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命の尊さをテーマにした7作を収録『手塚マンガで憲法九条を読む』

命の尊さをテーマにした手塚治虫のマンガ7編を収めた本。まんが原作者として活躍する大塚英志が、本書に関して持論を語ります。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
大塚英志【まんが原作者】

手塚マンガで憲法九条を読む
手塚マンガで憲法九条を読む 書影
マンガ 手塚治虫
解説 小森 陽一
子どもの未来社 1500円+税
装丁/松田志津子

表現を第三者がプロパガンダのツールにしてはならない

憲法九条を変えるべきではないという本書の政治的立場にぼくは賛同する。しかし、その上で、本書のようにその学習教材として直截の手塚作品を読ませることには違和を表明する。
手塚作品は確かに戦争を主題としたものが少なからずある。しかし手塚の表現は、まんががプロパガンダのツールであった歴史からの離脱として立ち上がった。例えば、本書の解説で野上暁が言及した「勝利の日まで」は、手塚の戦争体験の反映としてのみ論じられるがそれは狭い理解だ。この作品は大政翼賛会が主導した戦時下のメディアミックス「翼賛一家」の自発的な二次創作として描かれ、同時期の「防空」を題材とした教育映画のまんが版として目論まれている。そのことはいずれ本にまとめるが、「勝利の日まで」は、戦時下の少年である手塚の自主製作の翼賛教材だった。手塚は自身が軍国少年であったことが記された日記も公にしていて、当時の彼が民主主義者であるはずはない。
当然、そういう少年としてあった手塚を糾弾するのは無意味だ。だからこそ、手塚少年を縛ったものから戦後、彼が自分のまんがを自由な表現として、いかに立ち上げていったのか、その果てに何がどのように生まれたのかを知ることが重要だ。例えば「アトム大使」の初期構想ではアトムはアメリカの大統領の意で戦う戦闘ロボットだった。しかし、完成した作品は和平大使のアトムの物語であった。
教材として示すならこのようなまんが家・手塚治虫のつくられ方であり、その中で彼が彼の表現をいかに自ら獲得していくか、その過程をこそ示すべきである。描くことの自由の教材としてあらゆる作品はなくてはいけない。ぼくは作家やまんが家が政治的立場を有して当然だと思うが、同時に、表現を第三者がプロパガンダのツールとして用いることはあってはならないと考える。全てのまんががプロパガンダのツールとなることは拒否すべきであり、プロパガンダに良いプロパガンダと悪いプロパガンダなどないのである。

(週刊ポスト 2018年8.17/24号より)

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