国際政治の舞台裏を読む『2019~世界と日本経済の真実 米中貿易戦争で日本は果実を得る』
「IMFによる米中貿易戦争の日米経済への影響試算」や「世界貿易投資報告」など、各種データを駆使して計算すれば、予測は当たる――。国際政治の舞台裏を数字で読み解く面白さが味わえる一冊。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
岩瀬達哉【ノンフィクション作家】
2019~世界と日本経済の真実 米中貿易戦争で日本は果実を得る
高橋洋一著
悟空出版
1200円+税
装丁/黒岩二三
総理ご意見番が「数字」で読み解く国際政治の舞台裏
数量政策学者の高橋洋一は、4年前、消費税率の5%から8%への引き上げに対し、デフレからの脱却が遠のくと反対した。
「日銀の黒田東彦総裁も含めて皆、消費税を上げても大丈夫」と、安倍総理に進言するなか、ひとり、「それは違います」と異を唱えたのである。結果は、言うまでもなく景気の大幅後退だった。
トランプ大統領と習近平国家主席との「米中貿易戦争」においても、米国が鉄鋼、アルミ製品への「追加関税措置」を発表するや、日本のメディアは「さあ、大変だ。なぜ、トランプ大統領は同盟国である日本を除外しないのか」と大騒ぎした。しかしこの時も、高橋は「高みの見物を決め込んでいればいい」と涼しい顔だった。その言葉通り、日本への影響は皆無だったといっていい。
なぜ、高橋洋一の予測は当たるのか。
「官僚や経済学者が数字を読めない」うえ、「目先のことばかり取り上げて国民の危機感を煽っている」のに対し、高橋は、「IMFによる米中貿易戦争の日米経済への影響試算」や「世界貿易投資報告」など各種データを駆使しながら、計算しているからだ。その計算プロセスは、説得力に富んでいるだけでなく、国際政治の裏舞台を数字で読み解く面白さがある。
米中関係は、「最終的には経済の問題」である。「アメリカが中国に輸出している額より、中国がアメリカに輸出している額のほうがはるかに大きい」以上、長引けば長引くほど、中国経済は打撃を受ける。まして「安い労働力」を求めて中国に投資してきた「外資(国際資本)」が、中国に見切りをつけはじめているという。このまま行けば、習近平の中国共産党は経済で行き詰ってしまうだろう。
そんな事態を回避しようと中国が暴走する前に、高橋は「日本とアメリカが、韓国をなだめすかしながら北朝鮮を取り込む」、より強固な中国包囲網をつくる必要性を説く。洞察に富んだ「新秩序体制づくり」には納得することしきりだった。
(週刊ポスト 2018年12.14号より)

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