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忘れてはいけない「平成」の記憶(11)/安田浩一『ネットと愛国』

平成日本に生きた者として、忘れてはならない出来事を振り返る特別企画。
いわゆる嫌韓・嫌中に代表される、差別的・排外主義的な言動をする人々が、平成になって現れはじめました。この動きがインターネットを介して広がったことに着目した一冊を挙げ、香山リカが改めて「人権の啓発」を提唱します。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け! 新年スペシャル】
香山リカ【精神科医】

ネットと愛国
ネットと愛国 書影
安田浩一 著
講談社+α文庫 900円+税

【排外主義】古くて新しい「人権の啓発」という取り組みを

 精神医学つまりこころの医療を生業としている私にとって、「人権」はすべての治療の前提となるものだ。「人権」はふだん意識される機会が少ないからこそ、私たちは教育あるいは言論の場でその大切さを繰り返し訴え続けなければならない。
 これが昭和の基本原則だった気がするが、平成になって「あえて“人権”のタブーに挑戦」と差別的、排外主義的な言動をする人たちが現れた。その端緒が2000年代になってあらわになった嫌韓・嫌中の動きであり、それはさらに2010年代になってヘイトスピーチデモとして実体化した。在日韓国人などを「害虫」と呼び、「駆除」「殲滅」と叫びながら路上を行進する人たち。はじめて目にしたときは、とても現実の光景とは思えなかった。
 ジャーナリストの安田浩一はこの問題に早くから着目し、この“新しい形の排外主義”がインターネットを介して広まったことから『ネットと愛国』という著作にまとめた。安田が取材したのはネットで「真実に目覚めた」と語る一見まじめそうな若者だが、その彼らが集団になると朝鮮初級学校(小学校)を襲撃したり、在日を「土人」などと平気でののしったりする姿がリアルに描かれている。
 その後、差別の対象は在日や中国人だけではなく、生活保護受給者、沖縄県人、アイヌ、LGBTにも向かった。そして恐ろしいのは、こういった差別主義、排外主義は著名な評論家、与党の政治家やメディアとも共有され、いつのまにか社会のデフォルトのようになりつつある。
 東京オリンピックを控え、外国人労働者をさらに多く迎える日本で、人権を無視した排外主義が跋扈するというのは悪夢でしかない。「きれいごと」であったとしても、私たちはもう一度、改めて「ひとりひとりが大切にされる社会」を目指すべきなのではないか。良心的なメディアにも、ぜひ「人権の啓発」という古くて新しいテーマへの取り組みをお願いしたい。

(週刊ポスト 2019.1.4 年末年始スーパーゴージャス合併号より)

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