逆境から這いあがったJR九州の奮戦記『新鉄客商売 本気になって何が悪い』
厳しい赤字経営状況から、九州新幹線全線開通をはたし、大評判の「ななつ星」を作り上げたJR九州。快進撃をつづける経営者の信念が伝わる一冊を紹介します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
嵐山光三郎【作家】
新鉄客商売 本気になって何が悪い
唐池恒二 著
PHP研究所 1700円+税
装丁/bookwall
装画/山口 晃
信念を持って会社全体に「気」をみちあふれさせた経営者
国鉄分割民営化がなされてから30年がたった。そのうちJR東日本、JR東海、JR西日本の業績は好調で本州三社と呼ばれたが、そのほかに「JR
国鉄に入社して、十年後「JR九州」へ行ったカライケ青年は「今にみておれ! 本州三社を見返してやる」という心意気で逆境から這いあがり、二〇一六年に「JR九州」を一部上場して完全民営化をはたした。
これはその奮戦記で格闘史だ。並の会社立志伝とは違ってユーモアや自慢話のディテイルが痛快。
57歳で社長となったカライケ親分は、麻生太郎元総理のしわがれ声をまねして、ドスをきかせつつよく通るバリトンより低い声で交渉の場に臨み、渾身の力をふりしぼって、九州新幹線全線開通をはたした。大評判になった「走るホテル」の「ななつ星」を提案したときは社内には「やりたくない」という空気もあった。そこでカライケ親分は、はっぱをかけた。
一、夢みる力
二、「気」をみち溢れさせる力
三、伝える力
企画を成功に導くために、手間をおしまず、低くドスのきいた声で人をその気にさせる。
迫力あるなあ。カライケ青年は→社長→会長→怪人となっていく。七転八倒しつつ根気よくつみ重ねて、市場を分析して、信念を持って、会社全体に「気」をみちあふれさせた。
かくして怪人カライケは「駅から三百歩横丁」を博多に開き、カリスマ力を四方八方に発光する。千人にひとり、万人にひとりの経営者の誕生。「夢や気を伝える戦略」が赤字会社を生き返らせた。
逆境と屈辱は、人と組織を活性化させる発火点であることが実感として伝わる。
(週刊ポスト 2017年11.10号より)

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