俳句と小説のエキサイティングマッチ!『俳句でつくる小説工房』
又吉直樹の俳句の師匠・堀本裕樹が選んだ句を、ショートショートの新鋭・田丸雅智が小説化! 俳句と小説の格闘がハラハラドキドキの一冊を、嵐山光三郎が紹介します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
嵐山光三郎【作家】
俳句でつくる小説工房
堀本裕樹 田丸雅智 著
双葉社 1400円+税
装丁/鈴木 徹(THROB)
装画/高橋由季
読者の詠んだ俳句を分解再構築してショートショートに
俳句とショートショートのコラボレーションが楽しい一冊。小説家は俳句がヘタクソで、そこが韻文と散文が決定的に違うところなのだが、俳句に触発されてショートショートを仕上げることは可能である。堀本裕樹は又吉直樹の俳句の師匠で、又吉と共著『芸人と俳人』がある。双葉社文芸WEBマガジンで俳句を募集して、堀本裕樹が選び、選評を書く。プロの俳人にとって選句は大事な仕事のひとつである。堀本氏は若い人に人気があるので、読者から3631句の応募があった。
田丸雅智は東大工学部卒で、ショートショートの旗手として活躍する新鋭。理系の目で俳句を分解再構築し、ショートショートに仕上げた。
たとえば、「花占ひのやうにふぐ刺し食ひにけり」という句。花弁を一枚ずつちぎって「好き、嫌い、好き…」とつぶやきながら花占いをするが、それをふぐ刺しでする。これがショートショートになると、仕事が「うまくいく、うまくいかない、うまくいく…」とパクパク食べる女子が「残り六枚」と気がつく。このまま行けば最後の一枚は「うまくいかない」となってしまう。その瞬間「うまくいくッ」と言って、六枚のフグの刺身を箸で一気に、サァっとさらって口の中へ放り込んだ。と、話のオチをばらしてしまったが、なに、ほかにいっぱい傑作ショートショートがありますから。
泣けるのは「こどもの日浅い水辺を海にして」という句から生まれた「都会のビーチ」。はたして「水辺の海」とはなにか。「逝きし友の家族と賀状続きたる」の句から生まれた「写真の友」には心霊写真家が登場する。堀本裕樹の選評「親友が亡くなったからといって、その周りの縁が切れてしまうわけではない。むしろ深まることがあるだろう」という言葉が深く胸に刺さり、それを体現する使命感に駆られてショートショートが仕上った。堀本(俳句)×田丸(ショートショート)によるエキサイティングマッチ。俳句と小説の格闘はハラハラドキドキです。
(週刊ポスト 2017年12.22号より)

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