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【著者インタビュー】あの世とこの世を分かつ葬儀場で起こるドラマに感動!/長月天音『ほどなく、お別れです』

学生時代に葬儀場でアルバイトをし、ずっとそこを舞台にお話を書きたいと思っていたと語る長月天音氏。病気で夫を亡くすという悲しい経験を経て紡がれた物語は、読んだ人の心をあたたかくする感動作でした。

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葬儀場は死者と遺族の想いをつなぐ場でもあった――別離をあたたかく描く小学館文庫小説賞受賞作

『ほどなく、お別れです』
ほどなく、お別れです 書影
小学館
1300円+税
装丁/成見紀子

長月天音
05号_長月天音1
●ながつき・あまね 1977年新潟県生まれ。大正大学文学部日本語・日本文学科卒業。学生時代は古典文学を専攻した。現在は、飲食業勤務。2018年、『ほどなく、お別れです』で、第19回小学館文庫小説賞を受賞(応募時タイトル「セレモニー」を改題)しデビュー。子どもの頃から小説を書き始め、完成させたのは本作で5作目。夫が亡くなったのが9月の雨の日だったので、この「長月」というペンネームを選んだ。好きな作家は北方謙三、皆川博子。163㎝、A型。

死んだ人がどうなるかわからないけど結局、自分がどう信じたいかだと思う

 清水美空みそらは就職活動で連戦連敗中の大学四年生。半年前までアルバイトしていた葬儀場「坂東会館」の先輩から人手不足だと電話をもらい、バイトを再開する。〈半年ぶりの仕事がたとえどんなに忙しいものになろうとも、自分の居場所があるだけで救われる気がした〉からだ。
 美空はそこで、元社員で現在はフリーの葬祭ディレクターである漆原と、彼の友人で僧侶の里見と出会う。特別な事情のある葬儀を専門とする漆原は、〈“気”に敏感な〉美空の能力を、同じように霊感のある里見に教えられ、自分が担当する葬儀を手伝うよう声をかける。美空自身、はっきりとは気づいていなかったが、幼くして亡くなった美空の姉、美鳥みどりがどうやら美空のそばにいて、彼女を見守っているようなのだ。
 ベストセラー『神様のカルテ』の著者、夏川草介氏が「私の看取った患者さんは、『坂東会館』にお願いしたいです」と熱烈な推薦を寄せる2018年小学館文庫小説賞の受賞作は、著者である長月さん自身が経験した別れの悲しみから紡ぎ出された作品である。

 葬儀場をじっくり描いた小説というのがまず珍しい。〈世間のにぎわいから隔絶された、厳かな別れの儀式を行う場所、つまり、非日常の世界〉が葬儀場だ。あの世とこの世を分かつ特別な場所には、さまざまな思いを抱えて人々が交差していく。
「美空と同じように、大学時代に私も葬儀場でバイトしていたんです。新聞の求人広告で見た時給の高さにひかれて応募したんですけど、人間ドラマがすごくいっぱいある場所でした。いつかここを舞台にお話を書きたいと、ずっと思っていました。お通夜や葬儀の流れやスタッフの働き方は、実際に働いていたからこそ書けたものです」
 美空の父親の友人が経営する「坂東会館」は、東京・墨田区のスカイツリーのすぐそばにある。地下には厨房を備え、お清めの席では〈仕出しに頼らず、でき立ての温かいお料理〉が提供される。遺族が宿泊することもできる、アットホームな葬儀場だ。
 実は美空には、〈ちょっとした能力〉がある。〈他人の感情が煩わしいくらいに伝わってきたり、その場に残っている思念を感じてしまったりする〉〈一般的に霊感と呼ばれるもの〉があるのだが、美空にとってそれは、〈ないほうがいい〉力で、口外することもほとんどない。
 美空の夢に、幼くして亡くなった姉が出てくると、不思議なことが起こる。姉の死について、家族はくわしく語ろうとしないが、美空の不思議な力は姉の死とかかわりがあるらしい。
 そんな美空が、就職活動を中断してアルバイトを再開した「坂東会館」で、〈「僕には色々見えるんだよ」〉と話す僧侶の里見や、当然のように彼を認める漆原に出会い、それをきっかけに彼女は変わっていく。
「私自身には霊感や特別な力はないので実感したことはないんですけど、これまで、周りには何人も『ある』という人がいて。葬儀場で働いていたときも、誰も触っていないのに急に電気や音楽がついたり消えたりした、みたいな話はよく聞きましたし。ありえない、とは思わず、そういうことがあってもおかしくないな、というぐらいの気持ちでしょうか」

生きている限り前に進まないと

 出産を間近に控えていた妊婦や、幼い少女、まだ若い女性など、亡くなった本人にも、残された側にも思いが残る、つらい別れが小説には描かれている。宙づりにされた声にならない死者の声を聞き取るのは美空や里見だ。日ごろは寡黙な漆原が、彼らを通して汲み取った思いを遺族に伝え、ぶじ、彼らを旅立たせることができる。
「小さいお子さんや若い人の葬儀って、年配の方のときとは全然、雰囲気が違っていたんです。なんともいえないつらさや、やりきれない気持ちを慰めてあげられる人がいたらいいな、というのはずっと感じていたことでした」
 長月さん自身、2年前に夫を病気で亡くしている。1歳年上で、まだ30代の若さだった。結婚したのはスカイツリーが開業する少し前のことで、小説で描かれた土地は2人の思い出深い場所だという。
「人は死んだらどうなるんだろうって、身内を亡くした人の本をいろいろ読んだりしてずっと考えてるんですけどやっぱりわからなくて。結局、自分がどう信じたいかだと思うんです。主人が亡くなって私はすごく寂しくて、彼が見守ってくれていると思いたい。生きてるときと同じように、朝起きたら写真に向かって『おはよう』と言ったりしています。そういう経験のない人から見ると『ばかみたい』って思われるかもしれませんけど、そうすることで自分の心が救われるんです」
 印象に残る場面がある。ホールスタッフとして忙しく立ち働く美空は、空になった食器を見るたびに、こう感じるのだ。〈生きている人はどんな時でも食べなくてはいけない〉〈たとえこのような場所でも〉
「お清めの席で、さっきまで泣いていた人がすごくたくさんご飯を食べることがあるんです。それって、やっぱり生命活動なんですよね。私も、主人の病気のことでは何回も打ちのめされましたけど、不思議とあきらめる、ってことはなかったです。結婚してから何度も何度も入院と手術を繰り返して、それでもやっぱり、この入院が最後になるかもしれない、すべて終わったら楽しい生活が新たに始まるかもしれない、っていつも思っていました。生きていく、って本質的にポジティブなことで、生きている限り人は、前に進んでいかなきゃいけないんですよね」
 仕事を通してひとまわり大きく成長した美空は、卒業後の進路を変更することに。大切な家族の死も経験した後で、こんなふうに思う。
〈人を送る仕事をしているうちに、いつの間にか気づいていた。死は特別なものではなく、自分の近くにも必ず訪れるものだということに。どんなにつなぎとめたくても、するりと指の間を通り抜けてしまうものだということも〉
 葬儀の場で漆原が静かに口にする、〈ほどなく、お別れです〉という言葉。定型のようなこのせりふが、小説を読んだあとは、ひときわ厳粛で、あたたかなものに感じられるはずだ。

●構成/佐久間文子
●撮影/五十嵐美弥

(週刊ポスト 2019年2.8号より)

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