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【『本屋の新井』発売】「売り場にいないと死んでしまう」──書店員・新井見枝香さんインタビュー

「新井賞」の創設や「新井ナイト」の開催など、書店員としては型破りとも言えるさまざまな取り組みで、常に話題を集めてきた三省堂書店員の新井見枝香さん。2018年10月にエッセイ集『本屋の新井』を発表されたことを受け、本に綴った「書店員」という仕事のことから2018年イチオシの本についてまで、お話をお聞きしました。

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2018年末、新井さんがオススメする3冊の本

──第9回の『新井賞』の発表も間近かもしれませんが、今日はせっかくなので、新井さんに3つのテーマでオススメの本をお聞きできればと思います。
まずは、「2018年、とにかくイチオシしたい本」を教えていただけますか。

新井:今年とにかく推したいのは、桜木紫乃さんの『ふたりぐらし』です。

ふたりぐらし
出典:http://amzn.asia/d/bCUbGqn

桜木さんは、昨年発表された『砂上』を第7回新井賞にも選ばせてもらったので、次の作品をとても期待していて。いざ読んでみたら、やっぱりよかったですね。

桜木さんの作品の一般的なイメージって、「北海道の曇った空の下で、鬱々とした女性が厳しい人生を歩む」……みたいな感じかと思うんですが、この作品はそんなイメージに反してとても平和です。タイトルの通り、夫婦の「ふたりぐらし」が続いていく、という淡々としたお話で。寡黙な夫婦で、あまり大事なことを口にしない関係なんですが、それがすごくいい。

夫と妻、それぞれの視点で交互に1章ずつ進んでいくんですが、きっと桜木さんもゆっくり時間をかけて書いた作品だと思うので、読むほうもそれ相応の時間をかけてゆっくり読んでほしいなと思いますね。1日1章ずつとか噛みしめて読んでいくと、ここに書かれていることが本当の意味でわかるような気がします。「どうして結婚するの?」とか、「どうしてわざわざ他人と一緒に暮らすの?」という疑問を抱いている人が読んでも、夫婦っていいなと思えるかもしれない。

私はこれを読んだとき、桜木さんがこれまで書かれた苦しいお話や辛いお話と、『ふたりぐらし』のようなお話って、書き方が違うだけで言いたいことは一緒なんだなと思いました。桜木さんのこれまでの作品のファンにも、幸せな作品が読みたい人にも読んでほしいですね。

 
──ありがとうございます。では、2冊目。いつ読まれた本でもいいのですが、「これまでの人生で強く影響を受けた本」があれば教えてください。

新井:たくさんありますが、私はやっぱり常に新しい本が好きなので。今ははるな檸檬さんの漫画『ダルちゃん』かな、と思います。

ダルちゃん
出典:http://amzn.asia/d/9qN4LmJ

ダルちゃん2
出典:http://amzn.asia/d/4hEtgPd

これはダルちゃんという24歳の女の子が、一生懸命「普通の女性」に擬態して生活するというストーリーなのですが、ダルちゃんのように自分の本当の気持ちがわからなくて無理している人ってたくさんいるよなあ、と思わされました。

たとえばダルちゃんは物語の最初、好きでもない男の人に都合よく扱われ、それを必死に受け止めようとするのですが、そんなダルちゃんに「あなたの尊厳を踏みにじる奴らにあんな風に笑いかけちゃダメだよ」と言ってくれたサトウさんという女性のことを憎んでしまうんです。

 
──『ダルちゃん』、読みましたが、あのシーンはとても辛かったです。

新井:辛いですよね。ダルちゃんのような振る舞いをしてしまうことって周りには止められなくて、結局は自分で「これはダメだ」と気づくしかないんだよなと。

私は小説が好きだけれど、『ダルちゃん』を読んで、登場人物の表情で微妙な気持ちを表現することができる漫画ってすごいなと思いました。最後のほう、ダルちゃんが恋人相手に「幸せそうなフリ」をしているシーンがありますが、これって多分、彼女自身も「フリ」だと気づいていないんですよね。でも、読者はダルちゃんの表情を見て「あ、無理してるんだな」と気づく。これは本当に、漫画にしかできない表現だなと感じました。……『ダルちゃん』、すごくよかったです。

 
──では、3冊目。「自分の書店ではなかなか売るのが難しいけれど、個人的に強くプッシュしたい本」があれば教えてください。

新井:最果タヒさんの詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』は、前にいた池袋本店ではよく売れたのですが、神保町本店で売るには表紙がポップすぎたのかな……。ちょっとお客さんがびっくりしてしまっている感じがして、あまり反応がよくなかったんですよね。

夜空はいつでも
出典:http://amzn.asia/d/076m6p3

 
──やはり、店舗によっても本の売れ方や何が売れるかはまったく違いますか?

新井:違いますね。たとえば、有楽町店はお客さんの滞在時間が比較的短いので、点数の多いフェアをしても売れずに終わってしまうことが多かったです。土地柄、通勤の通り道の人が多いからかと思うんですが。
逆に神保町本店にはじっくり時間をかけて本を見に来てくれるお客さんが多いけれど、いわゆる名作と呼ばれるような、オーソドックスな本が売れる傾向が強くて。自分で本を選ぶ力があるという意味では素晴らしいんですが、新しいアプローチや常識を覆す本は敬遠されてしまうこともありますね。

最果さんのファンって20代前半くらいまでの若い方が多いのですが、彼女の詩集を80歳くらいのおじいさんが買ってくれるようになったりしたらすごくいいじゃないですか。だから今は、そういう新しい冒険みたいなものが生まれたらいいなと思って、売り方をいろいろ考えているところです。

 
──新井さんがどんな売り方をしてくださるのかが、今から楽しみです。今日は本当にありがとうございました!

<了>

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