少子化は「問題」ではなく「答え」『ローカリズム宣言 「成長」から「定常」へ』
人口減少と少子化が進み、資本主義が崩壊しつつある日本で、本当に豊かに生きるにはどうすればよいか? 現代の社会に疑問を持ったときに読みたい一冊を紹介します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
関川夏央【作家】
ローカリズム宣言 「成長」から「定常」へ
内田樹 著
デコ
1600円+税
装丁/岩間良平(トリムデザイン)
少子化は人口爆発による諸問題を回避するための「答え」
政治家と経済評論家は成長を強調する。だが基本インフラの建設がとうに終り、人口減少と少子化が進む日本が、これ以上成長するわけがない。非正規雇用を増やして人件費を「外付け」すれば企業の業績は上がるが、それは「雇用なき成長」である。
資本主義に先はない、と「直感」した青年の一部、すなわち自らを「格付け」してもらいたがる病気から自由で、かつ「経済合理性」に必ずしも信をおかない青年たちが、近年、地方へ「ターン」し始めている、と内田樹はいう。
日本には豊かなストックがあるではないか、とも著者は強調する。それは化石燃料ではない。深い森と豊かな水だ。また「古い」と軽視されつづけてきた「村」のありかただ。そこには談合があり協力があった。
共同体への帰属意識なしには人は安心できず、また成長・拡大なき「定常」の未来もえがけない。その共同体のサイズとして歴史的合理性を持つ「藩」に注目した著者は、「廃県置藩」を提案する。
二〇一一年に大学を退任した内田樹は神戸に「凱風館(がいふうかん)」を開いた。それは合気道の道場であり、「私塾」でもある。同時に三百人の「相互扶助活動」のハブともなっている。彼は二十余年の教師生活を誠実につとめたが、文科省の指導による高等教育破壊を現場で実感した。そんな経験が「私塾」設立につながった。
日本の少子化は顕著だ。昨年誕生した子供の数は「団塊」の三分の一強にすぎない。それは国難か?
著者は書く。
〈人口爆発による地球の生態学的環境の劣化、エネルギー、食糧、医療資源、教育資源、すべての不足によって起きる暴力的な争奪や紛争を回避するために人類が処方した「答え」が少子化なのです〉
そうか。少子化は「問題」ではなく「答え」なのか。
ならば私たちはそれに従って、ローカルな集合体を「小商い」で維持して、成長なき「定常社会」をおだやかに生きるほかはない。
(週刊ポスト 2018年2.16/23号より)

この記事が気に入ったら
「いいね」をしよう!
P+D MAGAZINEの最新記事をお知らせします。
あわせて読みたい記事
-
今日の一冊
【著者インタビュー】遠田潤子『紅蓮の雪』/大衆演劇の劇団と双子の、悲しき因縁の物語
双子の姉の唐突な自殺の謎を追うため、姉が死の1週間前に観たらしい大衆演劇の半券を手掛かりに、弟の〈伊吹〉は〈鉢木座〉を訪ねるが……。双子の血脈に刻まれた因縁、出生の秘密とは? 注目の実力派作家が描く問題作!
-
今日の一冊
【著者インタビュー】又吉直樹『人間』/喜劇にも悲劇にもなれる“状態”を書く
何者かになろうと、もがき続けた青春の果てに待っていたものは……。自身初となる長編小説『人間』について、又吉直樹氏にインタビュー!
-
今日の一冊
迷える青春群像が大人になった姿『教養派知識人の運命 阿部次郎とその時代』
主人公は大正から昭和の途中まで「青春のバイブル」とされていた『三太郎の日記』の著者・阿部次郎。栄光を手にしたあと、徐々に負け組になっていく阿部の波乱万丈な人生を記した評伝を紹介します。
-
今日の一冊
左右社編集部編『〆切本』は「最高のサスペンス本」。鴻巣友季子が解説!
〆切とは、不思議な存在。追い詰められて苦しんだはずが、いつのまにか叱咤激励してくれる。夏目漱石から松本清張、村上春樹、西加奈子まで90人の書き手による〆切話94篇を収録しています。〆切と上手につきあっていくための参考書ともいえる、エンターテインメント書を、鴻巣友季子が解説します。
-
今日の一冊
神崎宣武『神主と村の民俗誌』/ほとんど知られていない神主のこと
民俗学者であるとともに、岡山の神社の宮司でもある著者が、自身の体験から記した貴重な一冊を紹介します。
-
今日の一冊
土橋章宏著『駄犬道中おかげ参り』は新感覚時代小説。著者にインタビュー!
『超高速!参勤交代』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した土橋章宏が描く、愉快で痛快な珍道中。旅路の結末やいかに…? 創作の背景を、著者にインタビューしました。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】望月衣塑子『「安倍晋三」大研究』 /首相の「嘘」と「強さ」の理由が明ら・・・
東京新聞の記者・望月衣塑子氏と、写真家であり編集者でもある佐々木芳郎氏がタッグを組み、安倍首相の生い立ちからご飯論法、歴史観まで、徹底的に分析した書を紹介します。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】南 杏子『ブラックウェルに憧れて』/女性医師たちが直面する不条理に立ち・・・
女性医師たちが、現実の厳しさにくじけそうになりながらも、懸命に我が道を探る感動作! 現役医師として現場を知っているからこそ、圧倒的なリアリティーをもって現代医療のあり方を問い続ける著者・南杏子氏にインタビュー。
-
今日の一冊
ダニエル・アラルコン『夜、僕らは輪になって歩く』は反復と循環を暗示する風刺劇
ペルー生まれの著者による、反復と循環を暗示する風刺劇。鴻巣友季子が解説します。
-
今日の一冊
日本の多様性を教えてくれる『ニッポン 離島の祭り』
北海道の利尻島から沖縄八重諸島まで、日本各地の四季の祭りを記録。ともに生きることを確かめ合い、かつて生きた人々を想い、未来へ希望を持ち続ける場である離島の祭りの息吹を、鮮やかにとらえた写真集です。
-
今日の一冊
鷹木恵子著『チュニジア革命と民主化人類学的プロセス・ドキュメンテーションの試み』が届ける生・・・
「アラブの春」が始まった地であり、唯一民主化を成し遂げたチュニジア。しかし現在でも経済や治安面での課題を抱えています。ジャスミン革命から現在までの民主化移行へ向けた歩みを、文化人類学的手法を用いて捉えようとする一冊を、山内昌之が解説します。
-
今日の一冊
石毛直道『座右の銘はない あそび人学者の自叙伝』/料理人類学という分野を開拓してきた、破天・・・
もともとは考古学者を目指していましたが、インドネシア領ニューギニアの西イリアン学術探検隊への参加を転機に研究進路を変え、料理人類学という分野を開拓してきた著者。失敗を恐れずに「おもろい」を追求する、自由な人生を記した自叙伝です。
-
今日の一冊
デボラ・インストール『ロボット・イン・ザ・ガーデン』は愛に満ちた冒険譚
「翻訳もの冬の時代」に、大ヒットを飛ばしているロングセラー作品を紹介。ロボットと人間の、愛に溢れた冒険譚に、魅せられること間違いなし。創作の背景を、著者にインタビュー!
-
今日の一冊
『アルテーミスの采配』
-
今日の一冊
【著者インタビュー】森 絵都『カザアナ』/日本の閉塞感に風穴を開ける、近未来エンタメ小説!
理不尽で行き過ぎた管理と自国愛が人々を追いつめる20年後の日本で、タフに生きる入江一家。不思議な力をもつ〈カザアナ〉に出会い、閉塞感が漂う社会に文字通り風穴を開ける?――リアルな近未来を描く、痛快エンタメ小説!
-
今日の一冊
ヴァレリー・アファナシエフ著『ピアニストは語る』による音楽教育への提言。
カリスマピアニストが、自身の人生の軌跡と、音楽哲学を語ります。そこに描かれているのは、ソ連時代の暗鬱な空気の中でのモスクワ音楽院での修業の日々や、国を捨てる決意をするに至るまでなど。井上章一が解説します。
-
今日の一冊
小村明子『日本のイスラーム 歴史・宗教・文化を読み解く』/2010年代から取り沙汰されだし・・・
ムスリムの食習慣になじむとされた食材・料理「ハラール」。日本でも2010年代から注目されており、イスラームは私たちの身近な存在となりつつあります。日本で暮らすムスリムについて、もっと知りたい人におすすめの一冊。
-
今日の一冊
『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』
-
今日の一冊
嶋田直哉『荷風と玉の井「ぬけられます」の修辞学』/永井荷風好きなら必読!
生誕百四十年、没後六十年を超えてもなお、根強い人気を誇る永井荷風作品。なかでも有名な『濹東綺譚』について新しい論を提示する、荷風好きには必読の一冊を紹介します。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】旗手啓介『告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実』
1993年5月、カンボジアで日本人警察官一行が銃撃され、一人が亡くなった。それから23年もの間、真相は明かされないままだった――。PKOの現実を明らかにする渾身のドキュメンタリーを書籍化。その執筆の背景を著者に訊きました。