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【著者インタビュー】佐々木譲『真夏の雷管』

札幌中を危機に陥れる爆破計画を阻止できるか? 大人気の警察小説『道警シリーズ』第8作目を執筆した著者にインタビュー!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

札幌で急浮上する爆破計画 65万部突破『笑う警官』に始まる大人気「道警シリーズ」第8弾!

『真夏の雷管』

真夏の雷管 書影
角川春樹事務所 1600円+税
装丁/高柳雅人

佐々木譲

著者_佐々木譲1
●ささき・じょう 1950年夕張市生まれ。会社勤務を経て、79年『鉄騎兵、跳んだ』でオール讀物新人賞を受賞しデビュー。90年『エトロフ発緊急電』で日本推理作家協会賞、山本周五郎賞、日本冒険小説協会大賞。02年『武揚伝』で新田次郎文学賞。2010年『廃墟に乞う』で直木賞。16年日本ミステリー文学大賞。04年の『笑う警官』(『うたう警官』を改題)に始まる道警シリーズや『警官の血』『地層捜査』など著書多数。映像化、舞台化も多数。

警官の仕事は法に則り犯人を逮捕すること 正義を語って人を裁くことではないんです

夏休みのある日。鉄道模型も扱う札幌狸小路の老舗煙管キセル店で工具を万引きした小学6年生が補導された。
同じ頃、藻岩山麓通りの園芸店では水耕栽培の追肥となる硝安、約30㌔が消失。
しかし補導された少年は北海道警大通署生活安全課〈小島百合〉の前から姿を消し、一方、盗まれた硝安=硝酸アンモニウムからは爆弾も作れることを、刑事三課の〈佐伯宏一〉は掴む。
佐々木譲著 『真夏の雷管』はこの2つの〈小さな事案〉を起点に、少年とある男が共有した孤独の顛末を追う。冒頭、JR苗穂駅に程近い跨線橋こせんきょうで列車を眺めながら、男は言った。〈鉄道が好きなのかい?〉〈うん〉〈ぼくも好きだよ。子供のころからずっと好きだった〉……
たったそれだけの出会いが札幌中を危機に陥れるとは、もちろんこの時はまだ誰も想像していない。

「道警シリーズ」も本書でいよいよ第8作。狸小路に佇むジャズバー〈ブラックバード〉には、〈津久井すぐる〉〈長正寺ちょうしょうじ武史〉〈新宮昌樹〉らお馴染のメンバーが集い、前作『憂いなき街』でとうとう結ばれた小島と佐伯は時おり朝食を共にする仲、傷心の津久井は長正寺共々機動捜査隊で鋭意活躍中だ。
「当初3部作の予定だったこのシリーズは特に4作目以降、人質事件や連続殺人といった警察小説の典型的な事件、、、、、、佐伯たちならどう解決するか、、、、、、、、、、、、、を描いてきました。最近は小島が作る朝食とか新宮の毎回ダメになる合コンとか、読者がニヤニヤできるモチーフの反復も意識しています(笑い)。
中には小島と佐伯はなぜこんなにじれったいのかという人や、『私立探偵スペンサー』(ロバート・B・パーカー)のスーザンとスペンサーみたいな距離感が好きだという読者もいてね。私も結婚に一度失敗している彼らには今くらいの関係がちょうどいいと思うんだけど、どうでしょう?」
そうした典型的な事件の背景に、現実の事件がそれとわかる形で映り込むのも同シリーズの常だ。第1作『笑う警官』で道警の裏金問題を扱い、世間の度肝を抜いた氏は、本作でJR北海道の不祥事に着目。その中で解雇された〈梶本裕一〉の復讐劇を、あくまで佐伯たち警官の立場、、、、、から描く。
「最近は警察で何か起きる度に、『佐々木譲の小説みたい』と言われるようになっちゃいましたけどね(苦笑)。
今回のJR北海道で言えば、15年4月に青函トンネル内で特急スーパー白鳥が発煙事故を起こし、乗客が逃げ惑う騒ぎになった時に、乗務員がマニュアルに縛られすぎて何もできなかったことが私には引っかかった。近年赤字路線を多数抱えるJR北海道では脱線事故や信号故障が相次ぎ、社長が2人までも謎の死を遂げた。さらに検査データの改竄や隠蔽目的の自動停止装置の破壊まで発覚して、そんな何が優先課題かもわからなくなった状況と一刻を争う爆破サスペンスが、ある時ふと、結びついたんです」
しかし逃げた少年の身元特定一つにも膨大な手間を要するのが現場の警官たちだ。小島は少年の所持品にことごとく記された名前に着目し、覚醒剤使用容疑で逮捕された母親の勾留中に養護施設にいた〈水野大樹〉の行方を追う。だが釈放された母親共々、消息は掴めない。
一方、佐伯と新宮は園芸店付近の防犯カメラを虱潰しにあたるが、立ち塞がるのが組織の壁だ。捜査情報は基本的に他部署と共有されず、かと思えば不審車の捜索に突然圧力がかかったり、なぜもっと早くブラックバードに集まって、捜査会議、、、、を開かないのかと、もどかしくてならない。
「佐伯たちは来歴が来歴だけに、小さな事件しか基本的に回ってこない、組織の厄介者ですからね。
ただ、そんな連中が各々の持ち場で職務を全うしてこそ、チームワークを発揮できるのが道警シリーズで、ジャズを聴きに行くのは、時々でいいんです(笑い)」

警察小説だから犯人に語らせない

やがて捜査線上には不審車両の所有者リストから、元JR保線員・梶本が浮上。道内が新幹線開業に沸き、札幌駅でも某アイドルグループのイベントが大々的に計画される中、梶本の解雇後の足取りを追った佐伯は言う。〈あの会社に、そういう浮わついた企画をやってる余裕はないはずだ〉
「新幹線開業後の平均乗車率を見ても、本当に浮かれてる場合じゃないと思うんですよ。夕張が何の展望もない観光事業をあてこんで財政破綻したバブルの頃と、結局は何も変わっていない。
私の仕事場は道東も外れの中標津にあるんですが、地方の疲弊は酷いものでしてね。いずれ東京もオリンピックに浮かれて息の根を止められるんじゃないかと思わないではありません」
国鉄民営化最大の敗者である同社や梶本の境遇には同情の余地も多々あった。とはいえ記録改竄や復讐が許されるはずもなく、彼を慕う大樹を小島がどう説得するかが本書最大の読み処と言えよう。梶本と行動を共にし、札幌駅で保護された大樹は、梶本が爆発物をどんな方法で爆発させるかに話が及ぶと口を閉ざす。JR側も爆発の可能性、、、では動いてくれない。奇しくもこの日、札幌駅では件のイベントが開催され、ファンやマスコミで構内がごった返す中、小島はこれだけ多くの人間を本当に死なせていいのか、大樹自身に考えさせるのだ。
「ただしその論理も正義とは何かではなく、法に則って語らせるのが私は警察小説の鉄則だと思うんですね。小島が大樹を説得するのは、それ以外に手がないからで、彼が自分で答えを出すまでの攻防が、爆破計画の成否以上にスリリングな山場になっていれば嬉しい。
ただその一刻を争う現場で長正寺が〈女子供は下がれ、ひっこんでろ〉という台詞が女性は気になるみたいでね。女性蔑視でも何でもなく、弱い者は守らなきゃいけないと思う古臭い男の純情を、わかっていただけないかなあ(笑い)」
気になるのは、『新幹線大爆破』や『太陽を盗んだ男』といった70年代のパニック映画と違い、梶本には社会への怒りや動機を語る機会すら与えられないことだ。
「語らせたら野暮になるし、これは警察小説ですからね。警官の仕事は犯人逮捕までで、人を裁くことではない、則るべきは法律以上でも以下でもないという原則を、私は正義を語らない彼らに守らせてきたはずです」
そんなストイックなまでの覚悟と制約こそが、今後全10作が予定される魅力的なこの群像劇を生み得たのだろう。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2017年9.15号より)

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