ベストブック」の「2019年ベストミステリー」3冠を獲得したほか、2020年本屋大賞にノミネートされ、第41回吉川英治文学新人賞の候補にも選ばれるなど、いまもっとも注目を集めているエンタメ作品と言っても過言ではありません。

本作の主人公は、推理作家としてさまざまな難事件を解決に導いてきた香月史郎こうげつしろうと、霊媒の少女・城塚翡翠。論理的思考力を強みとする史郎とは対照的に、翡翠は事件の被害者の言葉を生者に伝えることができるという特異な能力を持っているものの、自分の力を証明するだけの証拠能力がなく、何度も歯がゆい思いをしてきました。

史郎ははじめ、翡翠の力をインチキだと思っていたものの、ある事件現場で初対面の史郎の職業を見事に当ててしまった翡翠を見て、その考えを改めます。

翠の双眸が炎の光を反射する。
「あなたは、倉持さんとは対照的に、内向的なお仕事をされていますね」
「ええ……。そうですね、どちらかといえば……」
「特殊なお仕事です。なにか内側に溜め込んだものを、外へ放出させるときの匂いを感じる」
匂い?
だが、わかるはずがない。
それでも、次に告げられた言葉を耳にして、香月は戦慄に近いものを感じていた。
「芸術方面ですね。絵を描いたり、作曲をされたり……。いえ、漫画家か……、ああ……、作家先生……、小説家ではないですか」

翡翠の潜在能力に驚いた史郎は、翡翠とタッグを組み、さらなる難事件に挑んでいくことになります。ふたりは順調に事件を解決していきますが、その裏では、一切の証拠を残さずに残忍な犯行を重ねる連続殺人鬼が街を脅かしていたのでした。史郎と翡翠は最終的に、その連続殺人鬼の正体を探るという最大の事件に立ち向かうことになります。

本作の読みどころは、なんと言ってもラストに待ち受けている、思わず声を上げてしまうような大どんでん返しです。作品自体は非常にライトな読み口でスラスラと読めてしまうだけに、最後にトリックが明かされたときの「騙された……!」という衝撃は相当なもの。

史郎と翡翠という癖の強いキャラクターが繰り広げる軽妙なやりとりの面白さに加え、本格ミステリとして謎を解いていく快感も楽しむことができる、一気読み間違いなしの良作です。

マジック×謎解きが楽しめるデビュー作、『午前零時のサンドリヨン』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4488423116/

『午前零時のサンドリヨン』は、相沢沙呼による連作短編集です。相沢は本作で2009年に第19回鮎川哲也賞を受賞し、作家としてデビューしました。

本作の主人公は、クラスメイトの酉乃とりのはつに一目惚れをし、淡い恋心を抱いている「僕」。初は学校では人を寄せつけないクールな雰囲気を醸し出していましたが、「僕」はある日、そんな彼女の“裏の顔”を知ってしまいます。なんと初は、凄腕のマジシャンとして、放課後にレストラン・バー『サンドリヨン』で日々、マジックを披露しているのです。

桜色の唇で優しく微笑んでいる彼女は、その眼差しを自らが操るトランプのカードへ向けていた。光沢を帯びた黒いテーブルの上で、白い指先が優美に躍り、カードを広げていく。
線を描くように彼女が並べた縦二列のトランプは、向かって左側にあるものは表を向いており、赤と黒二色の数字が不規則に並んでいた。(中略)白い指先が二つの山に揃え、指先で弾くようにしてそれらを交互に重ねる。ぱらぱらとカードの弾む音が心地良く耳に飛び込んできた。

合図のように、指が鳴った。
その口元には、勝利を宣言するような誇らしげな笑みがある。黒い髪は真っ直ぐに胸元まで零れていて、白いブラウスの上で艷やかに映えていた。理知的な大きな瞳が、お客さん達一人一人に微笑みかけるように動く。それは自信に満ちた、今までに見たこともない彼女の表情だった。

「サンドリヨン」でプロのマジシャンとしての彼女の腕と、教室では見たことのない笑顔を目の当たりにし、さらに初に心惹かれてしまった「僕」。初に近づこうとさまざまなアプローチをしますが、彼女は「僕」に見向きもしません。

しかし、時を同じくして、いじめや生徒同士の嫉妬などに端を発した小さな事件が校内で起こり始めます。初は、最初は渋々ではありましたが、「僕」に頼まれ、校内で起きる事件をマジックの手法を用いて紐解いていくようになるのです。

音楽室の机に謎の落書きがされる、図書室の本がある日、1冊を除いてすべて背表紙を向いて並べられる──など、事件の一つひとつは非常にささやかなものでありながら、それらすべてが最終話につながる伏線となっており、ミステリらしい快感を味わうことができます。

また、一匹狼のようでいて実は人一倍さみしがり屋の初が、内向的でありながら一途な「僕」と関わって事件を解いていくことで少しずつ変化していくのも、本作の大きな読みどころ。ライトノベルのようなポップな文体と意外な結末で最初から最後まで読者を楽しませてくれる、相沢沙呼らしい魅力を堪能できる1冊です。

おわりに

相沢沙呼は、『小説の神様』では王道の青春小説、『medium 霊媒探偵城塚翡翠』では本格ミステリ、『午前零時のサンドリヨン』ではミステリ要素の入った恋愛小説──と、さまざまなジャンルを巧みに書き分けられる筆力を持った作家です。

その文体のポップさとあまりの読みやすさに「よくあるエンタメ小説かな?」と油断してしまった読者は、ラストで驚かされること間違いなし。相沢は魅力的なキャラクターの日常を描きながらも、何気ない文章の中に“謎”を紛れ込ませる達人です。一度読み始めたらページをめくる手が止まらなくなる相沢沙呼ワールドを、ぜひ体感してみてください。

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