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【著者インタビュー】中山七里『護られなかった者たちへ』

仙台市の福祉保健事務所職員と現役県議が、全身を縛られたまま放置され、餓死させられた――。驚愕の連続殺人事件を軸に展開する物語。単に犯人探しを目的とするのではない、社会派ミステリーの傑作!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

読後、胸中に去来するのは怒りか哀しみか葛藤か――社会派ミステリー長編

『護られなかった者たちへ』
護られなかった者たちへ 書影
NHK出版 1600円+税
装丁/坂野公一+吉田友美(welle design)

中山七里
著者_中山七里1
●なかやま・しちり 1961年岐阜県生まれ。09年『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し48歳でデビュー。構想のストックは常時30近くあり、「今作は河北新報からの朝刊小説の依頼。当時は夕刊紙も含めて12本連載を抱えていたから取材する時間もない。その結果、連載作品がどんどんたまり、隔月で単行本化しても2022年分まである計算です(笑い)」。著書は他に『贖罪の奏鳴曲』『テミスの剣』等。163㌢、65㌔、A型。

理不尽な現実も多々ある中で、どんなハンデも個性でしかなくなるのが理想

舞台は仙台。市の福祉保健事務所職員と現役県議が、全身を縛られたまま放置され、餓死させられる、、、、、、、という驚愕の連続殺人事件を軸に、中山七里著『護られなかった者たちへ』は展開する。
物語は宮城県警捜査一課刑事〈笘篠とましの〉の目線で進み、今一人、話者を務めるのが元模範囚〈利根勝久〉だ。7年前、彼は知人の生活保護申請を巡って塩釜の福祉職員らと口論になり、相手を殴った上に、庁舎に火を放つ。幸いボヤで済んだが、懲役10年の実刑判決を受け、7年で刑期を終えていた。
最初の犠牲者〈三雲忠勝〉が消息を絶ったのは利根の出所後。笘篠は第二の犠牲者〈城之内猛留たける〉と三雲の接点から利根に辿り着くが、塩釜署では捜査資料が津波で既に散逸、公判でも利根の動機は曖昧にされていた。
と、ここまで粗筋を詳しく紹介できるのも、本書が単に犯人探しを目的としたミステリー、、、、、、、、、、、、、、、ではないからだ。どんでん返しの名手は言う。
「事件の犯人はわかっても、物語の犯人、、、、、は読み終えた後も誰にもわからない、現時点での最高傑作です!」と。

少年時代から膨大な読書量を誇り、既に著書35作を数える中山氏はまさに異能の人。本作でも同じ仙台内、あるいは県内でも、震災後の〈ヒト・モノ・カネ〉の集まり方に格差が生じている現実を、氏は現場に行くことなく「想像で」、見抜いてしまうのだ。
「有事の後には必ず格差が生じるし、五輪需要で人や金が出ていけばますます歪みや護られない者、、、、、、が出てくるものです。仮に現地で10取材しても使うのが1なら、その1を僕は想像で補います。経費がかからなくて書くのが早く、そこそこウマい、“吉野家”作家を自称しております!(笑い)」
第一章「善人の死」、第二章「人格者の死」とあるように、被害者の評判は聖人君子そのもの。それだけに手足の自由を奪った相手をアパートの空室等に放置し、餓死させた手口に違和感を覚えた笘篠は、三雲の部下の仕事に同行する機会を得る。部下によれば震災後いち早く生活支援に着手した仙台には困窮者が流入し、予算が逼迫。国が生活保護受給者の調整や申請を却下する〈水際作戦〉を指導する中、苫篠は行く先々で〈生活の腐敗臭〉を嗅ぎ、職員の疲弊を目の当たりにする。そして〈当然の業務なのに恨みを買う〉可能性も含めて事件を洗い直し、三雲と城之内が元同僚だった事実を掴む。が、役所側が渋々提出したUSBには改竄の跡が。担当者をただすと消された記録は3件あり、いずれも書類不備や肉親が存命なために申請を却下され、亡くなった老人だった。
その一人、〈遠島けい〉と近所の少年〈カンちゃん〉、そして利根の失われた日々が、四章「家族の死」以降に綴られていくのである。

罪に対する罰が相応かという問題

かつて殴ったチンピラに逆恨みされ、半殺しにされかけた利根を、けいは救ってくれた恩人だった。無抵抗な彼を殴り続ける相手に水をかけ、〈火事だ〉と騒いで追い払ってくれた気丈な彼女は夫の死後、場末のアパートに一人で住み、カンちゃんの母親の留守中は夕食の面倒も見ていた。以来、親の愛情を知らない利根は3人で囲むささやかな食卓を心の拠り所とする。中でも2人の父親、、役も兼ねるけいの人生哲学がいい。カンちゃんが母親の職業をからかわれ、自室のドアに〈ソープランド〉〈ビッチ〉などと落書きされた時のこと。利根から〈傷つけられたままだと、そこから組織が腐っていく〉と諭され、悪戯した同級生を待ち伏せて頭上からペンキをぶちまけたカンちゃんに、けいは言う。〈ちょうどいい罰だろうね。それ以上厳しかったら、加害者と被害者が逆転しちまう〉
そしてこの「相応の罰」の難しさが、読む者をラストまで翻弄するのである。
「仮に殺人犯の動機が復讐だったとして、その罰が相応かという問題は残る。役所は〈不正受給〉の問題もあるから申請を全部通すわけにもいかないし、その上で彼らの職業倫理や公私の葛藤について、考えてもらえたらいいなと思って」
読者は利根ら3人の蜜月を愛すればこそ殺意に寄り添いすらし、生活保護の実態を知るほど遠のく答えを、犯人側への共感を抱えつつ考えさせるところが、本書最大のしてやられた感、、、、、、、と言っていい。笘篠自身も震災で妻と子を失い、護れなかった自分を責めてきただけに、けいの末路には怒りすら覚えるが、それと犯罪をゆるすこととは別の問題だ。
「僕もこれらの実態には人並みには怒ってますよ。ただそれを主張するための作品ではないです。僕には主義主張や承認欲求が微塵もない。むしろみんなが感じていて言葉にならないことを言語化するのが作家の仕事で、奇をてらった謎や展開で読者を楽しませるのだけがエンタメではないと思う。
理不尽な現実も多々ある中、どんなハンデも個性でしかなくなるのが理想だとは思う。昔はアイツんちは金持ちだとか貧乏だとかが目の大小程度の違いでしかなかったし、別に国が口を出さずとも誰かを助けたり助けられたりする互助会的側面が、本来、人間の社会にはあったはずなんです」
が、〈恩は別の人間に返しな〉と教えたけいが護られることはなく、護らなかった側が罪に問われることもなかった。その裁かれない罪にどう決着をつけるのか、第三の標的を狙う犯人との攻防が決着してなお答えは宙に浮いたまま。だからこそ苦く、胸を穿つしこりは、私たち一人一人のものとなる。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2018年2.16/23号より)

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