岡崎武志著『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』は充実のヴァラエティブック。坪内祐三が解説!
20冊以上にのぼる著者の愛蔵スクラップブックから選りすぐった、各紙誌掲載の書評原稿やエッセイやコラムの数々。写真も豊富に掲載したヴァラエティブックの魅力を、坪内祐三が解説します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
坪内祐三【評論家】
気がついたらいつも本ばかり読んでいた
岡崎武志 著
原書房
2500円+税
装丁/小沼宏之
様々な段を持った頁で構成されたA5判の「ヴァラエティ」
素晴らしいヴァラエティブックが出た。岡崎武志の『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』(原書房)だ。
ヴァラエティブックと言ってすぐにそれをイメージ出来るのは今五十歳以上の本好きの人だろう。
サイズはA5判で、二段、三段、時に四段と様々な段を持った頁で構成される。
そのオリジナルは晶文社で一連の植草甚一や小林信彦のシリーズ(装丁及びレイアウトは平野甲賀)が有名だ。
私も『古くさいぞ私は』というヴァラエティブックを晶文社から刊行したことがあるがレイアウトを自分でやったから平野本にまったく及びもつかなかった。
しかしこの『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』、装丁もレイアウトも平野本に匹敵する。いや、越えているかも知れない。
というのは、一頁丸ごと使って写真が上手に挿入されているからだ。
例えば人物ポートレート。しかも文章と連動している。上林曉、吉田健一、立原道造、嵐寛壽郎、原節子ら(となると一見連動していないような百四十頁のシモーヌ・ヴェイユの連動具合がとても気になる)。
写真と言えば二十点以上に及ぶ古本屋の写真。しかもそれらの写真の大半が並んでいる十六頁分を私は何度も見直す。
これは一つの町だ。そして私はこの町に足を運びたいけれど、眺めている内に実際に足を運んだ気になって行く。
文章について触れるのを忘れていた(岡崎さんごめんなさい)。
私は特に三段組の文章が好きだ。ブログに書かれたものをコーラージュ的にまとめたものだというが、これまた町を散策した気分になってくる。
一つだけ書き下しが収録されている。「田村治芳さん死去」。『彷書月刊』の編集長だった「七ちゃん」こと田村治芳の追悼だ。「七ちゃん」は私にとっても岡崎さんにとっても恩人だが、困った人でもあった。これでまた神話化が進むのだろうか……。
(週刊ポスト2017年2.3号より)

この記事が気に入ったら
「いいね」をしよう!
P+D MAGAZINEの最新記事をお知らせします。
あわせて読みたい記事
-
今日の一冊
山田稔『山田稔自選集I』/90歳を迎えるフランス文学者の上質な散文集
言葉や人の生と死などを淡々と語る随筆をあつめた一冊。その文章には、もうじき九十歳になるフランス文学者である著者の、老いの悠然枯淡があります。
-
今日の一冊
中国で1500年以上にわたって書かれつづけた、シュールな怪異譚集/井波律子『中国奇想小説集・・・
冥土の役人に袖の下を渡すため「金の腕輪をつけてくれ」と遺体が起きあがる……。書生が若い女を口から吐き出し、さらにその女が若い愛人を吐き出す……。シュールで奇想天外な、中国古代の怪異譚集!
-
今日の一冊
今尾恵介著『地図マニア 空想の旅』で地図を読むことの楽しさを知る。関川夏央が解説!
これまで行くことのできなかった場所への旅を、地図を読むことで実現。地図研究家・今尾恵介の集大成である一冊を、関川夏央が解説します。
-
今日の一冊
廣瀬陽子『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』/「戦争」は、もはや陸海空だけのもので・・・
日本人は軍事という観念を狭くとらえがちですが、古典的な陸海空の戦争空間でなく、宇宙・サイバーを通した挑発や衝突は、もはや稀な現象ではないといいます。目まぐるしく変わる軍事衝突の様式や、ロシア外交の巧妙な技に、専門家の立場から迫る新書を紹介します。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】あさのあつこ『末ながく、お幸せに』
舞台はある結婚式。出席者1人1人のスピーチや胸に秘めた思いを通して、やがて新郎新婦の人となりや、人間関係が浮き彫りになっていく――。感動の結婚式小説、その著者にインタビュー!
-
今日の一冊
野上孝子著『山崎豊子先生の素顔』が語る作家との半世紀
作家生活57年で長編14作、ほとんどが大ベストセラーとなった山崎豊子。その生涯を追う。
-
今日の一冊
石毛直道『座右の銘はない あそび人学者の自叙伝』/料理人類学という分野を開拓してきた、破天・・・
もともとは考古学者を目指していましたが、インドネシア領ニューギニアの西イリアン学術探検隊への参加を転機に研究進路を変え、料理人類学という分野を開拓してきた著者。失敗を恐れずに「おもろい」を追求する、自由な人生を記した自叙伝です。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】今村翔吾『幸村を討て』/直木賞受賞第一作! 数々の謎に大胆に迫る、異色・・・
『塞王の楯』で第166回直木賞を受賞した今村翔吾氏の最新作は、戦国最後の戦を通じて真田一族を描くエンターテイメント巨篇! 作品が生まれた背景や作品に込めた想いを著者に訊きました。
-
今日の一冊
坂口恭平『しみ』が詩的文体で描き出す青春の匂い。
誰もが経験してきた青春時代。その断片を、詩的文体で描いた傑作青春小説。 創作の背景を、著者にインタビュー!
-
今日の一冊
高田昌幸+大西祐資+松島佳子編著『権力に迫る「調査報道」原発事故、パナマ文書、日米安保をど・・・
歴史に刻まれた名スクープの数々。スリリングでリアルなその裏側とノウハウを、取材記者が語る!精神科医の香山リカが解説します。
-
今日の一冊
【「2020年」が明らかにしたものとは何か】芦沢 央『カインは言わなかった』/舞台に懸ける・・・
誰もが変化と向き合った激動の1年を振り返るスペシャル書評。第7作目は、お笑い芸人・山田ルイ53世が選ぶ、1つの舞台にすべてを捧げる男たちを描いたミステリー小説です。
-
今日の一冊
『されどスウィング 相倉久人自選集』
-
今日の一冊
【2020年の潮流を予感させる本(4)】倉林秀男、河田英介、今村楯夫『ヘミングウェイで学ぶ・・・
新時代を捉える【2020年の潮流を予感させる本】、第4作目は、語彙や構文は平易ながら、重層的な解釈が可能で味わい深いヘミングウェイの名文を使った英文法書。翻訳家の鴻巣友季子が解説します。
-
今日の一冊
椎名誠・目黒考二 著『本人に訊く〈壱〉よろしく懐旧篇』で読める、盟友ならではの率直な感想。・・・
1979年のデビュー以来、エッセイ、小説、写真集と多くのベストセラーを生み出した椎名誠。盟友、目黒考二が、椎名の処女作『さらば国分寺書店のオババ』から順に全著作を熟読し、そのウラ話や真相を訊き尽くしました。その集大成の一冊を、坪内祐三が解説!
-
今日の一冊
渡辺淳一の人間味あふれる評伝/重金敦之『淳ちゃん先生のこと』
『失楽園』などで知られるベストセラー作家・渡辺淳一も、初めから順調だったわけではありません。若き日の作家を支えたのは、筆者をはじめとする出版社の編集者たちでした。
-
今日の一冊
忘れてはいけない「平成」の記億(1)/宮内庁編修『昭和天皇実録 全十八巻』
平成日本に生きた者として、忘れてはならない出来事を振り返る特別企画。
武蔵野大学特任教授の山内昌之が「いちばん平成の時代らしい書物」として挙げるのは、『昭和天皇実録』です。宮内庁により、平成2年から平成26年まで24年間をかけて編修された実録には、日本の政治や社会、文化までもが記述されています。 -
今日の一冊
『東大駒場寮物語』
-
今日の一冊
国民を自ら動員させた『大政翼賛会のメディアミックス 「翼賛一家」と参加するファシズム』
日米開戦のちょうど一年前に仕掛けられた、「翼賛一家」というまんがキャラクターのメディアミックス。人気まんが家から若手までが一斉に新聞雑誌に多発連載し、大衆が動員された参加型ファシズムとは……。著者自らによる書評。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】山田詠美『吉祥寺デイズ うまうま食べもの・うしうしゴシップ』
日々の食卓から政治、文化、芸能まで、時に厳しく、時に優しく見つめて綴るエッセイ集『吉祥寺デイズ』。著者にインタビューしました!
-
今日の一冊
著述家・古谷経衡はこう読む!浅羽通明著『「反戦・脱原発リベラル」はなぜ敗北するのか』
若手保守論客・古谷経衡が語る、「リベラルの弱さ」。リベラル系知識人の言動から敗北の理由を考察したその論考を知ることができる一冊を紹介します。