日本の多様性を教えてくれる『ニッポン 離島の祭り』
北海道の利尻島から沖縄八重諸島まで、日本各地の四季の祭りを記録。ともに生きることを確かめ合い、かつて生きた人々を想い、未来へ希望を持ち続ける場である離島の祭りの息吹を、鮮やかにとらえた写真集です。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
与那原 恵【ノンフィクションライター】
ニッポン 離島の祭り
箭内博行 写真・文
グラフィック社
2200円+税
装丁/松倉 浩 鈴木友佳
生きていることを確かめ合い未来への希望を持ち続ける場
北海道の利尻島から沖縄八重山諸島まで。日本各地、三十四の離島の四季の祭りの息吹を鮮やかにとらえた写真集である。
島の民俗誌と歴史、そして今日の姿にも言及した文章が魅力的だ。写真・文の箭内博行は〈今まで約20年、大自然と、島人の人情と、祭りに魅了されながら、国内400島強の有人島のうち340ほどの島々を歩いてきました〉というから、驚く。その写真にも、彼が島人たちにどれほど親密な愛情を抱いてきたか、また島人たちも彼を温かく迎え入れていることが、よくあらわれている。
私が主に訪ねたのは南の島々だが、行くたびに感じるのは、島という空間が一つの世界を築き上げていることだ。生の喜びや、人生におけるさまざまな苦難、成長していく過程、さらには老いや死といったものを間近に見つめる時間をもたらしてくれる。
こうした離島の暮らしのなかでの祭りは大きな意味がある。ともに生きることを確かめ合い、かつて生きた人々の姿を想い、さらには未来への希望を持ちつづけることのできる場であるのだろう。
離島は、海によって陸地や他の島々と隔たっているが、同時に海によって結ばれてもいる。人々の移動の足跡を島の祭りが物語っているのだ。たとえば、利尻島に伝わる「利尻麒麟獅子」のルーツは、遠く鳥取県にあった。明治期、ニシン漁にわく島に鳥取からの移住者がやって来て、故郷の芸能が伝えられたものの数年で途絶えてしまい、道具だけが伝えられた。平成の時代になって調査が進められ、祭りの復活を遂げたという。
離島の祭りには、日本古来の伝統的舞楽を伝えるものがあり、その一方、来訪神が登場するものが少なくない。その起源を、ベトナムや中国南部、アジア諸国や南洋にたどることもできる。
色鮮やかな衣装、さまざまな仮面など、どれも強い個性を放っており、とくに、トカラ列島・悪石島の「ボゼ」の異形には、古代人の力を感じた。離島はニッポンの多様性を教えてくれる。
(週刊ポスト 2018年11.9号より)

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