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忘れてはいけない「平成」の記憶(12)/清武英利『プライベートバンカー』

平成日本に生きた者として、忘れてはならない出来事を振り返る特別企画。
かつて一億総中流社会といわれた日本が、平成の30年で格差社会に変貌してしまったと語る経済アナリスト・森永卓郎が選んだ1冊は、富裕層の姿を詳細に記述し、本当の幸福とはなにかを考えさせるノンフィクションでした。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け! 新年スペシャル】
森永卓郎【経済アナリスト】

プライベートバンカー
プライベートバンカー 書影
清武英利 著
講談社+α文庫
900円+税

【格差拡大】お金をたくさん持つことが本当の幸福なのか

 平成を一言でいうなら、「格差拡大」の30年だと私は考えている。かつて一億総中流社会と言われた日本が、いまや米国に近い格差社会に変貌してしまった。
 ただ、格差拡大のメカニズムは、平成の前半と後半で異なっている。前半で起きたことは、正社員がリストラされて、非正規社員に転落するという下方向の格差拡大だった。その総仕上げをやったのが、小泉内閣が断行した規制緩和を中心とする構造改革だった。この点に関しては、私自身の『年収300万円時代を生き抜く経済学』でも詳しく書いたし、報道もなされてきた。
 ところが、国民にあまり知られていないのが、平成後半に起きた格差拡大だ。こちらは、富裕層が爆発的に増えるという、上方向の格差拡大だ。例えば、ワールドウェルスレポートによると、自宅や車などを含まない投資可能資産を1億1000万円以上保有する富裕層は、現在日本に316万人もおり、前年比で9・4%も増えている。ただ、彼らの存在が国民に認知されにくいのは、富裕層が自らの情報を開示しないからだ。自分の金儲けの手段や所得や保有資産を明らかにしたら、世間から袋叩きにあうので、彼らは情報を隠そうとするのだ。
 そうしたなかで、本書は、富裕層の金儲けの手段や資産運用、そして節税のやり方にいたるまで、詳細に記述したノンフィクションだ。しかも、登場する会社や人物がすべて実名なのだ。これは、相当取材に自信がないとできないことだ。金持ちの周囲は優秀な弁護士が取り巻いているので、すぐに訴えられてしまうからだ。
 相続税を回避するため、灼熱のシンガポールに移住し、ひたすら時が過ぎるのを待つ富裕層の姿を知ると、お金をたくさん持つことが、本当に幸福なのかと考えてしまう。本書は、最近文庫化され、本体で描かれた物語の後日談も収録されている。平成史を語るうえで欠くことのできない名著だ。

(週刊ポスト 2019.1.4 年末年始スーパーゴージャス合併号より)

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