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【著者インタビュー】平岡陽明『イシマル書房 編集部』

神田神保町の小さな出版社に訪れた、会社存続の危機。出版不況のなか、ベストセラーで起死回生を狙うが……。小説を愛する人々を生き生きと描く、著者にインタビュー!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

身売りの危機が迫る中、ベストセラーで起死回生を狙え! 小説を愛する人々の熱き物語

『イシマル書房 編集部』
イシマル書房 編集部 書影
角川春樹事務所
600円+税
装丁/藤田知子 装画/3rdeye

平岡陽明
著者_平岡陽明1
●ひらおか・ようめい 1977年横浜生まれ。慶應義塾大学文学部卒。「僕は元々作家になるつもりで留年し、たまたま滑り込めた出版社に入ってからも5、6社は転々としました。要は編集者に向いてなくて」。その後は角川春樹事務所勤務等を経て、13年「松田さんの181日」で第93回オール讀物新人賞。他に『ライオンズ、1958。』。本書には神保町の飲食店も実名で登場、「他にさぼうるとランチョンとキッチン南海もよく行きます」。174㌢、68㌔、B型。

いいものは社を越えて認め合う出版人の伝統に小説を書くことで僕も連なりたい

〈根も葉もある嘘をつき、作品に生命を吹き込んで、読者の心を揺さぶるもの〉。
以上は『イシマル書房 編集部』に登場する元編集者〈岩田鉄夫〉の小説観だが、著者・平岡陽明氏の作品群にも、そのまま当てはまる。
「実はこれ、元ネタは俳人でもある角川春樹社長が、俳句の虚構性、、、、、、を語った言葉ですが、小説や映画にも通じる言葉だなあと思って。
また社長は『最近の〝独り出版社〟は小説になる。若い人の起業を応援しない限り、世の中、暗いままだ』とも言っていて、前作に続き、お題は社長由来です」
主人公は大卒後、OLを経て、晴れて神田神保町の独立系出版社に採用された〈満島絢子あやこ〉。当面は見習いだが、社長の〈石丸周二〉や妻の〈美代〉、元暴走族の営業担当〈竜己〉はみな本好きで、小さくとも活気に溢れた理想の職場だった。
が、そんな同社を身売りの危機が襲い、石丸は最低15万部は売れる本を作り、株を買い戻す資金7千万円を1年で作る賭けに出る。それでなくても出版不況が叫ばれて久しい中、彼らの挑戦の行方はさていかに?

著者は「自他共に認める大のオジサン好き(笑い)」。
前作『ライオンズ、1958。』では、往時の西鉄・野武士軍団や昔気質の親分らの心意気が小気味よく、本作でも石丸の窮地を救う大手出版社OBの岩田こそが、真の主役だったりする。
「春樹社長もそうですけど、年長者って叡智と経験の宝庫だったりするし、元々本書も中央公論の滝田樗陰ちょいんや改造社の山本実彦など、伝説的な出版人を煮詰めたような人物が戦後に活躍する、『ライオンズ〜』的な小説にする予定だったんです。数字は10分の1になろうと、出版人のやっていることは昔も今も変わらないことが、浮き彫りになればと思って。
ところが300枚書いた時点でそれでは面白くないことに気づき、どうせなら女子目線も書きたいと思って今の形にしたんです。でも絢子一人で書き通すほど、僕は25歳女性に詳しくない。そこで岩田を登場させたら話が俄然動き出し、つくづく僕はオジサンを書くのが好きなんだと思う(笑い)」
実家が信州上田で印刷屋を営み、よく校正も手伝っていた絢子は、目にしたことは瞬時に憶えるサヴァン的能力の持ち主でもあった。
当然本好きで、読書メーターに〈あやたんぬ〉名で日々感想を書きこむ彼女は、入社早々、イシマル書房がIT企業〈CTカンパニー〉の傘下にあり、パチンコメーカーへの株譲渡を迫られている事実を知る。しかも最新刊〈『里山の多様性ダイバーシティ』 〉が関係者の大麻使用疑惑で回収騒ぎに遭い、石丸はいよいよ窮地に立たされる。そこで助っ人として募集したのが〈シニア・インターン〉だ。
「着想は石丸と同じく映画『マイ・インターン』です。デ・ニーロ演じる老インターンと若い女性上司の関係が僕もわりと好きで、大手出版社を定年退職し、妻にも先立たれた岩田の出し方としては、格好の設定だと。
彼の長年の編集スキルを眠らせておくのは惜しいし、作家と編集者の関係が描けなければ本書は成立しない。出版界を扱った小説や映画は確かに多い。でも大抵はお仕事小説、、、、、で、作家と編集の言葉にならない関係とか作品が生まれるまでの核心部分は、他ジャンルに比べると面白くなりにくいんです。でも僕はそこを読みたいし、最も謎めいたドラマなので、この岩田と、剽窃事件で消えた〈島津〉がもう一度生き直す物語に核心が移っていきました」
島津正臣。現在は別名の官能小説家として活動する彼は、人気ハードボイルド作家から歴史小説に転向後、先行作から〈八行〉盗用したとして文壇を追われていた。実はその時の担当が岩田で、その8行を故意に盗作したのではない、、、、、、、、、、、、彼を守りきれなかった岩田は、この勝負作の書き手に島津を推したのだ。

「生き延びる」は日本全体のテーマ

結局、15万部は5万部×3部作でめざすことになり、島津の才能を信じ、何かと協力してくれた官能小説の担当編集者〈三宅〉こそ、最大の功労者だったりした。
こうして作戦は動きだし、以下はその作中作〈『小説 古事記』〉の書き出しである。
〈はるか古代、中国の長江下流域に、漁労をなりわいとする一族があった〉〈彼らは八百万の神を崇めていたが、とりわけ水辺の神に親しみをおぼえていた〉〈しかし稲が主食の地位に近づくにつれ、恵みをもたらしてくれる太陽神を大切に祀るようになった〉〈歴史の跫音あしおとが聞こえてきた〉……。
「僕も古代史は大好きで、最初は認知度の高い忠臣蔵を書かせるつもりだったんですけどね。ところが誰に聞いても『そこは古事記だろう』と言われ、だったら自説も書いちゃえと思って。
つまり大和民族の先祖は中国から来たボートピープルで、〈生き延びる〉ためにこの島国に渡ってきたこと。それは生き延びる、、、、、を社是とする石丸へのエールであると同時に、今の出版業界や日本全体のテーマでもあると思ったんですね。むろん僕としては1年で15万部という時限装置をハリウッドメソッド的に機能させた、あくまで面白い物語、、、、、を書いた。でもそうした虚構にこそ、根や葉は要るので」
その後もネットで島津の過去が叩かれるなど、事態は二転三転。しかし最後は作品の力が物を言い、書店員の熱き応援や好奇の目を逆手に取る島津の胆力など、人々の本気が織りなす光景に圧倒されるのは何も絢子だけではない。特に終盤で石丸が言う〈我々が何よりも生き延びさせなくてはいけないもの、それは『小説 古事記』〉というセリフは、企業の存続や目先の利益を超えたホンモノの光として、読者も含めた誰をも照らす。
「生き延びる主語、、が自分から作品に移っていくのも、昔の僕ならただの綺麗事に感じたと思う。でも自分はここでしか生きられないと覚悟した今は、自分を超えた存在のために働きたいとか、誰もがそういう境地に行き着くのでは、と思う。
そもそも出版人の最大の美点は、いいものはいいと社の垣根を越えて認め合えること。そんな滝田樗陰の時代から続く伝統に僕自身、小説を書くことで連なりたいのかもしれません」
根も葉もある嘘。それはかの古事記にも通じ、島津が書き、それを岩田や絢子や三宅が支えて、竜己や全国の書店員が心を込めて売る―。それ自体、奇蹟のような出来事を、まるで彼らがそこに生きている、、、、、、、、かのように描く著者の筆にも、おそらく真実は宿っている。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2017年11.24号より)

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