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貴重な写真と解説でまとめた年代記『築地市場 クロニクル完全版 1603-2018』

豊洲への移転のため、2018年10月6日をもって営業を終了した築地市場。その巨大市場の貴重な写真が満載の、完全版年代記を紹介します。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
嵐山光三郎【作家】

築地市場 クロニクル完全版 1603-2018
築地市場 クロニクル完全版 1603-2018 書影
福地享子+築地魚市場銀鱗会 著
朝日新聞出版
2700円+税
装丁/細山田光宣

貴重な写真と解説でまとめた銀座の真裏の「劇場」

築地市場は1933年、関東大震災による帝都復興の事業として完成し、2018年10月6日が最終営業日となる。24時間休むことなく稼動する巨大市場である。マグロのセリは午前一時からはじまり一日に約一千本がセリにかかり、マイナス60度に凍ったマグロの冷気で、セリ場の空気はぼやけ、濃い霧につつまれる。一日の入場者は四万二千人。このうち買出人は二万八千人。さらに一万五千台のトラックが築地にやってくる。
戦前の輸送は貨物列車で、汐留貨物駅から側線を引いて築地市場に乗り入れ、1950年代の最盛期には日に150便もが入線したが、60年代からはトラック便にかわっていった。
セリが終ったころ、始発電車でくる客を「ハヨザイ」の声で迎える。「ハヨザイ」とは「おはようございます」の略である。ハヨザイの客は、なじみの店へまっすぐ行って、仕入れて自分の店へ帰る。
市場は劇場である。
ぼくのような素人の市場愛好家は、「ハヨザイ」客が帰ったあと、午前十時ごろ出かける。市場は終りかけているが、電動小車のターレーが動き廻り、手押し車も多いから、要領よく歩かないとぶつかってしまう。ゴム長靴が必要である。生きのいいかけ声があちこちで響き、水しぶきがあがり、包丁が光る。見たこともない魚が並んでいる。夢の袋小路をさまよう快感がある。
こんな一角が銀座の真裏にある。いや、あった。竹籠を二つぶらさげてぼくがよく行ったのは野菜の大だった。高級野菜を海外から空輸販売している店で、店の主人は日本一の野菜通である。店には有名レストランのシェフがやってきて、よく会った。
で、昼食は場内の洋食・とよちゃんか、その三軒隣りにある中栄の印度カレーだった。竹籠いっぱいに買い物をして、夜はその食材で宴会をした。著者の福地享子さんは、築地魚市場銀鱗ぎんりん会の事務局長。築地の貴重な写真と解説で年代記をまとめた。ぶ厚い本だが、どのページもいとおしく読みました。

(週刊ポスト 2018年8.31号より)

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