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佐藤愛子『晩鐘』は長く生きる寂寥の日々を綴った最後の小説

『九十歳。何がめでたい』がベストセラーである著者が、今は亡き元夫や仲間と過ごした喜怒哀楽、長く生きる寂寥の日々を万感の思いを込めて綴った「最後の小説」。

【今を読み解くSEVEN’S LIBRARY】ブックコンシェルジュが選ぶこの一冊
●エッセイスト 斎藤由香

『晩鐘』

晩鐘

佐藤愛子

文藝春秋 1998円

本誌連載エッセイ『九十歳。何がめでたい』も大好評な直木賞作家・佐藤愛子さんが、今は亡き元夫や仲間と過ごした喜怒哀楽、長く生きる寂寥の日々を万感の思いを込めて綴った「最後の小説」。先日、本作品で第25回紫式部文学賞を受賞した。

 

人生とは何か、人を理解するとはどういうことか。

そして年を取る寂しさというものが

どんなに大変なことか。今年92歳になる

佐藤愛子先生が紡ぐ言葉は実に説得力がある

 

 

読み終わって、本を閉じるとしばらく息を整えたくなる本がある。人生とは何か、人を理解するとはどういうことか。お腹にずしんと何かが残る。佐藤愛子先生の最新作『晩鐘』はまさにそういう本だ。

 

 

「人はみな、それぞれに自分の力を精いっぱいふるって懸命に生き抜いているつもりでいるけれど、その実は目に見えぬ『時間』の力に運ばれている」

 

今年92歳になる先生が紡ぐ言葉は実に説得力がある。その昔、同人雑誌『文藝首都』で、父・北杜夫や、田畑麦彦さん、なだいなださんと一緒に活動され、田畑さんと結婚。その後、田畑さんの会社が倒産し、借金返済のために、テレビ出演、全国の講演にと飛び回ったというエピソードは「戦いすんで日が暮れて」でつとに有名だが、本書では改めて「畑中辰彦」というどうしようもない夫が、一体何者であったのか、自問しながら描かれている。夫と別れた後、小さなお嬢さんがお母さんと遊びたくて、夕食後、書斎までついてくるが、いつの間にか座布団の上で眠ってしまうシーンがある。小説家の一人娘である私には他人事ではなく、涙が止まらない。この作品のテーマは重い。しかし、悲惨ともいえる生活の中にある人間たちが実にあっけらかんとユーモラスに生き抜いているのが救いだ。それが読者に勇気をくれる。そして年を取る寂しさというものがどんなに大変なことかも書かれている。

 

「みんないなくなった。誰もいない。そして私だけがいる。‥‥(略)長生きがめでたいなんて、何も知らない者がいうことですね。長く生きるとはこういうことだったのです」

(女性セブン 2015年11月12日号より)

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