ファン必携のインタビュー集『筒井康隆、自作を語る』
SF御三家のひとりと称され、半世紀以上も数々の名作を世に送りだし続けてきた筒井康隆のインタビュー集。コアなファンにも、これから作品を読みはじめる人にもおすすめの一冊です。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
坪内祐三【評論家】
筒井康隆、自作を語る
筒井康隆 著
日下三蔵 編
早川書房
1300円+税
装丁/仁木順平
作家をとりまく〝固有名詞〟に反応してしまうインタビュー集
SFに殆ど興味ない私であるが、筒井康隆の本はかなり読んでいる。文庫本だけでなく単行本も買った。
最初に買った単行本は『暗黒世界のオデッセイ』(晶文社)で、これは植草甚一や小林信彦らの“晶文社ヴァラエティブック”の一冊として買ったのだ。
それから『大いなる助走』も『不良少年の映画史』も『みだれ撃ち瀆書ノート』も『美藝公』(大判で横尾忠則のイラストが印象的だった)も買った。
私の学生時代一番トンガっていた文芸誌は『海』(中央公論社)だったから、同誌に連載された『虚人たち』も初出誌で読んだ。
当時、私が必ず目を通していた純文学作家に大江健三郎、後藤明生、色川武大、田中小実昌、小林信彦がいて、筒井康隆もその一人だった。
それから私が自慢出来るのは、筒井康隆が書いた芝居の舞台を目にしていることだ。
学生時代の私の恩師に劇作家で評論家の福田恆存がいて、世間から「保守反動」と言われていた福田氏は筒井氏の戯曲を高く評価し、自身の劇団「昴」で上演したのだ。
私は一九八一年十月二十七日、筒井氏の戯曲『三月ウサギ』(主役の高円寺享介を演じたのは
その筒井康隆のインタビュー集(インタビュアーは日下三蔵)は予想通り(いやそれ以上に)面白かった。
私は固有名詞オタクだから登場する固有名詞に次々と反応してしまう。『夢の木坂分岐点』は『新潮』に連載されたものだが「そのときの担当者が岩波剛という人で」。岩波氏は新潮社を退職後、演劇評論家として活躍する。八十代後半の今も相変わらず若々しい。今世田谷文学館で筒井康隆展が開催中で、川崎市市民ミュージアムでは『ゴルゴ13』展が開催されている。さいとう・たかをと筒井氏に共通する小学館のキーパースンが二十四頁に登場する小西湧之助だ。
(週刊ポスト 2018年11.23号より)

この記事が気に入ったら
「いいね」をしよう!
P+D MAGAZINEの最新記事をお知らせします。
あわせて読みたい記事
-
今日の一冊
【2020年の潮流を予感させる本(1)】デヴィッド・ハーヴェイ 著、大屋定晴 監訳『経済的・・・
新時代を捉える【2020年の潮流を予感させる本】、第1作目はマルクス経済学の枠組みを用いて、現代経済の病巣を解明する書。経済アナリストの森永卓郎が解説します。
-
今日の一冊
ポール・ホーケン 編著、江守正多 監訳、東出顕子 訳『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる・・・
22カ国の70人の研究員による地球温暖化問題の「解決策」を、さらに120人の各分野の専門家からなる諮問委員会が検証して「データの正確性、信頼性、最新性」を裏打ちした話題の書!
-
今日の一冊
【著者インタビュー】西岡研介『トラジャ JR「革マル」三〇年の呪縛、労組の終焉』/事故や不・・・
JR東労組で発生した3万5000人に及ぶ大量脱退劇や、2011年と2014年に社長経験者が2人も自死したJR北海道の闇についてなど、歪んだ労使関係に迫った渾身のノンフィクション!
-
今日の一冊
経済の見方を根底から変える『ドーナツ経済学が世界を救う 人類と地球のためのパラダイムシフト・・・
経済の目標を経済成長に置くのではなく、人々が幸福に暮らせる社会にすべきだと主張する一冊。抽象論で終わらず、具体的かつ大胆な対策が述べられています。
-
今日の一冊
朱 宇正『小津映画の日常 戦争をまたぐ歴史のなかで』/世界の名だたる映画監督たちが師とあお・・・
小津作品で描かれる中流家庭の「日常」には世界共通の何かがあると思い、同時に外国人の書いた小津論には「西洋から見た非西洋の理解」という限界があると見切った韓国人研究者・朱宇正による力作。
-
今日の一冊
死刑執行直前の思いとは――『サリン事件死刑囚 中川智正との対話』
地下鉄サリン事件の捜査に協力した生物・化学兵器の専門家が、サリン製造に大きく関与した死刑囚・中川智正と対話を重ね、その死刑執行後に出版した書。ノンフィクションライターの与那原 恵が解説します。
-
今日の一冊
『他者という病』
生と死を突き詰めた壮絶ドキュメント。鈴木洋史が解説します。
-
今日の一冊
国際性豊かな国境地帯の魅力『大学的長崎ガイド――こだわりの歩き方』
かつて遣唐使やオランダ貿易船も通った、日本屈指の国際性豊かな県“長崎”。対馬や壱岐を含めて面的な広がりをもった国境地帯でもあるこの地の魅力を、学術的な見地からもわかりやすく紹介したガイドブックです。
-
今日の一冊
『住友銀行秘史』が暴く経済事件の内幕。
戦後最大の経済事件と言われる「イトマン事件」。保身に走る上司とぶつかり、裏社会の勢力と闘ったのは、銀行を愛してやまないひとりのバンカーだった。その内幕を赤裸々に綴った手帳をここに公開。その驚愕の内容は必読!ノンフィクションライターの鈴木洋史が解説します。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】島﨑今日子『森瑤子の帽子』/主婦羨望のアイドルだった、人気女性作家の実・・・
『情事』ですばる文学賞を受賞し、一気に流行作家へと駆け上がった森瑤子。真っ赤な口紅と大きな帽子がトレードマークで、女性たちの羨望を一身に集めていた彼女は、実は家族にすら言えない孤独を抱えてもいて……。華やかなイメージの裏に隠された、作家の実像に迫るノンフィクション。
-
今日の一冊
老人ユーモアSF『九十八歳になった私』
時は二〇四六年、九十八歳になった橋本治の日常を、ユーモアたっぷりに一人称で綴る老人文学。作家の関川夏央が解説します。
-
今日の一冊
藤森照信『藤森照信 建築が人にはたらきかけること』/屋根に草をはやす設計家・怪人フジモリの・・・
五十歳のとき、屋根にニラを生やすニラハウスで日本芸術大賞を受賞。その後もつぎつぎとユニークな建築を造りつづけるフジモリ氏の、並外れた発想力と理念がわかる一冊です。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】塩田武士『朱色の化身』/全く新しいリアリズム小説ないし報道小説が可能な・・・
作家デビューから10年の節目を迎える著者・塩田武士氏が、自ら取材した事実と証言を連ねて紡いだ実験的小説。「実を虚に織込み、虚が実を映し出すという相互関係に今という時代を解くカギがある」と著者は語ります。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】はらだみずき『銀座の紙ひこうき』/雑誌黄金期に「紙」の確保に奔走した若・・・
1980年代、雑誌が黄金期を迎えていた時代に、製紙会社の仕入れ部門で「紙」の確保に奔走する若者たちがいた――。誰もが一度は通過する、社会的青春と生き方を描く長編小説。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】田中里尚『リクルートスーツの社会史』/就活生はなぜみな同じスーツを着る・・・
ある人は「就活」学生の制服と言い、またある人は同調圧力の強い日本社会をあらわしていると言う「リクルートスーツ」。不思議な日本独特の服装の謎に迫る一冊を紹介します。
-
今日の一冊
原 武史『歴史のダイヤグラム 鉄道に見る日本近現代史』/鉄道ファン必見! 鉄道愛あふれるオ・・・
天皇から庶民まで幅広い乗客を網羅し、車窓風景、車体、駅弁、駅そば、駅名、駅員など鉄道に関わる森羅万象を味わい尽くす一冊を紹介します。
-
今日の一冊
【著者インタビュー】落合 博『新聞記者、本屋になる』/定年を目前にして新聞社を辞め、始めた・・・
新聞の論説委員から58歳で書店を開業。その過程を詳らかにした『新聞記者、本屋になる』が話題の著者にインタビュー!
-
今日の一冊
【著者インタビュー】長谷川晶一『幸運な男 伊藤智仁 悲運のエースの幸福な人生』
1993年にドラフト1位でヤクルトスワローズに入団し、魔球のような高速スライダーで野球ファンを熱狂させながらも、現役生活の大半を故障との闘いに費やした伊藤智仁選手。その初の本格評伝を記した、著者にインタビュー!
-
今日の一冊
『聖母』
-
今日の一冊
『これで駄目なら』