男性の、あの部分の秘密に迫る!『日本男子♂余れるところ』
男性の体の中心で余っている部分「男根」について、真面目に分析したノンフィクション。日本の神話や歴史、秘話をおりまぜ、その謎を紐解きます。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
岩瀬達哉【ノンフィクション作家】
日本男子♂余れるところ
高橋秀実 著
双葉社
1500円+税
装丁/I’ll Products
歴史をさかのぼり現代をルポして「男根」の秘密を解明
男性にとって、自信の源であるとともに、大いなるコンプレックスをももたらす「男根」の秘密を、驚くほどの熱心さでもって解き明かした。著者渾身のノンフィクションである。
多くの男性は、「日本男子の平均値(平常時)」の長さが「8・3センチ」と聞くと、つい定規を当て、その計測結果に一喜一憂してみたくなる。著者もまた計測から取材に取り掛かった。
しかし女性にとって、大きさは、さほど意味がない。「イク」ことに貪欲な主婦やOLたちへのインタビューが、そのことを実証してくれている。彼女たちは、概して「私のためにこんなに硬く大きくなってる」という膨張率に感激しているからだ。行為に身をゆだねているようで、むしろ自ら「イク」というイメージを貪欲に追求しているのだという。だから、「セックスの最中に『早く終われ』と思った時」に、「『イク』と言って、相手をイカせる」こともある。
ゲイの場合にしろ、「小さい男根に備えて毎日、肛門を締める練習をしている」と、「吸いつくようなアナル」になり、その自己啓発の努力が快楽を増大させるというから、小さくても卑下する必要などないわけだ。
そもそも「男根」は、生殖器でありながら、古来、共同体社会の象徴としての意味を担ってきた。『日本書紀』に出てくる「三神」のひとり、「国常立尊」は「男根」を指していると言われ、『聖書』の世界でも「男根を権威や権力の象徴」と位置づけることで、社会に安定をもたらしてきた。
今日でも、「男性器をリアルに再現した」縄文期の石棒が出土した地域では、「撫で神様」として神社に奉納され、「女の人もびっくり仰天してウワーッと笑う。石棒を中心に話すと、場が和やかになり」、「ムラのまとまりができました」というほどご利益がある。
歴史をさかのぼり、現代をルポすることで辿り着いた先は、思い悩むことなく、ありのままの「男根」を受け入れることで開ける世界がある、という悟りの境地だ。
(週刊ポスト 2017年9.1号より)

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