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忘れてはいけない「平成」の記憶(5)/磯田道史『天災から日本史を読みなおす』

平成日本に生きた者として、忘れてはならない出来事を振り返る特別企画。
2011年3月11日に日本列島を襲った東日本大震災は、平成最大の事件でした。作家・嵐山光三郎が、いざというときに「一命をとりとめる」術が具体的に示されている、防災史の本を紹介します。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け! 新年スペシャル】
嵐山光三郎【作家】


天災から日本史を読みなおす

天災から日本史を読みなおす 書影
磯田道史 著
中公新書
760円+税

【東日本大震災】古文献から防災術を探し出し科学とすりあわせる

 二〇一一年の東日本大震災は日本列島にもたらされた平成最大の事件であった。地震と津波・福島第一原発事故によるパニックで、私は精神の平衡感覚を喪い、宮城県女川町や福島県相馬市をうろつき、無力感にうちのめされた。ふたたび敗戦の荒野に立って、言いようのない無常感のなかにいた。
 磯田道史著『天災から日本史を読みなおす』(中公新書)は、防災史の本である。天災を勘定に入れた日本史が編成されなければならない。東日本大震災のあと、理系の研究者による、地震や津波を解説する本が数多く出たが、この一冊は人間を主人公とする防災の必読書である。
 一七〇七年の富士山噴火は、震動は四日間、火山灰は一二日間。暗くなるほどの火山灰が降った。その実態を調べるため、数年間を浜松で生活し、「南海トラフはいつ動くのか」を、埋もれた古文献で調べた。東日本大震災後に課せられた宿題である。過去のデータから予測すると、つぎの南海トラフ地震まであと二〇年ちょっとである。これを理系の研究者のシステムとすりあわせることにより精密な対応策ができる。「相手は地球である」というのが磯田氏の覚悟で、土砂崩れの前兆である地鳴りや異臭を察知する。ヒトコトでいえば歴史のインディ・ジョーンズですね。興味ある古文献展示会があれば、自転車のペタルを踏みこんで駈けつけ、陰陽師おんみょうじ安倍晴明あべのせいめいの塚をめざして、妻が差し出すリンゴ一切れをくわえてバスターミナルへ急ぐ。
 軽やかなフットワークでスピーディー。古文書を新聞のようにスラスラと読む知力。この新書一冊を読んでおくと、いざというとき「一命をとりとめる」かもしれない。
 さて「南海トラフはいつ動くのか」「津波時の川は『三途の川』」「井戸水が枯れたら津波がくる」「東日本大震災の教訓」など、貴重な防災術が具体的に示されている。一番大事なことは「自分の命は自分で守る」という覚悟です。

(週刊ポスト 2019.1.4 年末年始スーパーゴージャス合併号より)

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