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【中上紀氏インタビュー】中上健次:路地と世界、家族の存在

nakagaminori

昭和の名作文学の数々を、ペーパーバック書籍と電子書籍で発売・配信するP+D BOOKSからは、『鳳仙花』や『熱風』など、中上健次作品の刊行が続いています。そこで2015年12月18日、中上健次の長女でもあり作家の中上紀氏に、家族から見た中上健次の素顔についてインタビューを行いました。その模様をレポートします。

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世界へ向かう姿

―晩年には、作品執筆と密接な形で、頻繁に海外旅行をしていたようですね。旅行中はどのように異国に向い、どのように過ごしていたのでしょうか?

中上:フィリピンに行った時には、まず市場に連れて行かれましたね。作品に「フジナミの市」や「闇市」などが出てきますけれども、そういう路地的世界をみていたのかもしれません。観光スポットには行った記憶がないです(笑)子供に体験させてやろうと思ったのか、いかだを使う川下りはしましたね。

―熊野川のようですね。

中上:ええ。それから、現地の方によく話しかけられていました。すごく面白がって反応するからだと思うんですけれど、フィリピンに行くと、わっと物売りに取り囲まれるんですね。事前に「チョロQを買っとけ」と言われていたんですけれど、セブ島で物売りと仲良くなった時にそれを出すように言われて、彼に「これと交換しよう」と言って、きれいな貝殻のお土産と交換したりしていましたね。

―旅行体験と並行して、作品内でも世界に目を向けていくという動きがありましたね。そこで目指されてるものはなんだったのでしょうか?

中上:やはり、植物が根っこで繋がっているように、路地も繋がっていて、最後に熊野に戻ってくるんですよね。もともと熊野にあったものが、南米やアジアに広がって、広がったものがまたいろんなものをくっつけて熊野に戻ってくるような、それでもう一回また出ていくっていうような、そういう世界を土台にして書きたかったような気がしますね。

―一見、世界へ拡散する方向性だけが取り上げられていますけれど、そこから戻ってくる方向性もまた同時にあったということでしょうか?

中上:新しいものを身につけて、もう一度熊野を見直すというようなことで、『熱風』とか『異族』とか、新しい作品の中でもそれをやっていたような気がします。『熱風』でも最後、熊野に戻ってきていますよね。『大洪水』も戻ろうとしているのかもしれませんが、広がりすぎてなかなか戻れなかったのかもしれません。

私も今、書いている作品で、熊野から始まって熊野に戻したかったんですけど、なかなか戻れないんです(笑)

 

自死した兄の影響

―そのご執筆中の作品とも関係するのかもしれませんが、紀さんも健次さんが亡くなった年齢にさしかかっていますよね。健次さんもお兄さんが亡くなった年齢にさしかかった時は大きな分岐点でしたが、作家の中上紀さんとしては、同じような心情になることもあるんでしょうか?

中上:父の)兄が亡くなったのは特殊な状況でしたので、父は、自分が兄を死に導いたのではないかという贖罪的な意識をずっと背負っていました。24歳で兄が死んだことは「呪い」としてずっとあって、だからその先の未来が見えなかったし、めちゃくちゃなことをやるんだっていうことで……。

でもやっぱり生きたくて、そこで、私ができたことが良い理由になったんだと思います。私を生かすためには、自分が外で金を稼いで飯を食わさないといけないですよね。その理由があるから俺は生きるんだっていうことで……。だから、私の(心情)とは重みがまったく違いますね。

―その重みについては、実際に話を聞くこともありましたか?

中上:それはもうよく言われましたね。小さい私たちを見ながら自分が毒を飲んで苦しんでいる姿を想像してたんだよって、大きくなってから言われました。もう分かる年齢だからってことで、そのこと(贖罪意識の重み)を考えてほしかったんだと思うんです。

でも、その頃は作品もあまり読んでいなかったので、お兄さんの死を想像できていなくて、なんでそんなこと言うんだろうってすごく思っていました。それから私も年をとって、作品を読むごとに、ああそうなんだって、ひしひしと感じるようになりました。

 

父としての中上健次

―お兄さんの死を越えて、自分が父親としてどう生きるかという問題が、『岬』などで問題化される自分と実の父親の問題と重なっていたのではないかと思うのですが……。

中上:ただ、父親としてどう生きるかということは、あまり考えていないような生き方をしてたように私、子供のころは見てたんですね。作家として生きてるなというのがずっとありましたから。フランスにいたりニューヨークにいたりとか、ほとんど家にいなかったので、物理的な距離がありましたが、不思議と存在感はありましたね

でも、私が高校を卒業した89年にもらった手紙の中に、「紀が生まれた時は三人、菜穂が生まれた時は四人、涼が生まれた時は五人の単位でいつも物を考えている」と書いてあったんですね。やはり父親として生きるってことはちゃんとしようとしていたんだとその時に思って、じゃあそこで父を信じようって、信じることにしたんです。

 

〔取材・編集〕亀有碧


 

 

P+D BOOKSでは『鳳仙花』、『熱風』に続いて『大洪水』の刊行(2016年2月12日)を予定しています。また、2016年4月には自筆原稿・制作ノートなど豊富な付録を収録した史上初の完全版『中上健次電子全集』が発行予定です。

中上健次に関するありとあらゆる文章や資料を収録し、中上文学のすべてが明らかになる、必見の全集です。

▼P+D BOOKSで現在発売中の中上健次作品はこらら。

【熱風】
http://www.shogakukan.co.jp/books/09352238

【鳳仙花】
http://www.shogakukan.co.jp/books/09352205

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