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渡辺 努『世界インフレの謎』/国民の最大の関心事となったインフレの原因をわかりやすく分析

大ヒット作『物価とは何か』の著者が、経済に詳しくない人でもインフレを深く理解できるように、わかりやすく分析し、将来を展望する一冊。本書で特に興味深いのは、日本のインフレ率が極端に低いレベルに収まっているという事実の分析であると経済アナリスト・森永卓郎は語ります。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
森永卓郎【経済アナリスト】

世界インフレの謎

渡辺 努 著
講談社現代新書 
990円
装丁/中島英樹/中島デザイン

極端に低いレベルに収まっている日本のインフレ

 本書は、『物価とは何か』で大ヒットを飛ばした著者が、国民の最大の関心事となったインフレの原因を分析し、将来を展望したものだ。そう書くと、難しい経済の本だと思われるかもしれないが、著者は物価研究の第一人者であると同時に、分かりやすく解説する類まれな能力を持っているので、一般の人でも十分理解が可能な本だ。
 もちろん分かりやすくするために、経済理論やデータを無視しているわけではなく、むしろそれをきちんと踏まえたうえで、一般読者に驚きを提供している。例えば、今回の物価高をロシアのウクライナ侵攻のせいだと思っている国民が多いが、著者は、それが物価高の主因ではないと断言する。物価上昇は侵攻前の2021年から始まっているからだ。物価上昇の原因は、需給がひっ迫したからだというのが、著者の見立てだ。
 本書で最も興味深かったのは、日本のインフレ率が、極端に低いレベルに収まっているという事実の分析だ。エネルギー関連など、一部の品目を除けば、日本では圧倒的多数の品目が値上がりしていない。著者はその原因を、日本の消費者の値上げ嫌いにあるとしている。長引くデフレのなかで、物価は上がらないと思い込んだ日本の消費者は、ある商店で値上げが行われると、他の店に流れてしまう。だから、メーカーや商店は、なかなか値上げができない。
 ただ、今回のインフレ進行のなかで、著者は今後の日本経済について2つのシナリオを提示している。一つは、このまま賃金が上がらず物価上昇が続き、不況とインフレが同時進行するスタグフレーションに突入するというシナリオだ。もう一つは、消費者の値上げ嫌いが治り、緩やかな物価上昇と賃金上昇の好循環が始まるというシナリオだ。著者は後者に期待をかけている。
 私は、悲観論者なので、来年はデフレに逆戻りすると考えているが、いずれにせよ、来年が、日本経済の慢性デフレを解消できるかどうかの正念場であることは、本書を読めば、明らかだろう。

(週刊ポスト 2022年12.23号より)

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