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絵は、ただ感じるだけでいい『感性は感動しない 美術の見方、批評の作法』

「美術は教養」と身がまえ、難しく考えがちな人におすすめ! 日本を代表する美術評論家である著者が、肩の力が抜ける〝作品との接し方〟を教えてくれます。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
香山リカ【精神科医】

感性は感動しない 美術の見方、批評の作法
感性は感動しない 美術の見方、批評の作法 書影
椹木野衣著
世界思想社
1700円+税
装丁/上野かおる(鷺草デザイン事務所)

「なんだ、そうなのか」と肩の力が抜ける〝作品との接し方〟

本書はポスト読者にぴったりの良い本だ。著者は日本を代表する美術評論家で、内容はズバリ「美術の見方」。そう言うと「美術史や鑑賞のポイントが語られてるのか」と身がまえるかもしれないが、そうではない。結論を言えば、「絵とは『かたまり』として雑然と接し、答えも結論も出さないまま感じていたい」というのが、著者がすすめる「美術の見方」なのだ。
予備知識をいろいろ詰め込んで美術展に出かける必要もない。カタログは、「一度『いい』と思ったら、今度はその絵についていろいろ調べてみる」ために買うもの。また、「いい」と思う絵はあくまで自分の感性に従って選ばれるべきで、「話題作とか有名作とか、絵が大きいとか小さいとかいっさい関係がありません」とも書かれている。
「なんだ、そうなのか」と肩の力が抜けると同時に、「じゃ、どうすれば」と不安になる人もいるだろう。これまで「美術は教養」と思ったり「美術のウンチクはモテるための武器」と考えたりして一生懸命、美術ガイドなどを読み込み、何時間も行列を作って大混雑の美術館に入場したりしていたのが、「ただ、感じるしかない」と言われると「では、どうすれば?」と途方に暮れる。実は簡単そうでこれがいちばんむずかしいかもしれない。
本書の後半には、子ども時代から著者が住まいや環境、マンガや音楽などから感じ取ってきたことが、とても素直な言葉でつづられている。ここでも読む者はやはり、「ああ、これでよいのか」という安心感と「私にはこんな感性はあるか」という一抹の不安にとらわれるだろう。
でも、だいじょうぶ。「神はいなくても日々、命はある」と著者はすべての人を励ましてくれる。命があるからには感性はあるはずだ。むずかしいことは抜きにして、次の休日は美術館に行ってみてはどうだろう。「いい」と思える作品に、今度こそ出会えるかもしれない。そんな気持ちにさせてくれる会心の一冊だ。

(週刊ポスト 2018年9.21/28号より)

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