西村直樹著『海外富裕層がやっている“究極”の資産防衛アンティークコイン投資入門』が説く資産の増やし方
実は富裕層の間でとても人気の、ヨーロッパコインの魅力とその投資価値に迫る一冊。誕生の経緯や価値上昇の経緯を歴史と絡めながら紐解いていきます。経済アナリストの森永卓郎が解説。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
森永卓郎【経済アナリスト】
海外富裕層がやっている“究極”の資産防衛アンティークコイン投資入門
西村直樹 著
幻冬舎
1500円+税
装丁/うちきばがんた
「金持ちはますます金持ちになる」という大原則
究極の資産防衛は、アンティーク・コインだと断言する著者は、コイン商を営んでいる。だから、「ちょっと宣伝っぽいな」と思ったのだが、書いてあることが、的を射ているので、取り上げることにした。著者は、富裕層がいまアンティーク・コインで資産を増やしているというのだ。
ここでいうコインは、普通のコインではない。金貨を中心とする歴史的なコインだ。百万円から数千万円という高額の評価がつくアンティーク・コインは、この十年で248%も値上がりしているという。もちろん、コイン全体が値上がりしているわけではない。ごく一部の高額コインだけが値上がりしているのだ。その理由は、残存枚数が少なく、富裕層の間で奪い合いになっているからだ。
高額のものだけが値上がりするという現象は、実はあらゆる分野で起きている。例えば、婚約指輪のダイヤモンドは、その後、売りに出しても二束三文だが、数十億円のダイヤモンドは、購入価格よりも高く売れる。普通の車は十年も経てばタダになってしまうが、フェラーリなどの高級スポーツカーは、むしろ値上がりしていく。
そうなる理由は、世界中で所得格差が拡大するなかで、低所得層が増えるのと同時に、富裕層も増えているからだ。
アンティーク・コインが富裕層の人気を集めるもう一つの理由は、相続税対策だ。いまや税務当局は、ほぼすべての財産を捕捉している。著者は、遠回しにしか書いていないのだが、ポケットに入るコインが捕捉しにくいのは事実だろう。
もちろん、こうした富裕層向けの資産は、リーマンショックのようなことが起きれば、値下がりするのだが、中長期でみれば、格差拡大のトレンドは、数百年のスパンで続いているので、値下がりのリスクは小さいと言えるだろう。
妖しい光を放つアンティーク金貨が語るのは、「金持ちはますます金持ちになる」という大原則だ。庶民の投資対象にはなり得ないコインだが、庶民とは無縁の世界だからこそ、本書は実に面白いのだ。
(週刊ポスト2017年1.27号より)

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