中北浩爾 『自民党――「一強」の実像』が分析する自民党の強さと脆さ
大きな変貌を遂げた自民党の謎や功罪を鋭い視点で解析。山内昌之が解説します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
山内昌之【明治大学特任教授】
自民党――「一強」の実像
中北浩爾 著
中公新書
880円+税
小選挙区導入後に機能が低下した「派閥」の功罪
小選挙区制導入後の自民党でいちばん様変わりしたのは、派閥の機能低下であり、若い議員に政党政治家としての自覚が薄くなったことだろう。
もちろん著者も指摘するように、派閥の全盛期である1980年代半ばでも、政治資金を所属派閥に全面的に依存していたわけではない。若手議員でも派閥の資金援助は多くとも収入の1〜2割にすぎなかった。
派閥の効用は、政策の勉強機会に加えて、パーティー券の販売や企業献金などで派閥の資金ネットワークにアクセスできる権利を得る点にあった。
著者は、懐かしい氷代やモチ代なる名称も紹介する。かつての派閥は6月に氷代、12月にモチ代なる潤沢な政治資金を盆暮れに所属議員へ配っていた。それぞれ200万から400万を渡していたのだから隔世の感がある。しかも、党も同時期に幹事長が手ずからほぼ同額を渡していた。国政選挙公認料も党が1000万ずつ供給する一方、派閥もほぼ同額を配っていた。確かに政治に金がかかったというのは、派閥の弊害だったのだろう。
いまでは、氷代とモチ代はそれぞれ50万から100万円にすぎない。むしろ派閥の会費や主催パーティー券の発売も求められており、閣僚経験者になると200万円の割り当てが来たり、最高ランクの議員には700万を義務づける派閥もあるらしい。これでは派閥に魅力を感じず入会する若手議員も少なくなるというものだ。
それでも、麻生太郎の個人的な魅力で結束している為公会や、活性化を止めない二階俊博の志帥会など、いかにも古典的な自民党派閥に近い集団も存在する。志帥会は、選挙区の区割り調整で弱い立場に陥った議員らにとって、「駆け込み寺」のような存在になっている。二階の統率力に注目する著者は、志帥会こそ旧田中派に近似していると指摘する。小泉純一郎から安倍晋三に至る清和会が何故権力を握り続けているか、数々の謎を解く分析も説得的である。
(週刊ポスト2017年6.23号より)

この記事が気に入ったら
「いいね」をしよう!
P+D MAGAZINEの最新記事をお知らせします。
あわせて読みたい記事
-
今日の一冊
栗原 康著『 村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』を与那原 恵が解説!
情熱に溢れ、勢いに満ちた文体で綴る伊藤野枝の生き方。その鮮烈な姿に、読んでいて引き込まれずにはいられない!ノンフィクションライターの与那原恵が解説します。
-
今日の一冊
【2020年の潮流を予感させる本(3)】磯田憲一『遥かなる希望の島「試される大地」へのラブ・・・
新時代を捉える【2020年の潮流を予感させる本】、第3作目は、元北海道副知事が町を元気にする前向きな知恵と工夫を綴ったエッセイ集。評論家の川本三郎が解説します。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】伊与原新『八月の銀の雪』/科学で世界の見え方が変わる! 傷ついた人生を・・・
就活がうまくいかない大学生や、子育てに悩むシングルマザーなど、事情を抱えていきづまった登場人物たちが目の当たりにした真実とは……。日常的な生活で科学との出会いを描く、新しいタイプの科学小説!
-
今日の一冊
山田稔『山田稔自選集I』/90歳を迎えるフランス文学者の上質な散文集
言葉や人の生と死などを淡々と語る随筆をあつめた一冊。その文章には、もうじき九十歳になるフランス文学者である著者の、老いの悠然枯淡があります。
-
今日の一冊
【「2020年」が明らかにしたものとは何か】斎藤幸平『人新世の「資本論」』/限界を迎えた資・・・
誰もが変化と向き合った激動の1年を振り返るスペシャル書評。第8作目は、晩年のマルクスが構想した「脱成長コミュニズム」の必要性を説く新書。経済アナリストの森永卓郎が解説します。
-
今日の一冊
福田ますみ著『モンスターマザー 長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い』が詳細に取・・・
不登校の男子生徒が自殺した事件。本当の加害者はいったい誰だったのか。事件の経緯、顛末を詳細に取材にしたルポルタージュを、ノンフィクションライター鈴木洋史が読み解きます。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】ジェーン・スー『女のお悩み動物園』/一生懸命に生きる女性のための人生相・・・
女性の生態をフクロウやアヒルなどの動物になぞらえて、面白く読ませつつ、読者の悩みに優しく答える一冊!
-
今日の一冊
村田喜代子『偏愛ムラタ美術館【展開篇】』/次々に意表を突く、ひと味もふた味も違う美術評論
「ズドーン!」「ぶわーん」という驚きから始まる、通常の美術評論とはまったく異なる村田喜代子氏の美術エッセイ。評論家の川本三郎が解説します。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】養老孟司『ヒトの壁』/生物としての「ヒト」とは何か? 『バカの壁』に続・・・
シリーズ累計670万部突破の最新作『ヒトの壁』で綴ったコロナと人生についてインタビュー!
-
今日の一冊
工藤美代子著の『後妻白書─幸せをさがす女たち─』をノンフィクションライター井上理津子が読む・・・
いくつになってもあきらめない。「後妻」、という生き方に見る女性の幸せとは。その赤裸々な本音に迫る、読み応えあるノンフィクションを、井上理津子が紹介します。
-
今日の一冊
『ネット私刑(リンチ)』
-
今日の一冊
坂井豊貴著『「決め方」の経済学「みんなの意見のまとめ方」を科学する』が検証する多数決の欠陥・・・
普段使い慣れている「多数決」は、実は最悪の決め方だった!?そのメリット、デメリットを徹底的に検証した一冊。精神科医の香山リカが解説します。
-
今日の一冊
法心理学者による慧眼の書『虚偽自白を読み解く』
やってもいない犯行を自白した冤罪被害者たちの、自白調書や取調室での録音記録を精緻に分析。「無実の人がどのような心理過程を経て虚偽自白に陥る」かを、丁寧に解説した一冊。
-
今日の一冊
【2018年の潮流を予感させる本】『遺言。』
養老孟司80歳の叡智が凝縮。明るく面白い「遺言」を25年ぶりに書き下ろし。作家の関川夏央が解説します。
-
今日の一冊
『メメント・モリ』
-
今日の一冊
柄谷行人著『柄谷行人講演集成 1995-2015 思想的地震』に凝縮された代表的講演。大塚・・・
今この時代に、最も必要とされるであろう強靭な思想が凝縮された、柄谷行人の講演の集大成。大塚英志が解説します。
-
今日の一冊
白石一文著『記憶の渚にて』は直木賞作家による傑作長編!著者にインタビュー!
直木賞受賞作家が放つ最新傑作長編は、予想だにしないラストが圧巻!記憶をテーマにした三部構成の小説は、驚愕の展開をたどるーーその創作の背景を著者・白石一文にインタビューしました。
-
今日の一冊
『日本鉄道歌謡史1.鉄道開業~第二次世界大戦2.戦後復興~東日本大震災』
-
今日の一冊
【著者インタビュー】薬丸 岳『告解』/轢き逃げ事故の「加害者」視点で、真の贖罪の形を問う
高熱を出した夫のために買い物に出た81歳の主婦が、車に轢かれて200メートル近く引きずられ死亡した。犯人は人気教育評論家の息子。しかも飲酒運転とあって、世間は一家を徹底的に糾弾するが……。著者初の加害者視点に挑んだ長篇。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】田中ひかる『明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語』/日本で三人目の公許女・・・
荻野吟子、生澤久野に続いて、日本で三人目の公許女医となった高橋瑞の生涯を描いた小説仕立ての群像劇!