SNSをつかった情報戦の実態『情報武装する政治』
SNSの各所で、政党による自発的な情報戦が繰り広げられている現在。自民党を中心に、その情報戦略の実態に迫ります。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
大塚英志【まんが原作者】
情報武装する政治
西田亮介著
角川書店
1600円+税
装丁/原田郁麻
webの「質」を向上させる担保は旧メディアの「質」
森友問題でひどくあからさまになってしまったのは、安倍界隈の情報戦の露骨さと稚拙さだ。自民党が在野時代、いち早くSNSをつかった情報戦に手を染めたことはよく知られるが、著者はそれを「政治の情報武装」と呼ぶ。考えるに、世論をあからさまに「工作」することが透けて見えながら、世論が自らそれに「乗る」という「参加型動員」、「協働型動員」を確立したことが安倍一強の根底にある。
自分から国民が喜々として動員されプロパガンダの前衛となる、というのはかつて近衛新体制の見た夢だったが、あの時は、webは存在せず、同じように反動・復古を「革新」と言い繕う安倍政権がそれを実現したのは偶然ではないだろう。「協働」である以上、「情報武装」したのは国民も同様で、実際、今回もSNSの各所で自発的な情報戦が繰り広げられている。
しかし、政治に限らず、誰もがSNS上で自身の情報操作(「インスタ映え」投稿の類)にも余念がないから、逆に「情報操作」されていることに過敏だ。その時、「あなたを操作しているのは旧メディアだ」という名指しで、被害者意識に訴えかけてきたのが、安倍情報武装の肝だ。結果、旧メディアの大半は「名指し」を恐れ、一つのツイートがbotと人手で何百倍かに拡大して見える「世論」にへつらい(いわば「仮装ポピュリズム」)、その屈託を、左派「工作員」の印象操作だと罵倒することに転嫁してきた。このような旧メディアの自壊が、ネトウヨ的fake newsを跋扈させてきた。
さて、問題は旧メディアは再生できるのか、だ。今回が最後の機会かな、と思う。旧メディアの「質」がwebの「質」を向上させる担保なのだということを政治的立場は超えて、雑誌を含めた旧メディアは今回の「朝日」報道から素直に学んでおかないと、安倍が見捨てられるのと同時に本当に見捨てられることになる。あ、だから、その時の保険に各週刊誌は高齢者向け健康記事の充実に余念がないのか。
(週刊ポスト 2018年4.20号より)

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