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【著者インタビュー】吉田修一『続 横道世之介』/映画化でも話題になった青春小説の金字塔に、続きがあった!

人間の温かい感情を描いてベストセラーとなり、2013年には高良健吾主演で映画化もされた青春小説『横道世之介』。その待望の続編について、著者にインタビュー!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

愛すべき「あの男」が帰ってきた! 人生のダメな時期を温かく照らす青春小説の金字塔ベストセラー、待望の続編!

『続 横道世之介』
続 横道世之介 書影
1600円+税
中央公論新社
装丁/bookwall

吉田修一
12号 吉田修一
●よしだ・しゅういち 1968年長崎生まれ。法政大学経営学部卒。97年『最後の息子』で文學界新人賞を受賞しデビュー。02年には『パレード』で山本周五郎賞、『パーク・ライフ』で芥川賞を受賞。07年『悪人』で毎日出版文化賞と大佛次郎賞、10年『横道世之介』で柴田錬三郎賞、19年『国宝』で芸術選奨文部科学大臣賞。著書は他に『東京湾景』『さよなら渓谷』『太陽は動かない』『怒り』『橋を渡る』『犯罪小説集』等。映画化作品多数。174㌢、68㌔、O型。

いい話も笑える話もそうと意識しないところに生まれる気が僕はするんです

 人間の温かい感情を描いた人気作で、13年に高良健吾主演で映画化もされた吉田修一著『横道世之介』(09年)には、続きがあった!
 舞台は長崎から上京し、恋と友情とサンバサークルに熱中する18歳の世之介を描いた前作の6年後。留年が元でバブル最後の売り手市場を逃し、バイトとパチンコで食い繋ぐ24歳の彼が、社会の片隅でもがきつつも、その人の好さと押しの弱さで周囲に少なからぬ影響を与えていく姿が、93年当時の風俗と共に描かれる。
 が、私たちは前作で知っている。彼が後に報道カメラマンとなり、ある日、駅のホームから転落した女性を助けようとして命を落としたことを。そう。本作はそんな彼だから過ごしえた、善意、、の青春小説なのだ。

「この作品は映画が本当に素晴らしかったですし、世之介ってホント読者に愛されてるなあと、僕自身実感する10年間でした。ただ続編執筆は全く頭になくて。中公が創刊する小説誌での長編を依頼された時に、創刊号なんて荷が重いな、誰か伴走者がいないかなあと思ったら、いたんです、世之介が(笑い)。編集者もみんな驚いていましたが、たぶん誰より僕が、彼に会いたかったんだと思います」
 作中に〈人生のダメな時期、万歳〉とあるが、昼は品川にある社員5名の海藻問屋、夜は新宿のバーで働く世之介は、同じ留年組で〈山二證券〉に入社した〈コモロン〉と飲んでは愚痴り合い、休日はパチンコ屋に朝から並んで、不愛想女〈浜本〉と台を取り合う毎日だ。
「前回の世之介は上京したての学生で、初めてのバイトや一人暮らしなど、読者も共有できる体験が多い年齢の話でした。他にそういう時期ってないかなと考えた時に、誰しもうまく行かない時期ってあるよなあと思って。僕は世之介とは同郷の同世代ですし、僕自身も93年頃は何をやっても、本当にダメだったんで」
 現在の生活圏は池袋。ある時、近所の床屋で浜本と遭遇し、鮨職人を夢見る彼女が男社会を生き抜くべく頭を刈る覚悟だと知った世之介は、その散髪に立ち会うことに。そして27年後、晴れて銀座に鮨屋を構えた浜本が彼のことを思い出す時、東京五輪の狂騒の中に世之介はもういないのだ。
 本書では93年と2020年の東京の景色とが交互に描かれ、両者をつなぐのは世之介を知る人々に残された有形無形の遺産、、だ。特にコモロン宅の向かいに住む〈日吉桜子〉とは、息子〈亮太〉の窮地を救って以来親しくなり、小岩で修理工場を営む彼女の実家で同居したこともあった。
 元ヤンの桜子とはなぜか気が合い、共通の趣味はスーパーめぐり。それを見た浜本が言う。〈なんかさ、すでにゴール切ってる感じする〉〈みんな、いろんな夢を追ってるじゃない。でも、結局、そのゴールってさ、こうやって楽しそうにスーパーでちらし鮨買ったり、美味しかった焼肉のタレ、探したりすることなんじゃないかな〉
「僕もこの場面は大好きで、世之介って特にいいことはしてないんですよ。だって浜ちゃんが修業先で苛められているらしいと聞いた時、ヤツは様子を見に行くと言いつつ、結局忘れるんです。でもそれで逆に彼女は世之介に会いやすくなるわけで、いい話も笑える話も、そうと意識しないところに僕は生まれる気がするんです」

良くも悪くも運任せな鷹揚さ

 思えば彼がいた時代に〈価格破壊〉〈引きこもり〉といった言葉もまた生まれ、善良であることがますます難しくなる時、彼が〈悪意〉をどう処理するかは目から鱗が落ちるほど衝撃的だ。
 バイト先の社長主催のバーベキューに参加した際、家族連れで来た経理の〈早乙女さん〉から、〈天真爛漫キャラで、社長に取り入ろうとしてる〉と世之介は嫌味を言われる。だがそれを愚痴る彼にコモロンは〈社長のまえでヘーコラしてる父親の姿を子供たちに見せたいか〉〈早乙女さんはもうその覚悟をしたんだ〉と言い、ハッとした矢先、彼は社内で起きた盗難の嫌疑をかけられるのだ。〈何もかもが一気にさめて、そこに悪意だけがポツンと残った〉〈この盗難騒ぎが早乙女さんの仕組んだことだったとしたら〉〈これは早乙女さんの悪意になる〉〈ただ、世之介はとっさにそれを手放した。手放してテーブルに置いた。置いた途端、なぜか、それは誰のものでもなくなった〉
「もちろんこれは逃げでもある。でもよく言えば人の悪意を責めずに受け止めているとも言える。昔の日本人って何かに身を委ねたり人を信じてみたり、良くも悪くも運任せな部分があったでしょ。そういう鷹揚さを彼はまだ持っている。悪意が人を脅かし、自分本位でギスギスした空気に覆われる一歩手前のところにいた世之介的な軽やかさに、だから僕らは余計憧れるのかもしれません」
 27年後、マラソンの日本代表には、日吉亮太の名が。その雄姿をそれぞれの場所で見守るコモロンや浜本や桜子の現在には世之介と過ごした日々が鮮明な残像を残し、ある人は書く。〈世の中がどんなに理不尽でも、どんなに悔しい思いをしても、やっぱり善良であることを諦めちゃいけない。そう強く思うんです〉と。
「善良であれとは言えない、でも諦めたくはないという、ギリギリの祈り、、ですよね。たぶんそれも、役に立つことは何もせずとも傍にはいてくれた世之介の遺産。僕自身その時々の伴走者の存在に、今はまだ気づいてないだけかもしれません」

●構成/橋本紀子
●撮影/三島正

(週刊ポスト 2019年4.5号より)

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