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卯月妙子著『人間仮免中つづき』は深刻な現実をユーモラスに描く感動作!著者にインタビュー!

闘病しながら紡がれる、強靱な愛に満ちた日々。深刻な現実をユーモラスに描き、笑いと涙と感動を呼ぶコミックエッセイの続編。その創作に込めた思いや背景を、著者にインタビュー!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

苛烈で型破り 誰より強靱な2人の愛を描く感動コミック!

『人間仮免中つづき』
人間仮免中つづき
小学館 1300円+税
装丁/名和田耕平デザイン事務所

卯月妙子
●うづき・たえこ 1971年岩手県生まれ。20歳で結婚後、夫の会社が倒産、借金返済のためホステス、ストリップ嬢、AV女優として働く。過激なAVはカルト的な人気を得る。夫が自殺、10歳頃から患っていた統合失調症が悪化する。入退院を繰り返しながら舞台などの活動を続け、自伝的漫画『実録企画モノ』『新家族計画』を発表する。2012年に出版した『人間仮免中』が大きな反響を呼び、12万5000部のベストセラーに。2014年、東京芸術劇場で東日本大震災がテーマの作品を発表。170㌢、A型。

歩道橋から飛び降りた後、初めて見た自分の顔が面白くて書き始めた漫画だったのに……

小学生のときに統合失調症を発症した卯月妙子さんは、以後、精神病院への入退院を繰り返してきた。2007年には歩道橋から飛び降りて自殺を図り、一命を取り留めたものの顔面が崩壊、右目の視力を失う。〈おいら〉と恋人〈ボビー〉との出会い、〈おいら〉が歩道橋から飛び降りるまでのいきさつ、その後の回復過程を描いたコミックエッセイ『人間仮免中』は大反響を巻き起こす。それから4年半。卯月さんが、ボビーとのその後を描いた待望の続篇『人間仮免中つづき』を発表した。

〈北海道の、ある障害者福祉施設にお世話になったわたしはボビーと5年間、離れて暮らしました〉〈持病の統合失調症は、過去に例がないほど悪化しました。陰性症状に突入し、最後の2年間は寝たきりに近い状態でした〉
行きつけの飲み屋で知り合ったボビーと25歳年下の〈おいら〉。〈おいら〉の自殺未遂でも別れなかった二人だが、〈おいら〉の病気が悪化、いったん離れて暮らす選択をする。勤め先を退職し、〈もうじき古希〉のボビーが北海道にやってきて、二人が再び一緒に暮らし始めるところから漫画は始まる。
前より太った〈おいら〉が〈既に85キロ…〉と白状すると、ボビーは〈どっから見ても善人ですって、ツラになりやがってよ!!/俺、あなたの昔のヘンに妖艶だった顔より、今のほうが好きだなあ〉と笑い飛ばす。
「私、押しかけ女房なんです。思いを告白して、ボビーのうちへ行った5日後には、タンスと電気釜と衣類一式、全部ヤマト運輸で運んで引っ越してきちゃった。会社から帰ってきたボビーは唖然として、ひとこと『いいタンスだな』って。もう逃げられないと思ったんじゃないですか(笑い)」
押しかけられたボビーは献身的に彼女の世話を焼く。それは北海道での同棲中も変わらない。ひどい寝汗を拭いたり、眠りにつくまで足を揉んだり。統合失調症についての知識を深め、〈おいら〉が〈頭が3つある犬〉の幻覚を見ても、糞尿を垂れ流しても驚かない。
生き物を殺せず、〈ゴキブリも殺さないで飼っていい?〉という〈おいら〉に、驚きつつも〈んーまー別にゴキブリぐらいいいけど……〉というボビー。
「ちっちゃいころから動物や虫が大好きで、うちじゅう、虫や動物だらけだったんです。保育園のころ先生たちがつけたあだなが『虫めづる姫君』でした」
二人はハエに〈小町〉〈次郎〉という名前をつけていつくしむ。秋が来て、小町と次郎が死んだあと、小さいハエが飛んでいるのを見て〈どっかにウジが湧いてるんだ!!〉と命がつながったことを喜び、泣く二人。

1日がまるで1年みたいな密度だよ

卯月さんはおじいちゃん子で、最初に覚えたのが石原裕次郎と浅丘ルリ子のデュエット「夕陽の丘」、高校のときは地域の老人会に入っていたという。ともに懐メロ好きで酒好き、年齢差を感じないボビーとの楽しい日々は、〈おいら〉が新しい治療薬を試みたとき、難しい局面を迎える。薬が原因の〈おいら〉の不調に、ボビーの年齢的な不調が重なったのだ。 「このとき新薬に賭けたのは、陰性症状をどうしても抜けたかったから。本の担当さんを待たせ続けていたので、早くペンを入れたくて、一発逆転したくて、新薬の認可が下りたとき『よっしゃいける』と思っちゃった」
きまじめで、人一倍、気をつかう人らしいエピソードだ。そう言えば、前作が出たとき「卯月妙子さんが生きていてくれて、この漫画を書いてくれて本当によかった」と書評に書いたのは小泉今日子さんで、新作の帯にも推薦を寄せた。
「ほんとにありがたいです。(前作への反響は)もう、何が起きてるんだろうという感じで。不謹慎ですけど、歩道橋から飛び降りた後、病院のトイレで初めて見た自分の顔があんまり面白くて。写メを友達にバンバン送って、『スライド見せてトークショーやればいいじゃん』って。そんなノリで書き始めた漫画なのに……」
現実の中で描くことが難しい幻聴や幻覚も、卯月さんは全部漫画にする。これらは、後でボビーさんに聞いて描くのだろうか。
「いえ、ぜんぶ覚えていて、意識があります。ネーム(下書き)はボビーに見せるので、『もっとこうだった』と言われたらもちろん書き直しますけど」
喧嘩も、エッチの失敗も書かれているが、「小林旭みたいに描いてくれ」ということ以外、ボビーさんから注文がつくことはない。
卯月さんはふだん「卯月さん」と呼ばれるが、大事なことを伝えるときは「あなた」になり、「おい兄弟、きょうは寿司食うか?」と言うことも。怒ればそれが「小僧!」になる。
『人間仮免中つづき』は、おとなの大恋愛漫画である。かけがえのない相手に出会えた喜びは凝縮され、作品のエピソードとなり、2年前に始めたという俳句にも託される。
〈この暮らしは、そんなに遠からず終わるかもしれない―/だから、今いっぱい思い出作って、1日を楽しんで、1日がまるで1年みたいな密度だよ〉
「ボビーは、自分が死んだら『人間仮免中おわり』を書け、って言うんです」

●構成/佐久間文子

(週刊ポスト 2016年12.23号より)

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