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「本が出なければ死のうと……」岡田伸一×池上真之対談・230万部作家の壮絶な過去

いまや一大ブームとなったスマホ小説の世界で、“第一世代”として絶大な人気を誇る作家・岡田伸一氏が、累計230万部の大ヒット作『奴隷区』シリーズを生み出すまでの苦労を語る!対談相手は、岡田氏が執筆の舞台としてきた投稿小説サイト「エブリスタ」の元社長・池上真之氏。濃密な制作秘話がここに!

岡田伸一氏が語る、駆け出し時代のエピソード

投稿小説サイト「エブリスタ」の元社長・池上真之氏は、著作『会社を辞めて年収が上がる人、下がる人』(小学館)の中で、“シロウト作家”たちが、いかにしてミリオンセラーを連発するまでに成長したかをつぶさに分析し、個人の時代を生きるサバイバル力とは何かを提唱。その発刊記念として行われた、人気作家・岡田伸一氏との対談を以下に紹介します。その制作の背景にはどんな思いがあったのでしょうか?

岡田氏は対談で、「2年以内に本が出なければ死のうと思っていた」「白い眼で見られ、親からは就職セミナーに連れて行かれた」など駆け出し時代のエピソードを明かし、「自分の作品は面白いという自信と読者のレスポンスが支えだった」と語りました。

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スマホ小説ブームの嚆矢となった『奴隷区』

かつて素人作家の手になる「ケータイ小説」といえば、ティーンエイジャーの少女をターゲットに、恋愛や学園生活をテーマにした作品が定番だったが、スマホの普及とともに読者層とジャンルは多様化し、ニーズも作家も急拡大した。投稿小説ブームを作った「エブリスタ」が産声を上げたのは2010年のことで、直後から『王様ゲーム』(金沢伸明)、『通学電車』(みゆ)などのミリオンヒット作が次々と生まれた。

そうした初期のヒット作のひとつが、岡田伸一氏のミステリーホラー作品『僕と23人の奴隷』だった(のちに漫画化、映画化の際に『奴隷区』に)。現代日本を舞台に、装着して勝負すると負けたほうを奴隷にできる「SCM(スレイブ・コントロール・メソッド)」という器具を手にした男女24人のサバイバル・バトルを描いている。暴力やSMといったセンセーショナルの場面の緻密な描写、スピーディな展開が支持を受け、連載直後から爆発的に読者を増やしていった。

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2012年に双葉社から漫画化されると、きゃりーぱみゅぱみゅさんら著名人が絶賛したこともあって大ヒットし、2014年には秋元才加さん、本郷奏多さん主演で映画化され、小説版はシリーズ累計230万部に達した。映画は台湾でも大きな話題となった。

はた目には順調そのものだった岡田氏のシンデレラ・ストーリーだが、連載開始当時を振り返って岡田氏は「人生のどん底だった」と言う。だからこそ、どん底から抜け出すために努力を惜しまなかった。読者の感想を精査し、「登場人物のスキャンダルがあると読者が増えることがわかった」(岡田氏)といった細かいブラッシュアップを続け、読者の多い時間を狙って連載を更新するなど、マーケティングにも気を配って出版にたどり着いたという。

 

岡田伸一氏の成功の裏に隠された覚悟

池上:『奴隷区』はいまや230万部の大ヒットですが、エブリスタの社長時代にもうかがったところでは、簡単な道のりではなかったですよね。会社員を辞めて作家になるというのは、周りから反対されませんでしたか。

岡田:反対よりは「白い眼」ですね。

池上:白い眼とは?

岡田:無職の時には、親には頭がおかしいと思われて、就職セミナーに連れて行かれたこともありました。ウチの子、ちょっとおかしいみたいな(笑)。

池上:書き始めた頃の目標ってありましたか。

岡田:正社員から派遣になって、そこで期限を決めて、2年間で本を出そう、出せなかったら死のうという覚悟でやりましたね。作家業の方には多いと思いますけど、まず自分の自信が半分なんです。それで、ネットだと読者のレスポンスがあるじゃないですか。(支えになったのは)その2つですね。それが作品をやり遂げることにつながる。

池上私もエブリスタの社長の時に「何か書こう」と思って何度も書き始めるんですが、完結したことがないんですよね。

岡田ここにあるじゃないですか(笑)。

池上この本を書き上げたのは奇跡的ですよ。構想したり、妄想したり、最初の50ページを書くのは楽しくて仕方ないんですけど、途中から終わらせるまでが辛いというのは、いろんな人から聞いていましたし、エブリスタの作品も実際に未完も多い。一つの作品を帳尻つけて書き上げるというのは非常に大変なことですよね。

岡田それを繰り返すことですね。あんまり読者のため、読者のため、と言っていると偽善になるというか、最終的に作品の方向性が曲がったりした時に人のせいにもなっちゃうんですね。だからレスポンスだけじゃダメで、自信も大事ということです。

 

岡田伸一氏の夢―「手塚治虫方式を現代に」

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池上自分で期限を決めて、それが迫ってきて、冷や冷やじゃなかったですか。

岡田若干、補足したいんですけど、2年で死のうと思ってましたけど、一方では絶対に死にたくないんですよ。死ぬのなんかまっぴらですよ。だから頑張れたんです。僕にとっては、人に喜んでもらえること、社会に貢献できることはこれ(スマホ小説)しかなかったんですね。

池上社会のなかで居場所がそこだった。

岡田作家とか自営業の人には言えることだと思いますが、「自分が上司」なんですよ。だから期限も自分で決めなきゃいけない。おかげさまで今は例年の5倍の仕事を頂いています。マンガの原作が2本と小説3本。

池上それは楽しみですね。岡田さんは会社もお作りになってますよね。

岡田ゆくゆくは自分でアニメを作りたいんですよ。何言ってんだと言われちゃいそうですが、手塚治虫先生みたいに印税でアニメを作るみたいな方式を現代にやってみたい。それを40歳くらいまでに着手してみたいな、と。

池上また自分で期限を決めて。

岡田最近、自分が見たいアニメが正直少ないというのもあります。

池上小説でもやっぱり自分が読みたいものを作るっていう感覚はあるんですか。

岡田それはもう、今までもこれからも変わらないですね。自分が見たくないものは書きたくないですね。仕事が楽しいかどうかなんですよ。それは人のために動くことを楽しめるかどうかってことで、それができたら、どんな仕事でもテッペンを狙えるんじゃないですか。

池上仕事を楽しみたいというのは、いろんな人が考えてることですけど……。

岡田理想論かもしれないけど。だから、池上さんの本はすごくいいと思いましたよ。例えば「自己診断」が入ってますよね。この本を読むと自分のことがわかる。作者が書きたいことを書いて、それが読者の得になるっていうのはすごくいいと思います。

池上ホントですか!? 僕は今、不安でしょうがないんですけどね。

岡田伸一氏は言う―「若者たちは外国に行け」

池上自分が楽しむだけじゃなくて相手を楽しませるというのは、作家さんに限らず大事なことですね。岡田さんは新社会人とか若者とお会いになることはありますか。

岡田あります。このあいだも母校に呼ばれて、ちょっと話をしました。

池上そういう時に、どんなメッセージを伝えるんですか。

岡田「外国に行け」って言ってます。

池上えーっ!? 岡田さん、外国行ってましたっけ(笑)。

岡田あんまり行ってないんですけど、学生時代にはボランティアで中国の砂漠のほうに行ってたことがあるんです。

池上そうですか。じゃあ、その時の体験が根っこにあるということですか。

岡田あるにはあるんですが、むしろ「もっと行っときゃ良かった」ということですね。とにかく未知の場所で挑戦してほしいんですよ。

池上 若い人はこれから外国に行くのもいいと思いますが、もう社会人になって会社に勤めてる人はどうやって挑戦すればいいでしょうね。

岡田もし今、僕がもう一度、会社員をやるんであれば、誰よりも早く出社して掃除しますね。まずはそこから始めます。それも挑戦だと思います。

池上あんまり大きな挑戦じゃなくていい。

岡田ひたむきな気持ちで、自分が楽しめればいいでしょうね。朝早く起きる、でもいいでしょうし。「上司の言うことをきく」だって、初めのうちは必要ですよ。他人のせいにしていると成長がありませんから。


岡田伸一
1984年、東京生まれ。小説家、シナリオライター。2006年に投稿小説サイトで執筆活動を開始。12年、『奴隷区 僕と23人の奴隷』(双葉社)を刊行。

池上真之
ユーゴスラビア生まれ。アメリカ在住だった中学生時代にプログラミングで賞を受賞し、学生時代を通じてプログラミングに熱中する。慶応義塾大学理工学部を卒業後、外資系コンサルティングファーム「A.T.カーニー」に入社。様々な業界のコンサルティングを手がけた後、DeNAとNTTドコモの合弁会社「エブリスタ」の立ち上げに携わり、同社代表取締役社長に就任。『王様ゲーム』『奴隷区』などメガヒット作を次々と生み出し、スマホ小説ブームを作る。15年3月末に退任し、現在はグロービス経営大学院で「ネットビジネス戦略」を教える傍ら、放送局や出版社のデジタル戦略コンサルティングに従事する。

おわりに

出版不況と言われて久しいなか、スマホ小説からは毎年のようにミリオンヒット作が生まれている。既存の文芸ファンからは、「あんなものは小説じゃない」といった辛辣な批評もあるが、多くが無料で読める小説でありながら、それをまとめて書籍化した作品が大きなセールスをあげることは注目に値する。岡田氏のように、読者サービスを徹底する姿勢は既存の作家にも共通するはずだが、ネットを舞台にしたことで、ファンとの交流と連載がリアルタイムに絡み合う新しい創作空間が、ファンに「自分が推した作品が書籍化された」という充足感を与えていることは間違いない。

対談相手となった「エブリスタ」元社長の池上氏は、近著『会社を辞めて年収が上がる人、下がる人』のなかで、スマホ小説をこう分析している。

作品はファンの思いを乗せる「器」であり、(中略)作品を通じた出会いや交流といった体験までもが作品世界の一部だ。スマホ作家たちが生み出しているのは、コンテンツというよりもコンテキスト(文脈)といったほうが近い。エブリスタはコンテキスト配信プラットフォームなのだ。

引用:池上真之:会社を辞めて年収が上がる人、下がる人

小説に限らず音楽やマンガでも、ユーザーが作者にも批評家にもファンにもなれるプラットフォームが隆盛している。岡田氏は面白い作品を書くことを「社会貢献」と表現したが、ネットやSNSによって新しいコミュニケーション空間が広がることで、「作家」と「読者」の関係や役割は大きく変わり始めているのかもしれない。

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