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齋藤孝著『心に感じて読みたい 送る言葉』には心を揺さぶる力があるー伊藤和弘が解説!

大切な人に、どんな言葉を贈ろうか…。弔辞を書くということ、そして詠み上げる瞬間は、まさに言葉に言霊が宿る瞬間でもあります。何度も読み返したくなる「送る言葉」の力が一冊に凝縮。齋藤孝の著作を、フリーライターの伊藤和弘が解説します。

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あの人には二度と会えない- 故人に最後に「送る言葉」には 心を激しく揺さぶる力がある

『心に感じて読みたい 送る言葉』
送る言葉_書影
齋藤孝・創英社/三省堂書店・1404円

2016年8月刊行。作家、芸能人、スポーツ選手など、日本の近現代史を彩る著名人に送られた多くの「弔辞」から、珠玉の名作を厳選。実用書としての価値も高い一冊。

〈文章を考えるのはそれだけでエネルギーがいることなのに、最後のお別れの場で全員の前で詠み上げられるとなれば、弔辞を考える人は大変なエネルギーをその文章に注ぐ。
短いなかにものすごい量のエネルギーが込められた文章-それが弔辞だ。聞く人、読む人はそのエネルギーに心を揺さぶられるのである〉
近現代に各界で活躍した著名人に送られた弔辞や追悼文を厳選し、それぞれに齋藤孝氏がていねいな解説を加えた一冊だ。  菊池寛が芥川龍之介に送った弔辞など「作家編」、山田太一が寺山修司に送った弔辞など「文化人編」、倍賞千恵子が渥美清に送った弔辞など「映画・芸能人編」、池田勇人が浅沼稲次郎に送った追悼演説など「政治家・経済人編」、王貞治が川上哲治に送った弔辞など「スポーツ選手編」に分けて、1927年から2013年に発表された計21人の弔辞(および佐藤浩市による喪主挨拶)を収録。さらに最終章「作品の中のあの人」編にはエッセイや詩などの形で書かれた追悼文が載っている。
著者もいう通り、故人に捧げる弔辞には通常のスピーチにはない力がある。生前の故人をよく知らない人が聞いても、思わず目頭が熱くなることも少なくない。それだけ気持ちが込められた言葉だからだろう。
特に本書に収録されたものは、現代史に名を残す著名人に送られたものばかり。生前の活躍を知っている人たちなので親しみやすく、それだけに胸を打たれるものが多い。
それぞれの弔辞の後に付けられた解説も実に的確だ。故人はどんな人生を送ったのか、弔辞を詠む人とはどんな関係だったのか、知られざるエピソードなど、多くの読者が知りたいと思う情報がコンパクトにまとめられている。この解説を読んだ上で、改めて弔辞を読み返せば、さらに感動が深くなるだろう。

弔辞を書くときのポイントが自然と頭に入ってくる

たいへん味わい深い読み物であるとともに、実用性が高いことも見逃せない。すべて実際に葬儀の席などで朗読された本物の弔辞のため、いざ自分が弔辞を詠むことになったときの絶好の参考書になっている。
例えば、武田泰淳が三島由紀夫に送った弔辞の〈疾走する長距離ランナーの孤独な肉体と精神が蹴たてていった土埃、その息づかいが、私たちの頭上に舞い上り、そして舞い下りています〉から「故人をイメージした上手な比喩の使い方」を、黒柳徹子が森光子に送った弔辞の〈気がついたら、私は森さんが首に巻いてる薄いスカーフを下駄で踏んで持ち上げたので、森さんの首がしまってたんです〉から「本人しか知らないエピソードの重要性」をわかりやすく説明。多くの人の胸を打ち、故人の思い出を呼び起こす弔辞を作るにはどうすればいいのか。読み進めていくうちに、弔辞に必要なポイントや文章の組み立て方が自然と頭に入ってくる。
エッセイや詩による追悼文を集めた最終章では、最後に『君は天然色』(松本隆)と『ひこうき雲』(荒井由実)という歌詞も入っているのが目を引く。〈同じく人の死を悼む言葉なのだが、弔辞とちがって幅広い受け取り方ができるのが歌の良さだ〉と著者は書いている。大滝詠一に頼まれて『君は天然色』を書いたとき、松本隆は妹を失った直後だったらしい。この歌に登場する女性は「別れた恋人」であると同時に、「最愛の妹」でもあったことを知って目からウロコが落ちた。
世の中には、決して読み飛ばすことができない重みを持った言葉がある。一回読むだけで終わりにせず、大切に保管し、折に触れて繰り返し手に取りたくなる一冊だ。

齋藤孝さいとうたかし
1960年生まれ。東京大学法学部卒業。2003年より明治大学文学部教授。’01年に出版した『声に出して読みたい日本語』(草思社)は毎日出版文化賞特別賞を受賞し、250万部を超えるベストセラーに。近著に『子どもの人間力を高める「三字経」』(致知出版社)、『年を取るのが楽しくなる教養力』(朝日新書)など。

(伊藤和弘/ フリーライター。著書に『男こそアンチエイジング』など。)

(女性セブン2016年10月27日号より)

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