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【著者インタビュー】 山田ルイ53世『一発屋芸人列伝』

一世を風靡した「一発屋」芸人たちの、栄光のその後を追った傑作ルポルタージュ。自身も芸人であるという立場から、彼らの本音をえぐり出し、雑誌ジャーナリズム賞作品賞を受賞した著者にインタビュー!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

雑誌ジャーナリズム賞作品賞受賞!時代に翻弄されながら不器用に生きる栄光の「その後」を追った傑作ルポ

『一発屋芸人列伝』
一発屋芸人列伝 書影
新潮社
1300円+税
装丁/新潮社装幀室

山田ルイ53世
著者_山田ルイ53世1
●やまだ・るい53せい 1975年兵庫県生まれ。愛媛大学法文学部中退。1999年にお笑いコンビ・髭男爵を結成。貴族と執事の格好で漫才の合間にワイングラスをぶつけ合う「乾杯ネタ」で2008年頃に大ブレーク。数々のバラエティ番組や10本以上のCMに出演。『新潮45』で連載した「一発屋芸人列伝」が「第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞。著書に『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)がある。172㌢、130㌔、O型。

一発屋芸人はそれぞれが誰ともかぶっていない新しい芸の発明をしているんです

浮き沈みの激しい芸能界の中でも、その高低差が目に見えるほど大きいのがお笑いの世界。
毎年のように新顔が現われ、1つのギャグやキャラを武器にして華々しいブレークを果たす。毎日のようにテレビやイベントに出演する彼らの元にはCMのオファーも殺到。その年の忘年会の余興では彼らのギャグを真似する一般人が続出する。
そうやって大きな波に乗った芸人の多くは、その直後に坂を転げ落ちるような大失速を経験する。次の年になれば新たなスターが台頭してきて、前年の売れっ子はお払い箱になる。
ピークを過ぎた彼らに、世間から軽蔑と嘲笑混じりで着せられた汚名は「一発屋」……。
山田ルイ53世(43)の著書『一発屋芸人列伝』は、そんな一発屋芸人たちの素顔に迫る渾身のルポルタージュだ。著者の山田自身も、髭男爵というコンビで10年前に大ブレークを経験した一発屋芸人である。
レイザーラモンHG、テツandトモ、とにかく明るい安村など、誰もが知る「一発」を打ち上げた彼らは、その栄光の瞬間に何を思っていたのか? そして今は何をしているのか? 山田の丹念な取材とリサーチによって世の中に知られていなかった彼らの本音が明かされている。

本書は『新潮45』での連載をまとめたもの。連載時から出版業界内では話題になり、「第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞した。
「俺がジャーナリズム? っていう驚きはありました(笑)。でも、物事を詳しく調べて世の中に伝えることがジャーナリズムだっていうことであれば、これはこれで良かったのかなと」
本書の中核を成しているのは、芸人同士だからこそ聞き出せた赤裸々な本音の数々。芸人ならば誰でもテレビで何度も話しているような定番の自虐エピソードを持っているものだが、山田はそんな通り一遍の話は拒否して、ほかでは語られていない彼らの本音をえぐり出していった。
「せっかくお時間を頂いて取材させてもらっているんだから、ほかでこすり倒したネタを話してほしくなかったんです。あと、芸人同士だからこそ話せる心情の吐露みたいなものもあったと思います」
山田は一発屋芸人たちに正面から向き合い、鋭い観察眼と分析力で彼らの本質をあぶり出していく。
ギター侍のキャラでブレークした波田陽区は、一念発起して活動の拠点を地元・山口に近い福岡に移した。山田はそんな彼の言葉の端々からにじみ出る「脇の甘さ」を鋭く指摘する。
〈「九州方面の営業が増えました。東京から芸人を呼ぶより交通費がかからないから有利なんです!」(そんな生々しいこと言わない方が……)〉〈「舐めて来たと思われないよう、ADさんにもちゃんと敬語で接してます!」(……前はタメ口やったん?)〉
同じ仲間として取材対象者に共感や同情を示したと思いきや、ときには客観視して冷たく突き放したりもする。取材する人間としての押し引きのバランスが絶妙なのだ。
「距離感はホンマに大事にせなあかんと思ってたんで。近づきすぎたら身内の感じになるし、離れすぎるのもおかしいし。まあ、波田陽区の場合はちょっと突き放しすぎたかもしれないですけどね(笑)」

微妙な味わいが分からない時代

本書は硬派なルポでありながら、読んでいると思わずクスッとしてしまう笑いどころもふんだんにちりばめられている。
芸人としてはダサく見えるほど老若男女に受ける分かりやすさを追求するテツandトモの2人の本質を、「演歌」と喝破するくだりのたたみかけるようなスピード感は、まるで漫才を見ているようだ。
「あの章は漫才の台本のテンポ感で書きました……って言いたいんですけど、いかんせん我々髭男爵はただのコスプレキャラ芸人ですから、そんなに偉そうなものでもなくて。ただ、我々の乾杯漫才はテンポ感を重視しているので、その意味では乾杯し続けた成果が出たのかも。行間にグラスが鳴る音をイメージしてほしいですね(笑)」
それぞれのギャグやネタに対する山田の精緻な分析を読んでいくと、一発屋芸人とはお笑いの世界でそれぞれ新しい「発明」をしているイノベーターなのだということが分かる。
しかし、世間では一発屋芸人にそんなポジティブなイメージは一切ない。彼らはなぜこんなに舐められてしまうのか。
「やっぱりオモチャ、、、、感でしょうね。すごく安価で大量に流通してしまったから、尊敬の対象にはならないんです。でも、ご本人たちが言うのもダサいから僕が犠牲になって言わせてもらいますが、取材してみて改めて思ったのは、本当に皆さん才能があるんだなっていうことです。それぞれが誰ともかぶっていない新しい発明をしているんです」
この本で描かれているのは、おとぎ話の結末の「めでたし、めでたし」の後の世界。「一発」が終わっても人生は続く。
キャラを捨てて正統派漫才の道に進む者、ロケバスの運転手という副業に活路を見出す者など、それぞれが崖っぷちでもがきながら必死に生きている。
「今の時代、ネットなんかを見ていても、勝っている調子のいい人はみんなで褒めて、ダメな人はさらに叩く、みたいな感じじゃないですか。微妙な味わいみたいなものが分かる舌じゃなくなっているんですよ。そういう意味では、この本は11組の芸人の熟成した人生が詰まった『発酵食品』です。それを味わって頂きたいですね」
最後の章で紹介される芸人は髭男爵。著者本人が「乾杯ネタ」を初めてライブで披露したときのことを振り返っている。この章だけはジャーナリストとしての批評精神は抑え気味で、どこか照れくさそうだ。
「編集者に自分たちのことも書いてほしいと言われて、僕は猛反対したんです。何とか相方のひぐち君の悪口を書くことで真正面からの分析は回避したんですけど……回避できてます?(笑)」
10年前に一世を風靡した髭男爵のギャグ「ルネッサンス」とは、華やかな古典文化の復興を意味する言葉。山田の「ルネッサンス」の掛け声と共に、一時代を築いた一発屋芸人たちの勇姿が読者の脳裏に再び蘇る。

●構成/ラリー遠田
●撮影/大橋賢

ラリー遠田…1979年愛知県生まれ。お笑い評論家。『逆襲する山里亮太』(双葉社)など著書多数

(週刊ポスト 2018年7.6号より)

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