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自裁を遂げた西部邁の絶筆『保守の遺言 JAP.COM衰滅の状況』

1月21日にこの世を去った保守派の評論家・西部邁氏が、自裁する前に言っておきたいことを、すべてつめこんだ書を紹介します。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
嵐山光三郎【作家】

保守の遺言 JAP.COM衰滅の状況
保守の遺言 JAP.COM衰滅の状況 書影
西部 邁 著
平凡社新書
880円+税

対米追随しか外交方針を持てない日本と日本人への絶望

1月21日に自裁をとげた西部邁の絶筆である。西部氏が規定する「保守」は、「危機において平衡をとる英知」で、「負けを覚悟の言論戦」となる。自由民主党も立憲民主党も民主主義を標榜する、デモクラシーは素直に民衆政治と訳されるべきであった。古代アテネでのソクラテスやプラトンの議論では、デモクラシーが衆愚政治に転落して、金権政治となり、独裁政治に帰着した。
と、西部氏は、あの人なつっこい顔でギロンを仕かけてくる。「自衛隊という憲法違反の存在」を国民の93%が肯定しているにもかかわらず、その六割以上が当該の憲法条項の改正に反対している。これは国民精神の統合失調症じゃないのか、と。憲法九条には「侵略の禁止」があるけれど、侵略と自衛の区別は不可能で、これまでの侵略はすべて自衛を口実にしていた。
また「竹島、尖閣、北方四島は日本固有の領土である」といわれるが、世界史を眺め返せば、ある土地を奪ったり奪われたりするのは戦争の結果である。北方領土の国後と択捉には二万人余のロシア人が定住して七十年になる。北海道庁に「北方領土返還」の横断幕が張られているだけで、日本人は真剣な政治的主張として国際社会に訴えてこなかった。「領土は戦争の勝利(もしくはそうしようとする努力)で取り戻すもの」という国際社会の冷厳な事実を直視せよ。
西部氏は吠える。自裁する前に言っておきたいことを、あれもこれもかたっぱしから呻く。
対米追随しか外交方針を持てず、ひたすら技術システムを普及させる日本への絶望。日本のほとんどすべてが「人間の商品化」となった。西部氏が求める人生最大限綱領は「一人の良い女」「一人の良い友人」「一個の良い思い出」「一冊の良い書物」である。同書で唐牛真喜子さんが亡くなられたことを知った。一年半ほど前、新宿のバーK(西部氏が最後にウォッカを飲んだ店)で、たまたま真喜子夫人と逢い、唐牛健太郎の思い出を話したことを思い出し、バーKへ行って西部氏を偲んだ。

(週刊ポスト 2018年5.4/11号より)

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