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斬新な大どんでん返し!『ちょっと一杯のはずだったのに』

ニッポン放送での実務経験をもつ著者がラジオ局を舞台にして描く、密室殺人ミステリー。映画化も決定した前作『スマホを落としただけなのに』をも上回るスリルとスピード感です!

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
森永卓郎【経済アナリスト】

ちょっと一杯のはずだったのに
ちょっと一杯のはずだったのに 書影
志駕 晃 著
宝島社文庫 630円+税
装丁/菊池 祐
装画/田中寬崇

アキバ系オタクが本領を発揮する人物・舞台設定

著者は、ラジオ局のニッポン放送に勤めるサラリーマンだ。昨年、デビュー作の『スマホを落としただけなのに』がヒットして、今年11月に映画化されることになった。新人作家として、これ以上ない成功を収めたのだが、新人作家にとって一番重要なのは、二作目だ。そこで失敗すると、一発屋で終わってしまうからだ。ところが、二作目の本書は、デビュー作を超えるスリルとスピード感、そして最後に大どんでん返しが待ち構えていて、前作を上回る出来映えだ。
実は、私は何年か前に著者と仕事をしたことがあるので、よく分かるのだが、著者は、アキバ系のオタクだ。だから、この作品の舞台も秋葉原になっている。本業があって、小説を書くのに、いちいち取材をしている時間はないから、自分の知識で書ける舞台を選んだのだろう。人物設定も、同じ事情だ。主人公は、ラジオ局に勤務するディレクター、まさに著者がやってきた仕事だから、描写が的確で、リアリティがある。これは、他の小説家では出来ないことだ。
そして、その人物設定は、本作の最大の見どころである密室殺人のトリック解明の場面でも活かされている。ネタバレになってしまうので、詳しくは書けないが、密室殺人のトリック自体は、画期的とは言えない。だが、それを解明する手段が、ラジオでディレクターをやっていた人間にしか思いつかない斬新なものなのだ。
また、著者の作品のもう一つの特徴は、登場人物のモデルをラジオ局の同僚にしていることだ。しかも、著者は本名の一部を残す形で登場させているので、誰をモデルにしたのか、すぐに分かる。例えば、本作で殺される西園寺沙也加のモデルは、ニッポン放送の現役女子アナだ。本書を読んでいると、著者がこの女子アナを好きだったのがよく分かる。まさにオタクの本領発揮だ。
今後、著者が大ブレイクしても、ニッポン放送を辞めることはないだろう。TV局と比べて所帯の小さいラジオ局は、人間関係の坩堝で、ネタ作りに事欠かないからだ。

(週刊ポスト 2018年7.13号より)

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