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三羽省吾著『ヘダップ』が描く鮮やかな青春群像!著者にインタビュー!

考え、悩みながら前に進む18歳の桐山勇。汗と涙にまみれ成長する勇の姿には思わず目頭が熱くなります。慣れない新天地での生活に揺れる勇には、誰にも言えない過去が...。みずみずしい青春を描いた一作の、創作の背景を、著者にインタビュー。

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

人生もサッカーも「顔を上げろ!」と鼓舞してくれる青春小説

『ヘダップ!』
ヘダップ書影
新潮社 1600円+税
装丁/新潮社装幀室

三羽省吾
著者_三羽省吾_01
●みつば・しょうご 1968年岡山市生まれ。岡山商科大学卒業後、広告代理店に就職。3年で退社し、肉体労働等、職を転々。2002年『太陽がイッパイいっぱい』で第8回小説新潮長編新人賞を受賞しデビュー。同作の文庫は第5回酒飲み書店員大賞にも選ばれ、『厭世フレーバー』『タチコギ』『公園で逢いましょう。』『路地裏ビルヂング』『Junk』等、着実に支持を獲得。昨年公開の映画『グッドモーニングショー』のノベライズも話題に。173㌢、65㌔、A型。

何をわかっていないかがわからない若者が考え悩みながら前に進む話を書きたかった

02年のデビュー作『太陽がイッパイいっぱい』は、ナニワのガテン系青春小説。『厭世フレーバー』は家族小説で、『イレギュラー』は野球小説と、ジャンル分けは一応できる。それでいて三羽省吾作品はもっと別の何かを掴みとろうとするような切実を感じさせる。
最新作『ヘダップ!』は北関東の峰山南高を卒業後、中部地方のJFLチーム〈武山FC〉に入団した〈桐山いさむ〉18歳を軸にしたサッカー小説。JFL=日本フットボールリーグはJリーグと違ってプロ化を前提とせず、かといって完全なアマでもない16のクラブで構成される。高校時代は名FWで鳴らし、紆余曲折あって武山FCに入った勇も、地元スーパーで働く傍ら練習に励む毎日だ。突然のボランチ転向や、慣れない土地での生活に揺れまくる勇には実は誰にも言えない過去があった。キーワードはそう、〈握り飯〉だ。

「僕は元々サッカー不毛の地・岡山出身。今でこそファジアーノ岡山がJ2で頑張っていますが、本格的に観戦し始めたのはJリーグができた頃からでした。
そんな中でJFLの存在も知り、プロもアマもいるリーグのモチベーションというのがどんなものか、まずはそこに興味を持ちました。しかも本書の準備を始めた頃、東日本大震災があって、ソニー仙台が甚大な被害を受けたんです。ただその分、声援は熱く、『JFLっていいなあ』と感動したことが、本書を書いた一番の動機かもしれません」
母の死後、家事を担ってくれた姉や父親への挨拶もそこそこに実家を出た勇は、新幹線と在来線を乗り継ぎ、B県の武山市に降り立つ。その車中、声をかけてきた酒屋の店主は、勇がJ1の内定を非行の噂が元で撤回された事情をなぜか知っていた。彼こそは武山FCのサポーター兼手弁当で情報を収集する、通称〈イサクのおっさん〉だった。
さらに到着早々、練習に合流した勇に、〈相変わらずの俺様サッカーだな〉と、声をかける者がいた。かつて少年時代にFWを争った〈江藤亮兼あきかね〉、通称リョーケン。父親の転勤でB県に移った彼は高校卒業を待たずに武山と契約、現在ワントップとして活躍中らしい。他にも元Jリーガーの〈大野〉や海外経験者の〈橘〉、ブラジル人と韓国人のCBコンビ〈ココ〉〈李〉らが顔を揃える中、勇は監督の〈赤瀬〉からボランチへの転向を打診される。
社長が大口スポンサーを務める〈武山マート〉に職を得た勇は、ホームゲームでは裏方を務めるパートの咲田さくたさん〉や元ヤンの〈葛西さん〉、サポーターの溜り場の店主ら、町の人々の熱気に圧倒されてゆく。
「僕もおらが街のチーム、、、、、、、、が気になって仕方ないサポーターの心理が少しわかってきたんですが、会場の外で切符切りや物販を担当する町の人たちは肝心の試合が観られないんです。それでも裏方を買って出るのは地元民の鑑だと思いますし、JFLの試合は子供が多いのもすごくいい。わが街の英雄と日常的に会えたり、試合の後はサッカー教室があったり、彼らが本当に羨ましいくらいです。
一方で縦割行政の垣根を取っ払って物凄く盛り上がっているところとそうでないところがあったり、運営の巧拙が強さや資金力とは別次元で人気と直結したりもしている。武山FC自体は架空ですが、勇たちを支える町の空気は、結構リアルだと思います」

愛する者を失った悲しみは消せない

そんな中、〈独り善がりのジコチュー野郎〉が周囲の意見を一々真に受ける姿が可笑しい。職場では〈極端に質問が少ないんだよな〉と言われ、元A代表の大野には〈なにが足りないのか、自分で気付け〉と言われる勇は、〈教えてくれりゃあいいじゃねぇか〉と思う18歳。しかも〈思ったままを言えばいいんじゃない?〉という人もいれば、〈思ったことをそのまま口にするんじゃない〉という人もいて、何でもかんでも野球に喩えて話をややこしくする武山マート社長を始め、周囲の大人は曲者揃いで矛盾だらけなのだ。
「今の若い人は妙に小器用で質問ベタというか、何をわかってないか、、、、、、、、、がわからないんだと思うんです。僕も昔はそうでしたけど、特に高校までお山の大将で、わからなくてもできちゃった、、、、、、、、、、、、、人が一から考えたり悩んだりする話を、サッカーを通じて書いてみたかった。スポーツはその点が結果として如実に現われますから。
実は勇が言われる教訓の類も自戒から書いていて、会社員時代も衝突しながらした仕事の方が結果は出たりしたのに、仲良し同士でやりたくなるのが人情だったり……(苦笑)。武山でも良く言えば家族的なチームの空気を橘が〈ぬるい〉と断じて物議を醸しますが、じゃあ衝突すればいいかというと、それこそ〈ケース・バイ・ケース〉で正解はない。あるいはチームは誰のものかとか、わからないことはわからないまま、若い勇に存分に悩ませてみました」
中でも答えがないのが、母親を突然事故で亡くした勇と、予め死期がわかっていた病身の息子を亡くした咲田の、悲しみの深さだ。むろんそこには比較自体が存在しない。本書は勇が周囲の人々が秘めた苦悩を知り、母の死すら1人で背負おうとした独り善がりな自分を乗り越える成長譚でもある。つまり表題の〈Heads up!〉〈顔上げろ! 周り見ろ!〉は、何もサッカーに限った話ではないのだ。
「これは本書の裏テーマというか、実は震災後、僕の周囲でも似たことがあって。もちろん『誰々が死んだのは自分のせいだ』なんて、子供が思っていたら全力で否定しますよ。そんなの誰の責任でもないし、いくら考えてもどうにもならないって。ただどんな形であれ愛する者を失った悲しみは消せない中で、互いの境遇を想像し、言葉をかけ合いながら前に進む経験を、勇にはさせたかった。本当は正面から書くべきなんでしょうけど、僕は臆病なのか、サッカーを通じてしか書けなかったんです」
握り飯にまつわる苦い悔恨や、非行の噂の元凶ともなったある嘘、、、を乗り越え、選手としても成長する勇や愛すべき面々の闘いぶりは、胸を熱くすること必至。
〈サッカー脳とでも言うのかな? こいつは厄介なことに、一生涯、成長をやめない〉と赤瀬が言うように、選手生命には限界があっても彼らのサッカー愛は永遠だと確信できる、笑いあり涙ありの社会的青春小説である。

●構成/橋本紀子
●撮影/三島正

(週刊ポスト2017年1.27号より)

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