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足立紳著『14の夜』はみずみずしい「性春讃歌」。著者にインタビュー!

「百円の恋」で注目を集めた著者による、「性春讃歌」小説。鳥取県のとある田舎町の、一軒だけあったレンタルビデオ屋のオープン1周年記念に、今でいうAV女優「よくしまる今日子」がサイン会をするという噂が出回った-そんな噂の顛末を爽やかに描いた作品の、創作の背景を著者にインタビュー!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

今最も注目を集める脚本家による「性春讃歌」初監督映画原作!

『14の夜』
14の夜_01
幻冬舎
1300円+税
装丁/有山達也

足立 紳
著者_足立 紳_01
●あだち・しん 1972年鳥取生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二氏に師事。助監督等を経て脚本家に。「でもその後が食えなくて。年収50万稼ぐと妻に威張ってました(笑い)」。12年「百円の恋」で松田優作賞を受賞し、14年映画化。日本アカデミー賞最優秀脚本賞や菊島隆三賞、ヨコハマ映画祭脚本賞(『お盆の弟』と併せ)を受賞。15年には創作テレビドラマ大賞受賞作『佐知とマユ』が市川森一脚本賞を受賞、昨年初小説『乳房に蚊』を上梓。168㌢、68㌔、O型。

勝ちたいと思った事実だけで、たとえ負けても自分は変われるかもしれない

『15の夜』(by尾崎豊)ならぬ、『14の夜』である。
近年、映画『百円の恋』等で脚本賞を総なめにする足立紳氏(44)の小説第2作は、自身の初監督映画の原作でもある。
舞台は87年夏、鳥取県のとある田舎町。中学生らの間に広まった、こんな噂の顛末を描く。〈来週の木曜日、ワールドのオープン1周年記念によくしまる今日子のサイン会がある。夜の12時を過ぎると、オッパイを吸わせてくれるらしい〉!?
ワールドは町唯一のレンタルビデオ屋、よくしまる今日子は巨乳のAV女優のことで、初体験など程遠く、練習よりエロに夢中な弱小柔道部の〈タカシ〉たち4人組は気もそぞろ。〈オレら……この先の人生で、女のオッパイ思いっきり揉みまくれること……あるかな〉
だから彼らはゆく。今日子のオッパイが、自分を変えてくれると信じて!


「実はこれ、噂自体は本当にあった話で、僕も行きました。当時大人気だったかわいさとみさんに会いに(笑い)。でも結局は誰も来なくて、夜の町をウロウロして……。その経験が面白い話になる気がしたので、まずは小説を書き、映画の撮影後にまた小説にフィードバックする形を取りました。映画ではタカシ、〈竹内〉、〈岡田〉、〈ミツル〉役の4人を全てオーディションで選びましたが、生身の彼らが動く度に物語が飛躍していったので」
〈あの日、オレは初めて女のオッパイを揉んだ〉〈西野メグミのオッパイを揉んだのだ〉〈オレは、童貞を落とした日のことは忘れることがあっても、あの日のことは生涯忘れないだろう〉
メグミはタカシの隣家に住んでいた美少女で、暴走族のリーダーの彼女だった。だが20数年後の同窓会では誰もあの日のことを憶えておらず、本書ではタカシが幼馴染の胸を揉むに至った経緯を独白形式で遡る。
夏休みのその日、タカシは朝から揉める両親をよそに部活に出た。教師の傍ら作家を志す父はまたしても選考に落ち、ヤケ酒の上に接触事故を起こして謹慎中。同じく教師の母は、今日は姉が婚約者と帰郷するから早く帰ってこいと不機嫌に言う。今夜はサイン会があるのに、だ。
そんな時、タカシの視界に入ったのが映画研究部の〈野田〉たちだった。冴えないと思っていた連中は、最近何かの賞を取ったらしく新聞に載った。〈オレらって……考えてみると何も売りがないだがな〉〈下手したらオレたちより野田たちのほうがオッパイ揉みまくりの可能性、高いぞ〉
こうして今夜9時に校門集合と話は決まる。店を下見し、ついでにミツルの家で観ようとHなビデオを借りた4人だったが、不良の〈金田〉たちにビデオを奪われるわ、下着姿で徘徊する〈ケメ子〉にゲンナリするわ、散々な状態でその夜を迎えるのだった。

夢みたいな話は描けない体質

とかく見て見ぬふりをされがちな奇行の人ケメ子や、半身不随の身でパチンコ屋に入り浸るミツルの父親。また、〈男偏差値〉10の父のようにはなりたくないと眉唾な通販グッズを購入するタカシもそう。どちらかといえば勝者より敗者に近い足立作品の登場人物が一晩で急成長するわけがない。
〈各国のスパイの間で大流行〉なんて、誰が考えてもあり得ないXスコープやシークレット靴下に、僕もまんまと騙された口(笑い)。そんな僕には尾崎の『15の夜』はカッコよすぎたし、映画でも主人公が成長しすぎると置いていかれた感、、、、、、、、があるんですよ。
それこそ本書で自転車を盗まれて走り出す、、、、、、、、、、、、タカシがオッパイを揉んだって、別に世界が変わるわけじゃない。彼がケメ子やミツルを下に見ることも含めて、ふわふわした夢みたいな話は描けない体質なんです」
要するに足立作品には、嘘がない。彼ら4人組の間にも序列は存在するし、不良の金田も暴走族には頭が上がらない。そんな町の上下関係に、あの夜はほんの一瞬、風穴が開き、タカシは大乱闘の中でボコボコにされつつも、メグミのオッパイに触った、らしい。実は彼自身もよく憶えていないこのシーンや、父親が言う〈お前がかっこ悪いのは〉〈父さんのせいじゃないぞ〉〈お前自身のせいだ〉という台詞など、愛すべきダメ人間たちが一瞬だけ見せる輝きを、足立氏はコミカルかつ嘘のない形で切り取ってみせるのだ。
「正直、こんな小さな話を一々映画にする意味があるのか、今でも自信がないんですよ。もっと大きな嘘や虚構で人を楽しませるのが、本来の映画じゃないかって。
でもできませんでしたね。昔からケン・ローチ監督の『ケス』とか、小さな話が好きだった僕は、中学時代も人一倍臆病で、その臆病さを打破できるのかという不安の方が、オッパイを揉めるかどうかより大問題だった。つまり本書のオッパイは自分に自信を持つために越えるべき山で、たとえ負けても闘ったり、勝ちたいと思った事実、、、、、、、、、、だけで、少なくとも自分は変われるかもしれない。それが、僕が映画や小説で描きたい最大の嘘かもしれません」
映画『スタンド・バイ・ミー』の少年たちは死体を探しに行くが、本書の4人組はAV女優のサイン会に行き、一生忘れられない体験をした―。たったそれだけの話が胸を締め付けるのは、私たちの多くが勝ちたくとも勝てない、〈その他大勢〉だからだろう。現実はそう甘くないからこそ、彼らと共に笑い、泣き、一瞬の勘違いかもしれない勝利を心から祝福できる。それが足立作品最大の魅力だ。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト2017年2.3号より)

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