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【著者インタビュー】安堂ホセ『ジャクソンひとり』/ブラックミックスの個々の違いがわかりにくいことを逆手にとった〝復讐〟

ブラックミックスでゲイの4人が、個々の違いが日本人にはわかりづらいことを逆手に取り、〈俺たちも、入れ替わっちゃう~?〉作戦に出る! 痛快さも切なさも渾然一体となった感情の塊に、終始心乱されること必至の快作。

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

ブラックミックスの若者たちが企んだ〝ある復讐〟鋭く当事者性を問うヴィヴィッドなデビュー小説!!

ジャクソンひとり

河出書房新社 1540円
装丁/川名 潤 装画/Tishk Barzanji

安堂ホセ

●あんどう・ほせ 1994年東京都生まれ。『文藝』2020年秋季号の特集「覚醒するシスターフッド」に感激し、初小説「赤青坂黄色闇」を第58回文藝賞に応募。最終候補に残るが惜しくも落選。晴れて今年本作で同賞を受賞し、デビューを果たす。元々映画好きで、自ら制作も手がけたが、「1人で気が済むまで作れる表現の方が合っている気がして」シナリオから小説に移行。読書も昔から好きで、川上未映子、金原ひとみ、桐野夏生等、女性作家の作品を愛読。187㌢、A型。

差別や抑圧の構造両方に共通するつらさや楽しいこともある感じを書いてみたかった

 人は誰しも自分を通じて外界を見る。その時、その人をその人として認識する判断の基準は、実は結構、いい加減なものかもしれないと、安堂ホセ氏の第59回文藝賞受賞作『ジャクソンひとり』を読んで思った。
 だから本書のジャクソン達は、某大人気映画を茶化した〈俺たちも、入れ替わっちゃう~?〉作戦に、4人で打って出る。彼ら〈ブラックミックス〉の個々の違いがそうでない人にはわかりにくいことを逆手に取った、遊び半分、本気半分の、〈復讐〉である。
 端緒はSNSに流出したリベンジ紛いの凌辱動画。
〈ココアを混ぜたような肌、ぱっちりしすぎて悪魔じみた目、黒豹みたいな手足の彼は、ベッドに磔にされていた。そのビデオを見てすぐに、ジャクソンはそれが自分だと察した。その時のことは覚えていないし、似ている男なんて世界中に何人もいると思う。だけど、ここは日本で、この外見でこんなふうに扱われるのは、ジャクソンひとり〉―。

 著者は東京生まれの28歳。〈アフリカのどこかと日本のハーフで、昔モデルやってて、ゲイらしい〉という主人公を巡る噂の乱暴さは、自身も感じてきたという。
「着想そのものは、例えば『雑誌、見たよ』と昔の同級生から連絡がきたけど僕じゃないことが実際にあって、だとすれば自分と似たような立場の人が他にもいて、ならばこういう作戦も成立するよなあ……というふうに考えていきました。
 実は前回応募した作品もブラックミックスのゲイの子が主人公だったんですが、言葉が小説というより随筆に近いと選評にあって。そこで今回はジャクソンと〈ジェリン〉〈エックス〉〈イブキ〉というゲイでミックスの人間を4人出して、あえて虚構性の高い設定に挑戦した部分もあります。
 自分も海外で同じような目に遭ったと言う日本人もいるし、人の見え方は誰がどの角度から見るかで変わる以上、確かに誰にでも起き得る話かもしれません」
 スポーツブランド〈アスレティウス社〉のスタッフ専用ジムで整体師を務めるジャクソンが、バスケット選手の施術を終え、フードコートで昼食をとっていた時のこと。彼が椅子に脱ぎ捨てたロンティーに仕込まれていたQRコードをたまたま〈キャプテン〉の携帯が読み取ったが最後、その動画は社内中に拡散され、ジャクソンは好奇の目に晒されることになる。
 むろん〈どうしてこれが俺だと思うの〉と抗議もしたが、実はジャクソンも動画内の〈世界地図が描かれたカーペット〉に見覚えがあった。そこはゲイが集う自然公園の隣の〈ホテル・サジタリ〉だった。
 一方、ジャクソンが防犯ビデオの開示を求め、警察に被害届を出す間、高級ブランド店でドアボーイを務めるジェリンは、ゲイの警備員〈トシ〉から動画をネタに脅されていた。困ったジェリンは海外でも人気の配信系ポルノスター、イブキに相談。彼は〈おれってことにしてみる?〉と本人役を買って出てくれたが、その嘘を見抜いたのが嘘と笑われることが大嫌いな知人、エックスだった。
 やがてくだんのロンティーを送り付けた犯人探しも兼ね、頻繁に会合を重ねた4人は、〈なにが『入れ替わってるう~?』だよ〉〈白紙に黒い線引いて、はい、輪郭です。はい、白紙部分は肌です。自分たちと同じ人間です〉〈どんだけお気楽なんだ〉などと毒づき、その流れでジャクソンが作戦を提案。交換殺人にも似た復讐を試みるのだ。

心乱されること必至の感情の塊

「世の中には小説が好きで小説を書く人と、書きたいテーマがあって小説を書く人がいるとして、僕は断然後者。だからその動機に負けないくらい誰が読んでも飽きない小説にしたかったし、人種とセクシュアリティに関する差別や抑圧の構造のどちらにも共通するつらさや、楽しいこともある感じを、4人のざっくばらんなお喋りに書いてみたかった。差別はある。でも本人達は結構楽しく、ヘラヘラ生きてもいいんだよって。
 本当はこういうドラマがネトフリ(Netflix)とかにあれば楽しいのに、ないんですよね。誰でもズケズケ入ってこれるテンションや、深刻な話もぶっちゃけて話せる空間が作りたくて、文章のリズムや展開はもう誰も追いつけないぞってくらい、テンポを上げました」
 そう。1人、また1人と仲間が増えていく際の疾走感や、その境目が溶け出し、〈自分がどんな成分でできた誰なのか〉〈どうでもよくなりながら眠った〉雑魚寝の安らぎ。またエックスが出演した人気リアリティーショー〈『嘘とパイ投げ』〉の胸を抉る顛末など、読む者は痛快さも切なさも渾然一体となった感情の塊に、終始心乱されること必至だ。
「僕はアラン・J・パクラ監督の映画が大好きで、敵を監視したり潜入したりする人の抑圧された状況が物凄くセクシーというか、自分を隠し何者かを演じる、その虚構性とスリルにグッとくる。だから、それでいてエンタメ性もある小説を書きたいと思うんです」
 動画の男とジャクソンの何が似ているのかと問われ、キャプテンが直言を避ける程度には、現代はポリティカルにコレクトではある。
「だからこそ更新が必要。私はこんな差別発言をされた、だからつらいという従来のルートが、令和版だとこうなりますよって」
 認識は改まっても差別はなくならず、水面下に潜りがちなだけに、この痛快で今日的な文学は書かれた。性別や人種以前に、彼らが〈生きてるってこと〉、その手触りがただただ愛おしい快作だ。

●構成/橋本紀子
●撮影/朝岡吾郎

(週刊ポスト 2022年12.16号より)

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