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【2018年の潮流を予感させる本】『経済成長という呪い 欲望と進歩の人類史』

果たして、人類は無限の欲望から逃れられないのか? 歴史的な観点から見た現代資本主義への警鐘と、未来への提言を述べた一冊。森永卓郎が解説します。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け! 拡大版Special】
森永卓郎【経済アナリスト】

経済成長という呪い 欲望と進歩の人類史
経済成長という呪い_書影
ダニエル・コーエン
林 昌宏 訳
東洋経済新聞社
2000円+税

株価バブル崩壊▼▼▼勝ち組だけがカネを増やす近未来の風景

17年は、株価が四半世紀ぶりの高値を記録した。当然だ。3月末の企業の内部留保は前年比28兆円増の406兆円、企業の手持ちの現預金だけで211兆円に達したからだ。経済成長というのは、為政者にとって最大の武器になる。中国が人権抑圧をしても政権が揺るがないのは、国民が喜ぶ経済成長のおかげだ。スキャンダルに揺れた安倍政権が、衆院選で圧勝したのも、同じ理由だろう。しかし、私は日本の株価バブルが18年中に崩壊するだろうとみている。
本書は、人類の誕生から現代にいたるまで、壮大なスケールで描かれた経済史であり、社会心理学だ。本書の内容は多岐にわたるが、一番重要な指摘は、人間の所得欲求には限度がないということだ。どんなに金持ちになっても、人間はさらに多く稼がないと満足しない。そこに80年代以降、著者が指摘する経営者と従業員を切り離すガバナンス変化が重なった。株価にリンクした報酬を得るようになった経営者は、従業員を切り捨てて報酬を拡大するようになった。これがまさに安倍政権下で起きた変化だ。企業の利益拡大と株価上昇は、従業員の圧迫によって達成されている。現に、安倍政権の5年間で、実質賃金は4%も下落しているのだ。もちろん、そんな成長は長続きしない。賃金が下落して、消費が増えるはずがないからだ。ただ、バブルが崩壊しても、社会構造は変わらないだろう。
著者は、さらに恐ろしい予想をする。ネット社会では、中間所得層が崩壊する。例えば、舞台で活躍する役者はたくさん必要だが、映画が普及してスターが少数でよくなったように、ネットの社会でも一部のスターが所得を総取りするようになるからだ。一方で、ネット社会は、無償で楽しめるエンターテインメントを増やす。
勝ち組が、さらにカネを増やすためにマネーゲームに勤しむ一方で、庶民は、ずっとスマホをいじっている。それが、これから訪れる近未来の風景なのかもしれない。

(週刊ポスト2018.1.1/5 年末年始スーパープレミアム合併特大号より)

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