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忘れてはいけない「平成」の記憶(3)/松下幸之助『[新装版]決断の経営』

平成日本に生きた者として、忘れてはならない出来事を振り返る特別企画。
平成元年の段階で、売上高6兆円の世界的企業だったパナソニック。しかしその後、経営は迷走します。創業者である松下幸之助が「決断すべき立場にある者」への教訓をまとめた本書は、いまこそ手にとるべき古典であると、岩瀬達哉は語ります。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け! 新年スペシャル】
岩瀬達哉【ノンフィクション作家】

[新装版]決断の経営
[新装版]決断の経営 書影
松下幸之助 著
PHP研究所
952円+税

【日本型経営の終焉】目先の利益を求め受け継いでこなかった「理念」

 パナソニック(旧松下電器産業)の創業者である松下幸之助は、平成元年4月、94歳の生涯を閉じた。尋常小学校を4年で中退した幸之助が、夫人と義弟の3人ではじめた家族経営のささやかな作業場は、その時点で、売上高6兆円を誇る世界的企業にまで発展していた。
 しかし平成に入るやパナソニックは売り上げを落とし、経営は迷走した。
 郷党の偉人であり、「経営の神様」と称された幸之助の会社で、何が起きていたか。私は、足かけ10年にわたり、幸之助から直接薫陶を受けた人々を訪ね歩いた。そこから見えてきたものは、組織に付き物のエゴと欲望の渦巻く人事抗争だった。
 創業家の影響力を保持し、会社を支配し続けようとした松下家を代表する松下正治会長が、時代に遅れない新しい経営を行おうとしていた経営陣を一掃。3代にわたり自身に忠実な社長を起用してきたのだ。そして上級管理職たちもまた、トップの顔色をうかがい、その意向に沿った仕事をするようになる。何をすべきかではなく、誰に嫌われないかが関心事となり、正しい意思決定ができなくなっていたのである。
 このような事態を最も怖れていたのは、生前の幸之助自身だった。経営の第一線を退いた後、幸之助は「決断すべき立場にある者」への教訓を、本書にまとめた。「経営上の体験の具体例をとりあげ」、今日と違う明日を作り出す「日本型経営理念」である。
 銀行が洟もひっかけなかった時代、幸之助は人の情に訴え、好意にすがりながら市場に踏みとどまった。その苦境の中で、掴みとった経営理念だった。
 パナソニックに限らず、平成の経営者の多くもまた、目先の利益を求め、この種の「日本型経営理念」を受け継いではこなかった。鉄鋼メーカーや自動車メーカーで、各種データの改ざんが行われ、企業モラルが地に落ちた今こそ、手に取るべき古典である。

(週刊ポスト 2019.1.4 年末年始スーパーゴージャス合併号より)

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