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森見登美彦さん、10周年小説『夜行』を語る。

森見登美彦の新作『夜行』は、不気味に謎めいた雰囲気が魅力の連作怪談! 「小説を書くのは楽しいけれども、しんどい作業」と語る森見氏に、その小説執筆術についてお伺いしました。

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“書いているうちに、「ああ、この小説はこう終わるな」という部分が見えてくる。そのゴールに向かって小説を書くことはあります。”

 

——お話を聞いていて、理系的というか、作品の構成に対してシステマチックな気配りをされているのだな、という印象を受けます。

 

森見:実際にはそんなにハンサムに書けているわけではなくって、泥臭く「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤しながらやっています(笑) ただ、僕は「小説の世界の構造が分かると、終わらせ方もおのずと分かる」という風に思っているんですね。ひょっとしたらそれは自分がファンタジーを描く作家だからであって、「リアルな人物が、リアルな日常をどう生きるか」というような小説の書き方とは違うかもしれませんが。

例えば『四畳半神話大系』は、主人公が各話で大学生活を繰り返すうちに、最終話では並行世界に気づくという構造になっています。これもまた、単純に「並行世界である」という出口だけでは小説にはならない。だけど、書いているうちに「その並行世界の構造がどのように小説の中で明らかになって、主人公がそれにどう反応するか」というところが分かると、「ああ、この小説はこう終わるな」という部分が見えてくる。そのゴールに向かって小説を書くことはあります。

 

——構造から筋立てを逆算しているのですね。

 

森見:終わらせ方が事前に分かっている場合もあれば、途中で気づいたり、もしくは途中で当初の予定と変わったり、ということもあるので一概には言えないですが(笑) とはいえ、『夜行』の場合でいうと、単行本化について編集者と相談していて、この世界の構造が分かった時に、たぶん終わらせることはできるだろう、と思ったことは覚えています。「具体的な終わらせ方」は、書きながら四苦八苦して見つけていくわけですけど。

 

作家生活10年を振り返って気付くスタイルの変化、京都との関係性。

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“自分にとってもう一度京都が旅先になったとしたらどういう感じだろう?自分がよく知っていたはずの街が、全然見知らぬ街に見えてくるってどんな感じだろう?”

 

——旅小説としての『夜行』についてお伺いしますが、最終章の舞台が「鞍馬」に設定されていることには、森見さんの京都への特別な思い入れがあるのでしょうか?

 

森見: それでいうと、『夜行』の登場人物は、一人を除いてみんな東京に住んでいて、京都に再集結するという設定になっているので、実は「隠れた街」として東京の存在があるのかもしれません。書き始めた頃の自分が東京にいたこともあり、東京という場所の特性を活かしたかったという思いがあったんです。ただ、単行本化にあたって改稿する際に京都に重心が移った結果、「過去の街」としての京都と、それぞれの旅行スポットとの関係をメインに据えた小説になりました。やっぱり周囲からの憧れや、イメージの集積という点でみれば、京都はちょっと別格な街なのかもしれませんね。

 

——個人的には、10年ぶりに仲間がゆかりの地である京都に戻ってくるという章立てから、「この作品は森見さんにとっての巡礼なのではないか」と思う瞬間がありました。作家生活10年の折に、森見さんご自身と「京都」との関係について振り返ることはありましたか?

 

森見:最後の京都の場面を書いている時に、「自分にとってもう一度京都が旅先になったとしたらどういう感じだろう?」「自分がよく知っていたはずの街が、全然見知らぬ街に見えてくるってどんな感じだろう?」ということをイメージしましたね。自分には、京都を離れて東京にいた時期があり、今は奈良に戻り……と、居場所を転々としてきた来歴がある中で、京都の街との付き合い方もまた、学生時代に暮らしていた、あるいは就職したばかりの頃とは変わっていて。

今も京都に仕事場はあるものの、ある意味では京都と距離が生まれているので、「旅先としての京都」が想像しやすかったのだと思います。それが、最後の章が京都になっているという理由でもありますね。10年ぶり、というのもどこかで考えていたかもしれません。

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“『夜行』のように文章のテンションを抑えて書いている小説は、静かにエネルギーを出しているというか、深く潜っていくという感覚がある。”

 

——作家10周年記念作品の締めくくりとなる『夜行』ですが、森見さんの作家としての原点から遡ってみると、この小説の立ち位置はどんなところにあるのでしょうか?

 

森見:実は、デビュー前に自分が書きたいと思っていたのは『夜行』のような小説だったんです。ただ、いざ『太陽の塔』でデビューして、『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』を書く頃になると、「自分には明朗愉快な小説が向いている」ということを発見したんですね。とはいえど、勢いのある小説だけでは書いていてしんどくなるので、静かな路線も書きたくなるのですが、それもまた書くのが大変で。要はどっちもしんどい(笑) 小説を書くのは楽しいけども、まあ、しんどい作業です。

 

——(笑)その「しんどさ」の差はどんなところにありますか?

 

森見:『夜行』のように文章のテンションを抑えて書いている小説は、静かにエネルギーを出しているというか、深く潜っていくという感覚があります。深く潜った先で、自分でもびっくりするようなものを少しずつ探り当てていくというか。

その一方で、派手で狂騒的な作品は、まずはエネルギーを注いで小説を膨らますのが大切で、ある途端に自分がエネルギーを注がなくても勝手に飛んでくれるようになるんです。自分の中で二つの書き方の違いはそういうイメージです。

「飛ぶ」方は、飛ばすところまで登っていくのが結構大変ですが、そこまで行けば飛べるという自信がある。ただ、「潜る」方は、勢いに乗れない分、ずっと潜りながら少しずつ少しずつ慎重にイメージを探さなくてはいけない。今は「ここまで潜れば書ける」という経験値を貯めている最中で、何回も潜っては少しずつ小説の要素を拾い上げていくという風に書いています。

 

編集後記

「小説を書くのはしんどいです」と語る森見氏でしたが、その不思議なファンタジー世界の執筆背景を語る口ぶりに込められていたのは、一流作家としてのサービス精神と、自ら「我が子」と呼ぶ作品に対する揺るぎない愛着でした。

深く、静謐とした世界へと潜った森見登美彦氏が持ち帰った『夜行』の作品世界に触れた読者はきっと、この“夜の結晶”のもつヒンヤリとした輝きに魅了されることでしょう。

 

公式リンク:森見登美彦『夜行』の詳細を小学館オンラインで見る

 

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