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【著者インタビュー】山崎ナオコーラ『偽姉妹』

叶姉妹と阿佐ヶ谷姉妹に着想を得て書かれた、明るく型破りなストーリー。まったく新しい、現代の家族の作り方を標榜する著者にインタビュー!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

身内じゃないから心地いい!「血縁」ではない「結縁」を描く明るくも型破りな新家族小説

『偽姉妹』
偽姉妹 書影
中央公論新社
1700円+税
装丁/大島依提亜 装画/扇谷みどり

山崎ナオコーラ
著者_山崎ナオコーラ1
●やまざき・なおこーら 1978年福岡県生まれ、埼玉育ち。國學院大學文学部卒。04年『人のセックスを笑うな』で第41回文藝賞を受賞しデビュー。17年『美しい距離』で第23回島清恋愛文学賞。著書は他に『浮世でランチ』『昼田とハッコウ』『反人生』等。「今となってはこの筆名が恥ずかしくて(笑い)。でも同じカタカナ名のリリー・フランキーさんを見ると、名前が持つ意味は自分や仕事の実績が作っていくものなんだなあって改めて思います」。158㌢、B型。

人同士が近づくだけでなく離れていく関係性も美しいということを書きたい

思えば04年のデビュー作『人のセックスを笑うな』に、こんな一節があった。
〈木の枝と枝の、間の空。あれは存在しているのだろうか〉〈巨大な空と、枝に囲まれた小さな空は、別物だ〉〈囲んだ途端に、風景は切り取られる〉―。
一方この女性たちはどうか。シングルマザー〈正子〉、元職場の先輩〈百夜〉、ウクレレ教室で出会った7歳下の友人〈あぐり〉に当然血縁はない。それでも3人は正子が建てた〈屋根だけの家〉に住み、正子の息子〈由紀夫〉を一緒に育てている家族であり、『偽姉妹』なのだ。
そもそも偽姉妹を名乗る前から3人の関係は存在し、その名前を超越した可能性まで、山崎ナオコーラ氏は本書で標榜してみせる。
帯に〈家の中から“明日”を変える長篇小説〉とあるが、小説とはかくも革新的で、社会的なものだった!

着想はなんと、叶姉妹と阿佐ヶ谷姉妹だったという。
「元々は他人同士の女性たちが、姉妹ユニット、、、、、、を組み、社会的に活動していることが、私には血縁を超えた新しい家族の作り方を体現しているように思えたんです。
しかも世間には、美人は美人同士、ブスはブス同士でくっつけみたいな圧力があって、美人とブスが友達だと損得目当てとしか見てくれない(笑い)。でもブスと美人でも普通に親友になれるし、そもそもブスという言葉も私はもっとフラットに使いたくて、この姉妹交換の話を書いたんです」
ちなみに百夜とあぐりは美形で、正子は地味で冴えない35歳。一方、正子の実姉で公務員の〈衿子〉と看護師の実妹〈園子〉〈私たちって、ブスだよね〉と認め合う仲だが、男女ともに面食いの正子は、美形の夫〈茂〉に片思いの女性ができて離婚した過去がある。
6年前、宝くじで1等3億円を当てた正子は、茂から〈正子には壁がある〉と言われたことを思い出し、ネットで探した若手建築家に〈壁がない家〉の設計を依頼した。離婚後の今は衿子と園子が家賃3万円で同居中だが、正子は〈『血の繋がった家族』なんだから〉といわれる度に違和感を覚える。そんなある日、百夜とあぐりが食事に訪れ、そのまま居着いてしまうのだ。
この時の三姉妹の反応が面白い。百夜が、かつて仕事先の男性と不倫関係にあったと語った際、正子はそれを特に質さずにいた。だが園子は〈なんで不倫した女を許すのさ〉〈不倫をしていた人とひとつ屋根の下で一緒に暮らすことは絶対にできない〉とまで言う。対して正子は〈園子ちゃんって、芸能人の不倫にも厳しいよねえ?〉〈たまたま恋に落ちずに済んでいる人が、恋に落ちて苦しんでいる人を滅多刺しにしてどうするのさ〉と、百夜ではなく実妹に家を出ていくよう進言するのだ。
「別にどっちが正しいとかではないんです。堅実でしっかり者の園子は社会のルールに則って生きるのが得意だけど、正子は自分がそうはできないから、人にも強く言えない性格、、というだけなんです。その合わない同士が衝突や対話を通じて一つになる小説もカタルシスがあって美しい。けれど私は、関係性というのは近づくだけでなく、離れていくのもまた美しいんじゃないかと思っていて、その離れていく美しさ、、、、、、、、を書きたい」

小さなことから社会を変えたい

「特にお金に関する感覚は家族を作る上で凄く大事で、恩着せがましくない〈ちょうど良いありがとう〉を言うのは本当に難しいから、そこはお金のやりとりで済ませたい人も多いと思う。ところが世の中、『家族間でお金の話はするな』みたいな空気もあり、結婚した途端、片方が甘えっ放しでも社会的に許されたりする。だとすれば本当は人に奢るのが好きな正子が、それが気にならないセンスの人と偽姉妹を名乗る意義は十分あるし、大事にしたい関係に勝手な名前を付けて守っていくのも、うまく生きていく一つの方法だと思う」
愛情は抱きつつ肉親と距離を置く正子の選択は、離れてこそ知る親の有難みにも似て、十分ありうる。むしろそれを認めさせない常識や家族幻想こそが本書の敵といえるが、「私は社会派作家になりたいんです」と山崎氏は妙にニヤニヤする。
「だって私が社会派なんて、冗談に聞こえるなあと思って(笑い)。普通、社会派は政治とか大きな問題を斬る印象がありますが、私はもっと小さなことから社会を変えたい。国と国の関係でも正しさを主張しあうより、距離を置けば戦争にはならないはず。それぞれ別の正義なんだねってあっさり引き下がる、社会派、、、なんです」
園子と別れ話をする間も昔から好きだった〈チョコミント〉味のアイスを頬張る妹に胸を熱くし、衿子が出ていく段になって〈うわあああん〉と泣き出す正子は、誰のことも恨んでなどいなかった。それでも偽姉妹との生活を選んだ彼女は、〈人間同士なら、みんな、姉妹になれる〉との理想の下、〈姉妹喫茶店〉を開業。共に老年を迎えた40年後までが、終章には描かれる。
「それぞれおばあちゃんになれば外見まで似てきたり、雰囲気が姉妹っぽいと言われる時代が来てもおかしくない気がする。なので、人種とか性別が違う姉妹まで存在する近未来を、先取りで書いてみました」
家族、血縁、美醜など、漫然と受容してきた世界が偽姉妹なる造語一つで崩れ、残るのは本当に大事にしたい人だったり関係だったりした。ことは善悪ではなく性格やセンスの問題と言い切る社会派はこの逆説的な物語をもって、より柔軟で多様な未来を自ら切り拓く。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2018年7.13号より)

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